第九話下の上 勇者
【エマ・リスモンを誘い出すオンドレア】
ふふふ。遠征で衛兵も最小限。手薄でしたので買収も余裕でしたわ~! それに運よくエマもギルドで一人。ダンジョンに誘い出してボコボコにして釘を刺して差し上げますわ!
「貴方がエマ・リスモンね! 私はオンドレア! 想一郎様の婚約者よ!」
「あ、はい! 初めましてオンドレア様! いつもお世話になっております!」
「単刀直入に言うわ! 私とパーティーを組みなさい!」
「え? あ、でも……私の様な者でよろしいのですか……?」
「早くなさい! これは命令よ!」
「あ、はい! オンドレア様!」
ふふふ。押しに弱い子ね! しかしどうやって想一郎様に取り入ったのかしら? くぅ! 考えただけで、へそから茶が湧きそうですわ!
(※へそから茶は湧きません)
あとは適当にうだつの上がらない奴を入れて、さぁダンジョン! 私もレベルが上がっててサクサクですわ! なんてこともないわね! 新調した蠅叩き丸(斧)を使うまでもないわ!
(※オンドレアはパーティーに入る経験値だけでレベルが上がっていた!)
(くっ! このお嬢様、寄生虫かよ! 何もしねぇ!)
(シッ! 聞かれるぞ? なんてったって本国の貴族様だからな!)
「あら? 何か言いまして?」
『『いえ! 何でもございません!』』
はぁダンジョンもこうして見ると、余裕ですわね。ガンガン進んで今日だけでもう5階層ですわ!
(※遠征でモンスターが手薄になっているだけです)
「オンドレア様? 私達のレベルではこの辺が限界かと……」
「あらあらぁ~ビビってるのかしら?」
すると、階層に似つかわしくない貧相なゴブリンが一匹。
「ウッキースマァァァァァイルッ!」
「「「────ッ!」」」
あら? 何なのかしらこのゴブリン。バカみたいな叫び声あげてビビりまくりじゃない!
『『なぜここにこいつが!?』』
うだつの上がらない冒険者は驚いた顔を見合わせ言った。
『『三十六計逃げるに如かず! さよなら~!』』
「あっ! ちょ! まちなさいよ!」
「あわわ……早く逃げましょう! オンドレア様!」
「オンドレア様……? キキキキキキッ! ラッキースマァァァイル!」
はぁ? 何がラッキースマイルなのかしら? 馬鹿なの? まぁアホのゴブリンらしいわね! しかし見た瞬間逃げ出すなんて。そんなに強いゴブリンなのかしら?
「早く逃げましょう! オンドレア様! 私達ではかないません!」
「何を言っているのかわからないわ? どうして逃げるの?」
「説明は後で、早く……!」
「──駄目よ。逃げないわ! “勇者”は、“勇敢”であったからこそ“勇者”なのよっ!」
【ダンジョン入口で新兵新米冒険者まとめて訓示するディンゴ准将】
「よ~しお前ら! “無謀”と“勇敢”は一緒じゃないからな! かっこつけて“無謀”する奴は真っ先に死ぬ“アホ勇者”だと良く覚えておけッ!」
『『『サーイエッサー!』』』
士気が高いのは良い事なんだが、無謀する奴が出そうで恐ろしい。可愛い奴らだからこそなおさら心配だ。今の所戦は連戦連勝だが、いつか負ける事だってある。重要なのは麻雀もそうだが、絶妙な押し引きで、それを行える冷静な危機管理能力だ……!
──しかしアリス。彼女は練兵には向かないな。
「え、えっとっ! こうしてこう……うわ~っとして、うりゃ~って!」
『『『──え?』』』
(((何言ってるかわからない! でもなんだか癒されるっ!)))
すると何やらダンジョンの中が騒がしくなる。そしてうだつの上がらない冒険者が飛び出してきて必死の喧騒で叫んだ!
『大変だ! 大変だ──ッ! ダンジョンにあのウッキースマイルが現れたぞ──ッッ!!』
「──な、なんだって!?」
共産化したドワーフ連邦に匿われたヘンタイヌ男爵。一時期はスパイ容疑者となるもウォッカ飲み対決で切り抜けた男爵は故郷を目指す!
南はオークで危険。南西はやる気のない魔王軍がいる。と言う事で北西のウッドエルフの領地へ向かう。が、途中、“ドワーフ人民最大の敵”とされるドラゴン、“ルーデリオン”の住処を通らねばならなかった!
「どうした? 何故止まる?」
『シッ! まて……10メートル位なら大丈夫か? ──おいお前! 試しに行ってみろ!』
『──よし!』
命令に駆け出すドワーフの兵卒。だが
──ボアァァァァァアアアッ!
『──ギャァァァァァア!』
『『『────ッ!?』』』
「な、なんとっ!」
『お母ちゃ~ん! 帰りたいよ~!(泣』
──物陰から物陰へ、僅か10メートルでドラゴンブレスされた!




