第六話下 地下牢
【ミューヘ城の地下牢に閉じ込められたオンドレア一行のロスタエル】
──謎である。
私は鉄格子の隙間が緩すぎて普通に抜けだせる牢屋に疑問を呈する。故に慮員でありながら看守の隙をついて城を偵察している私達。しかし成果は出ていない。
現在分かっているのは城主であるサングイア・フォン・ミューヘ女公爵は不在であることと、センアハトゥ・エミグレーベンはネクロマンサーらしく死体弄りの悪趣味女である事くらいだ。
しかし、現在獄中にて私の魔法で贅沢三昧する彼女たちも謎である。
「プフフ。ロスター? お紅茶が冷めてしまいざますわよー?」
「うむ……」
「ロスタさんのお紅茶おいしいねっ! ほっと一息」
『ウギャァァァァァアアアッ!』
『ギョェェェェェェエエエッ!』
『キャァァァァァァアアアッ!』
「あぁぁ~! もうっ! あの声ホントうるさいですわねっ! 何とかならないのかしら!?」
「お姉ちゃん。調べに行っても誰もいなかった……」
──おそらくサウンドエンチャントか何かだろう。
「プフフ。ドラキュラ城だから当然の演出ですねー」
「それにこの絵! どこから見たって目で追ってきますわ! 気味が悪いですわ!」
──カメラ目線の絵は、どこから見たって目が合うのだ。当然である。
「あらあらぁ~? ところでロスタ? ずっとプルプル震えてるのはどうしてかしら?」
「──うっ! べ、別に、ちょっと肌寒いだけである! 謎である!」
「プフフ。ロスター? 手を繋いであげようかー?」
「むっ無用だ! 何故そのような! 謎である!」
ふんっ! どうせヴァンパイアも魔法の延長線でしかないのだッ!
私は妙に腹が立ったので、定期的に来る看守“空飛ぶ本”をひっつかむ。本はバサバサと暴れるも魔力でねじ伏せタイトルを確認した。
“マル秘・センアハトゥの日記”
──ほう……?
私は人の日記を見る趣味はないのだが、スパイごっご中につき、仕方なくページをめくる。
“サングイア様は私の愛する人! 愛してます愛してます愛しt(略)”
ページ一杯に書きなぐられた愛の詩。なるほどこれは……。更にページをめくるとそこには
“サングイア様は想一郎のファンとなられた模様。色々探りを入れる為ファンセイヌに潜伏中。──まったく気に入りませんわ! なので先日渾身のサキュパスを送ってやりましたわ! 想一郎め! 色狂いするがいい! アーハッハッハ!”
──日記に笑い声まで書くとは律儀な奴。謎である。気づけば皆も日記をのぞき込んでいた。
「プフフ。なーんだ……灯台元暗しー」
「お姉ちゃん?」
「──勝ったわ! センブバトゥを叩くわよっ!」
「センアハトゥだ。謎である」
(プフフ)
「フッ! ヒーローは遅れたころにやってくるッ!」
「「「──ッ!?」」」
「フロイライン方が無事で何より。鍵はここにある。今出してやろう」
「「「──いや、普通に出れるんだけど」」」
「──えッ!?」
ルーカス・フォン・シュワルツファウ伯爵がやって来た。
【最前線で奮闘するミラ・ワーグナー】
この地はかつて兄の仕えた公爵が統治していた地。美しかったこの地は数年で見る影もない。兄はいまだに領土回復を願い、私はジェンヌへ移住し仕官した。いずれこの地に来ることになるとは思っていたが……。
尖兵のゾンビ軍団はあらかた倒しつくした。次に迫るのはスケルトン軍団だ。戦術もへったくりもない。正面切っての総力戦だ。私は剣を振り続ける。
シュワルツファウ家は黒い森の蛮族であった時から対アンデッドの祈祷師家系だ。私の血には対アンデッドの“黒い息吹”が流れている。スケルトンごときに後れを取ることはない。
だがおかしい。
スケルトンは対アンデッドの付与があっても復活して襲ってくる。わが軍は徐々に疲弊し苦戦する。 これは……おそらく魔法による操作。一見アンデッドに見えるスケルトンは、実は魔法操作によるゴーレムなのでは!? では操作している本体を倒さねばこの数は捌ききれない!
そして遂に前へ打って出てくるアルベルト・フォン・元ウィース公爵。あいつが本体なのか? 確かに強い禍々しいオーラを感じるが……。
「アデーレェェ! 貴様たちに恨みはないが打ち倒す! その後じっくりオンドレアをいたぶって! クンカクンカ~ッ! しかしわざわざそっちから来てくれるとはなっ! 言われずとも行って攻め滅ぼしたところを! クンカクンカ~!」
復讐に燃える彼はもはや狂人と化している。迫るスケルトンをなで斬りにする私は自然と彼との一騎打ちにもつれ込んだ! 常人とは思えないほどの魔法の数々! だが私の鎧は物理にも魔法に高い耐性を誇っている!
「ほう……貴様、名は何という?」
「私の名はミラ・ワーグナー! 元シュワルツファウ家の者だ!」
「なるほど。だがしかし──」
──ガッキーン!
な、何という力! あの細身の体からは想像も絶する怪力!
「助太刀するぞミラ!」
想一郎様!
「悪魔に魂を売って力を得るとは! そこまで落ちたのじゃか! アルベルト!」
ナウスス様!
「ガハハ! 貴様を冷やし中華にしてやる!」
ディンゴ准将!
【ブーブー文句言いつつもセンアハトゥの元へ向かうオンドレア】
さぁサキュパスの出元を割り出しましたわよ! センアッハーンだかセンハトハトだか、まったく覚えづらい名前ね!
──叩き潰しますわ!
(にしてもキモイ城ですわ!)
(我が故郷を奪いし者! 右手と左目が今にも暴走しそうだッ!)
(装備の回収は済んだ。しかし牢屋と言い警備と言い、緩すぎで謎である)
(不思議な迷路だらけだったけど、壁破壊でどうにかなっちゃったっ!)
(シッ! この先の最上階に奴はどうやらいるようですよー? プフフ)
「おや? 外が騒がしいですわ。馬鹿な人間どもね。私を何とかしないとあのスケルトンゴーレムは何度でも蘇って私にサンプルを提供するだけですのに……アーハッハッハ!」
(プフフ! 説明乙~! で、どうしますー? 奇襲するー?)
必要ないわ!
──バーン!
「さぁ観念なさい! 高笑いもほどほどに、ひたすら愛を書き殴るセンズリトゥ! 説得舌戦も必要ないわ! 叩き潰しに来ましたわよ! 覚悟しなさい!」
(あーお姉ちゃん凸ちゃった……)
「──あ、あぁぁぁああ!! 日記読んだわね!? 人のプライベートを!」
(なら看守にするなよープフフ)
「て、なーんちゃって~! 誘い出したのよ! アルベルトにはかわいそうだけど、襲われればサンプルにする大儀名分がたつでしょ?」
「「「えー……」」」
「さぁやっておしまい! 私たちの実験体達! アーハッハッハ!」
──しかしアリスちゃんは完膚なきまでにシバキ倒した。
「う、うぐっ……何なのこの強さ……」
(プフフ)
(相変わらず謎の強さである)
「オ~ホッホッホ! さぁ蹴落とすわよ! ドロップキック!」
「アァァァァア! て、私は飛べるのよ~! 甘いわ! 今日はこの辺にしといてあげるわ! ごきげんあそばせ! アーハッハッハ!」
──あ! ずるいっ!
センズリトゥに翼がニョキニョキ生えて飛んで行ってしまう!
「ま、待ちなさい!」
「──お姉ちゃん斧貸して?」
あ、あらあらぁ~? 私は思わず婚約破壊丸をアリスちゃんへ。すると投げましたわぁ~!
「えいっ!」
──ドスッ!
「アアアァァァァァァ──ッ!」
「落ちていった。謎である」
(プフフ)
そしてルーカスはジョジョ立ちして言った。
「フッ! 俺が本気を出せばこの通りだッ!」
「「「──おめぇーは何もしてねぇーだろ!」」」
【圧倒的アルベルト・フォン・元ウィース公爵】
「ハッハッハ! ハーッハッハッハ!」
笑いが止まらない! この圧倒的力! 魔力! 嗅げば嗅ぐほどに力が増す!
──クンカクンカッ!
「ぐぉぉぉ! さぁ骸骨の海で溺れ死ぬがいい!」
「クッ! これでは聖セイント骨ボーンの力も届かない!」
「ぬぅ! なんちゅー防護手段なのじゃっ!」
「このままだと冷やし中華が伸びちまうっ!」
『皆平等リクアリティーヒーリング』
『転生阻止ウンレインカーネーション』
くっ! しかし後方にいるあの女はなんだっ!? 尽きる事のない回復魔法! 兵士が死ねば即蘇生してくる! こ、これが主人公パーティーと戦うRPGボスの気持ちだというのかっ!?
──卑怯な!
「想一郎様!」
「ミラ! どうした!?」
「スケルトンの様子が!」
──ハッ!?
スケルトンゴーレムがただのスケルトンになっていく! くっ! 馬鹿め! センアハトゥ! しくじったな! だが我が力はまだまだ!
「──良かったです。これでお膳立ては整いましたね」
「──なに!?」
「さぁ魔術師の皆さん。ともに祈りましょう。『オールアンデット回し』──ッ!」
──全体ターンアンデットだとぉぉぉ!?
『『『──カ、カクカクカァ──ッ!』』』
「グァァァァアア!!」
く、くそう! このままだと!
「想一郎! いまなのじゃ!」
──キュピーン!
「ハァァァァアア! 『フェェェニィィィーックス』──ッ!」
こ、これは!? まさか想一郎! 貴様!!
「『極・楽・炎・昇・剣』───ッ!」
「──ウガァァァァァァアア!!」
──お兄様!
──え!?
──お兄様! 私よ!
──ア、アデーレ……?
──さぁ一緒に逝きましょう?
──アデーレ……わかった。なるほど。ここいらが潮時なんだな? よし逝こう……。アデーレ……!
──お兄様! 嬉しい! でも私悪魔だから──
──えっ!?
──地獄へぇぇぇぇぇえッ! フォーホッホッホ!
「ウッ、ウギャァァァァァアアアアア!!」
【アンデッド軍団を撃破した想一郎】
ディンゴとナウススは言う。
「あいつ。最後の最後まで踏んだり蹴ったりだったな……」
「なんかちょっと可哀想になって来たのじゃ……」
う~ん……。
「いえ。領土欲に目がくらんで悪魔に魂を売ればいずれこうなるのです」
フィー・イシルディル……この人も恐ろしい人だ……。しかし軍の損耗はかなり抑えられた。金貨100万枚以上の活躍かもしれない。
「──オンドレアが気になる! 急いで救出するぞ!」
「「「ウェーイ!」」」
『愛ゆえか……。センアハトゥ……また余計な事してくれたな……』
一方アベルは勉強をさぼる孤児の説得に苦労していた。
「いいかい? 帝国の皇帝は君ぐらいの年頃に猛勉強したから皇帝になれたんだ」
「でもアベル兄さん位の頃にはすでに皇帝になってたよね? そういうアベル兄さんは今何してるの?」
「──うっ!」




