第六話上 聖女
六話は上下で行きます。
【焦る気持ちを抑えて一旦帰還する想一郎】
ヴァンパイア領へ行ってしまった俺のトラブル婚約者オンドレア。何かあっては一大事とオーク追撃をやめ大急ぎで帰還する俺達。またも勝利したと賑わうジェンヌではあったが……。
今度の相手は普通じゃない。対アンデッド装備へ換装しなくてはならない。しかし銀製武器はコストが高く数がない。これから作る時間もない。
魔術師はいても、魔力は限りあり万全とは言えない。守るのは良くても攻めるには装備が少なすぎたのだ。
そこで出てきたのが対アンデッドに定評のあるチート聖女の情報。この情報をもたらしたのは俺をサキュパスから救ってくれた奇特な人。ルーカス・フォン・シュワルツファウ伯爵だった……!
「フッ! 俺の選球眼に間違いはない……! 聖職者は基本的に気に入らないが、彼女の力は本物だ! 頼るべきだろう……フッ!」
選球眼? 野球の話か?
「それにしてもじゃ。お主またズボンのチャック開いているのじゃ!」
ナウススが指摘。また?
「──おおっつ!?」
(あれ!? 閉まらない! 壊れた! くそっ! これだから安物はッ!)
──大丈夫だろうか?
彼は情報を提供すると、多額の褒章と引き換えにオンドレアの安全を誓って一足先にヴァンパイア領へ向かった。
背に腹は代えられない。人命がかかっている。今は猫の手だって借りたい。そして俺は情報通りジェンヌの貧困街へやって来た。
「わけあって娼婦男娼になった者たちか。しかし不衛生極まりないな。おいしい冷やし中華はあるだろうか?」
まじめな顔して言うディンゴ……そういやラーメンはどうなった? と、言うより、もう食べの物の話はいいだろう……。しかしここの現実は……統治者として胸引き裂かれる思いだ。
俺は孤児院兼救済院の門を叩く。すると気持ち悪い程歯が真っ白な、満面の笑みの男性が現れた。
「チート聖女と呼ばれるお方に、ご協力をお願いしに来たのだが……」
「あ~! これはこれは想一郎様。私は種無しアベル。ご案内いたしましょう」
彼は察したのか、すぐに案内される俺達。
──種なし……?
「──実は私、元騎士でしてね。色々あって放浪している所を拾われたんですよ。今では聖女様のお手伝いをさせてもらっています。ハッハッハ!」
──何があったのだろうか?
そんな事より、聖女らしきと面会かなった俺達。彼女は積極的に話しかけてきた。
「貴方が想一郎様ですね。私の名前はフィー・イシルディル。フィーシル族の聖職者です。以後お見知りおきを。それで、何の御用でしょうか? 想一郎様」
──フィーシル族。
大昔、エルフのペットだった猫が猫人族となったとされる神聖な猫人族。
チート聖女。……確かに。物凄い大物感丸出しの神聖なオーラだ。のじゃ婆が目を丸くして驚いているのでそれと分かる。
「単刀直入に言います。これからヴァンパイア領へ行くのでご協力をお願いしたいのですが」
「いいでしょう。──ただし条件は帝国金貨100万枚(100億円)です」
「「「──ッッ!?」」」
ルーカス・フォン・シュワルツファウ伯爵の契約金100枚(100万円)に対して、この聖女は100万枚(100億円)を要求してきたッ! なんだこの差は!? 器が違いすぎるッ!
「そ、それはそれは……」
「この貧困街を救済するには少なくともその位の金額が必要なのです」
なるほど。
「わかりました。それでお願いします」
「「──想一郎!?」」
──近いうちにダンジョンへ稼ぎに出ないとな!
【従軍するチート聖女フィー・イシルディル】
貧困街のお世話はアベルさんに任せておいて、従軍する私。心配する必要はありません。アベルさんは現在私に誠実で従順です。とっても助かります。
私はアルフヘイム大学神学部出のフィーシル族(神聖猫人族)。ここのタレダル教会は腐敗が各所にあるようですが、対邪神組織として重要な機関なのです。なので私はそこに身を置きます。
ヴァンパイアのサングイア・フォン・ミューヘ女公爵は邪神の影響下から脱していると聞きますが、油断はできません。お化けはいつだって人を驚かしているのです。とにかく──
──何より可愛い男の子が怯える姿に我慢なりません。
しかし、どうにかしないととは思ってはいたものの、貧困街の件もあるし、どうにも金策がへたくそな私。
──思いっきり吹っ掛けてみたら上手くいきました。
日頃の行いの成果ですね? 想一郎様はなかなかの大器の様です。
さて、お膳立ては整いました。それではレコンキスタ(異教徒から国土回復運動)の前哨戦です。
想一郎様は行軍しヴァンパイア領へ侵入すると幽体による散発的な攻撃を受けますが、その都度対応し事なきを得ます。
するとジメジメとした肌寒く気味の悪い湿地帯に出ました。昔は綺麗な水生植物の花々が咲き誇る有名な場所だったのですが……。今では足を踏み入れれば無数の手が襲うホラー沼と化している模様です。
そして迂回経路はありません。両翼にその沼がある場所で、彼らは現れました。正面にはゾンビさんや骸骨戦士さんたちがひしめくアンデッドの軍団。
──異教徒の軍団です。
何としても彼らを成仏させてあげなくてはなりません。天国に逝くか地獄に逝くかは私たちの仕事ではありません。ですが、不死者にはきっかけを作ってあげなくてはならないのです。
アンデッドはホラー沼を移動できるのに対してこちらは通行不可です。そこで魔術師さんたちは、
『ファイアーウォールセキュリティ』
という炎の壁魔法でホラー沼を獄炎沼と化して、両軍ともに通行不可能地帯としました。それにより残された方法は正面戦闘だけとなりました。次に魔術師さんたちは対アンデッド遠距離攻撃を詠唱します。
『バーニングナパーム』
可燃性の液体を敵へ投射し燃やす魔法。
「敵陣は一気に効率の良い火葬場と化したなッ!」
と、魔術師支援大隊大佐のソフィアさん。不謹慎ですが同意です。不死者たちがどんどん召されて逝きます。私は指で“T”文字を切り祈ります。
「彼らの魂に安らぎが与えられん事を……」
──でも異教徒なら地獄逝きです。
不死化された人々が、もともとタレダル教信徒であることを祈ります。すると敵軍は、待っては無意味と正面へ殺到してきました。
第一陣は殆ど裸の破廉恥極まりない全力疾走ゾンビさんたち。物理攻撃でも何とかなるのですが腕や足がもげた位では倒せません。私は神々の加護を兵士さんたちに付与します。
「主々よ、どうか私達に悪しき不死者と戦う勇気をお与えください。『フィジカルエクソシスト』──ッッ!」
これで大丈夫です。モリモリ葬儀のお仕事を手伝ってくれる兵士さんたち。しかし、おや? 付与もどこ吹く風、物凄い無双する黒い鎧の彼女さんは?
「ナウスス様? あのお方は?」
「ミラ・ワーグナーなのじゃ!」
なるほど。
──ルーカスさんの妹さんでしたか。
アベルは孤児院で孤児たちに勉強を教えていた。
「さぁ我慢を覚えなさい。我慢しない子は偉い人になれないぞ」
「うんわかった。我慢する。アベルお兄さんみたいに種なしになりたくないし!」
「──うっ」




