第九話上 冒険
【遠征を成し遂げた想一郎】
俺達は帝国軍と共闘し、ボボンギャマッチョやウッキースマイルを取り逃がしはしたものの、遂にオークゴブリン連合軍の前哨基地の占拠に成功した。
攻城戦にもならずに容易く落ちた。
そしてあのテリヤキオーク軍とバターゴブリン軍に初めての投降者が現れた。だが、そのオークに待ち受けていたのは帝国の奴隷になるという過酷なものだった。しかもゴブリンに至っては信用できないと、その場で全員処刑された。
オークの前哨基地は帝国によって略奪を受け、今では一番高い所に帝国の旗が“ここは帝国の領地だ”と言わんばかりに荒野の風を受け翻っている。
オークゴブリン連合軍の保有してたバターはすべて戦勝の宴で消費され、すべての醤油は将兵へ分配されたが、しかしその他の戦利品は殆ど帝国に持っていかれてしまった。
『だめだ! ここは元は帝国領! 奴らの財産はすべて帝国に帰属する! 醤油で我慢しろ!』
『おいおい! 醤油でがまんって! ずるいぞ!』
『これは上官の命令だ! 悪いが帰ってくれ!』
『くそ……今晩は奴らに見せつける様に醤油ラーメンを食ってやる!』
『よし! 飯テロだ! 飯テロ!』
『『『ウェーイ!』』』
うちの将兵達は不満を募らせ始めている。俺は帝国と揉めたくないし、同盟の打診を受けたいと思っている。
ダンジョン辺境伯が帝国と同盟すると言う事の意味は重大だ。俺達の領土どころか、ファンセイヌ王国自体が旧帝国領である為だ。
つまり帝国はファンセイヌに領土請求権を持っている。だがここで同盟しておけば、少なくともその期間はその領土紛争は下火となる!
なので俺は将兵らをなだめる為に、別に褒章を与えるとつい安請負してしまった。俺は将兵達に言う。
「この前哨基地を帝国の領土とするならば、ここより東の呪われし荒野は帝国に任せよう。俺達はジェンヌへ帰還する! 道中存分に帝国観光しまくって帰ったら俺が別に褒章を取らせよう!」
『『『ウェーイ!』』』
将兵達は、俺が言うのならと手を引いてくれた。命がけで戦った将兵に与える褒章は最重要課題だ。父の話では、勝っても与える褒章が無かった為に滅んだ国もあるというのだ……。
「ガハハ! まぁとにかく今晩の醤油ラーメンは俺が直々に作ってやるぜ! ──ジュリア! 手伝え!」
「あいよっ!」
『『『お~!!』』』
「またラーメンなのじゃか!?」
──まぁラーメンは勝手に食ってくれてかまわないが。
まだまだ問題は山積みだったが、俺は内心ほっとしている。父より受け継いだ皆のダンジョン辺境伯爵領が、少しでも平和になればと願うばかりだ。
──とにかくこれで、敵策源地破壊の戦略目標は、帝国が肩代わりするという形で完了したのだった。
その後俺達は、同盟した帝国領の軍行権を利用して帰路に就く。また温泉につかり、すこし寄り道して芸術の街フローツェへ。
俺は婚約者のオンドレアに、土産でもと思い青く綺麗な硝子切子のゴブレットを買った。だがすぐにその土産を眺めながら溜息をつく事となる。
──またオンドレアが問題を起こしたらしい。
聞けば事後。急ぐ事もないらしいが俺達はジェンヌへ帰還した。
またも凱旋時、お祭り騒ぎとなったジェンヌ。今度は俺の名前の入ったウチワを持った女性達が涙ながらに迎えてくれる。俺は内心苦笑しながらも手を上げ期待に応える。
『『『キャーーーーッッ(><;!!』』』
「おお~! 想一郎! モテ期到来だな!」
「にゃ~まるでアイドルじゃのう……」
「やめてくれ……変な気分になる……」
このディンゴとナウススの弄りはしばらく続きそうだ……。
それより俺はお祭り騒ぎも休む間もなく倒壊した公衆浴場を視察した。俺の所に入って来た情報は何処までが本当で嘘なのか分らない。
とにかく俺の耳に入って来たのは、オンドレアが“俺の為”にファンクラブを作り、ヴァンパイアであり俺のファンだという例のサングイア・フォン・ミューヘ女公爵を“誘い出した”。
そこをルーカス・フォン・シュワルツファウ伯爵と半神だった俺の自称妹アリスがワープしてきて“皆で叩こうとした”が、ウッキースマイルの様に逃げられてしまった……。
──なんだって!? オンドレアが俺の為に!?
「……あ~くそっ! しかしどうしてこうも俺達は逃げられっぱなしなんだ!」
「想一郎落ち着くのじゃ! 今逃げられないように大学教授と研究開発しとるのじゃ!」
「そんな事ができるのか?」
「出来る! ただ……研究資金がのう……」
「また金か……!」
「ガハハ! 世の中何でも金金金! ラーメンも昔は安かったのになぁ……! ガハハ!」
『想一郎様! 輜重大隊長兼警備憲兵大隊長兼冒険者ギルド管理官にして後方の天才アレサ・エイベル大佐がお見えです!』
ここでアレサか……嫌な予感しかしない……。
「想一郎様~。すみません~。率直に言います~。財政は破産寸前ですっ~! すみません~!」
「「「──あちゃ~!」」」
ほらやっぱり……。そりゃまぁ当然か……。
度重なる遠征費用。戦死傷保険とかの保証費用。対アンデッド換装費用。貧困救済資金。冒険者や傭兵の雇用等々。……そして将兵への褒章。むしろ良くもった方か……。
ジェンヌは金融と貿易、そしてダンジョンがもたらす莫大な財政予算がある。でなければここまで考えずに来れなかっただろう。
昔はダンジョン税と言うのがあったらしいが廃止になった。より沢山の冒険者を呼び込む為だ。ではダンジョンが如何にして財貨をもたらすのか。
単純に世界の人々が、喉から手が出る程欲しがる貴重品が手に入るのだ。魔鉱石、希少鉱石、幾らでも湧いて出るモンスターからの素材。冒険者はそれを売って生計を立て、商人はそれで貿易する。ここで税を発生させて財政予算としているのだ。
しかしそれも限界のようだ。アレサは今までよく頑張ってくれた。そのアレサが提案する。
「想一郎様~! すみません~! ダンジョン遠征しましょう~!」
紅森山家は代々金に困ったらダンジョン遠征が習わし。むしろ遠征するのだから費用が嵩むのでは?
いやいや! 大体5階層以上遠征すればむしろ黒字に転じる! 数%税と言う遠回しな集金とは違い、直で金の元が手に入るから莫大だ! 金融屋の連中もこぞって低金利で遠征費用を出資してくるだろう! 呪われし荒野の連中もここを目指すのはそれが理由かもしれないな……。
とにかく冒険者はほぼ全員志願者になると思われる。いつもそうだ。何故なら報酬もつくから安定収入となるし名声向上にもなる。そして何より冒険者ならワクワクするだろう“人類未踏破への挑戦”だ!
あと俺は、失踪した父の手掛かりになるかもしれないと期待する。
「──よしっ! ダンジョン遠征するぞ! 志願者を募れ!」
『『『ウェーイ!』』』
ダンジョンは不思議だ。入る毎にその様相を僅かに変える。そこでとある冒険者が実験した。一人が外に出て一人はダンジョンに残り再び合流できるか。なんと合流出来てしまった!
そこで冒険者は言った。
「では右の道を行こう」
「え? 右に道なんかないぞ。左へ行こう!」
「え? 左に道なんかないぞ?」
「「……え?」」




