第一話Aの2 国防の暁
ナウススの言う通り現在、ダンジョン辺境伯爵領は危機に瀕している。バターゴブリン軍団が地上の、呪われし荒野から進軍してくるのだ。父が居ない今、俺がこれに対処しなければならない……!
先に解説すると、ダンジョン辺境伯爵領は危険なダンジョンを内包し、南の大裂海で交易する港湾都市ジェンヌを首都に、西に宗主国のファンセイヌ王国、東に古の宗主国アクティム帝国がある。そして、北西には不死者たちが跋扈するヴァンパイアのサングイア・フォン・ミューヘ女公爵領があり、北東にはゴブリンやオーク等のひしめく呪われし荒野がある。
どちらも相当ヤバイ場所だ……。
バターゴブリン軍は、その呪われし荒野からジェンヌへ一直線に進軍を続けている。奴等に深く侵入させるとナウススの言う通り、非常に厄介なので素早く軍を召集して迎撃しなくてはならない……。
──そうして俺はすぐさま軍を招集、引き連れ、荒廃街道を北進。するとちょうど東西を結ぶ街道との交差点に、バターゴブリン軍は既に森を背に布陣を完了していた。
早い。もうここまで来ていたのか……。
侮れない程狡猾なゴブリンは正面戦闘より奇襲を好む。しかし優秀な偵察隊のお陰でそれを避けることができた我が軍は、奴等と対等に対陣することが出来た。
“馬に跨る”犬人族ディンゴは言う。
「あいつ等森を背にしてやがるな……」
鳩羽鼠色の“のじゃ婆”ナウススは語る。
「ゴブリンは狡猾な奴等じゃ。必ず退路を用意している。あの森がそうなのじゃろう」
なるほど。再びディンゴが尻尾をブンブンしながら言う。
「しかし厄介だ。森のせいで敵軍の全容がわからないし、騎兵で迂回するにしても機動力も突撃力も劣ってしまう。さらに森の奥で戦闘になっちまったら状況把握が難しくて各々の部隊で判断してもらうしかない。それに……」
それに?
「そうじゃ。想一郎。分かっていると思うが、ゴブリンとて侮る無かれ。奴等は何か企んでいるに違いないのじゃ」
確かに臭う。俺はそう言うナウススに、視線を送り相槌を打つ。
「しかし、待っていても“嫌な予感”しかしない。俺は深追い厳禁で第一、第二歩兵旅団を慎重に前進させて見たいと考えているが、どう思う?」
提案する俺に、ディンゴがより一層尻尾をブルンブルンしながら言う。
「いや、想一郎。まだ打って出るには早いぜ。怪しい干草が目の前にある時はどうする? まずは長い棒で突いて見るもんだろ?」
「長い棒で突く?」
ナウススは細長い自分の“もみあげ”をナデナデしながら言う。
「そうじゃな。ちょうど良い。新設した魔術師支援大隊の出番じゃな」
「なるほど。魔術師支援大隊か」
そう言えば、父輝彦と共にナウススがせっせと新設部隊を組織していた。それが魔術師支援大隊(アメリカ南北戦争風)。内容は特殊で、魔法の小銃を一斉射撃する革新的な魔術師銃剣中隊と、やたらとカウボーイな脳筋魔術師を馬に乗せた魔術師騎兵中隊。そして遠距離から強力な魔法で砲撃する魔術師砲撃支援中隊だ。俺は尋ねる。
「では、砲撃か……。ナウスス。まず何処を狙うのが良いと思う?」
「そうじゃな……。やはり臭うのは奴等が背にしている森じゃろうな」
「森? ガハハ! なんか面白いもんが見れそうで楽しみだ! ──おい! 魔術師大隊長のソフィア大佐を呼べ!」
『ハッ!』
ディンゴが笑顔で最寄の士官に命令する。すると向き直ったディンゴ。今度は遠めで何かを見つけ笑顔が消える。
「ん? ありゃなんだ? 何かが西から猛烈な勢いで戦場に突入してくるぞ?」
「ん?」
「あれは……」
そう言われて俺とナウススも望遠鏡を取り出し確認する。
「──ん? あれはラーメンか!?」
「ラーメンちゃうわ! 次の話に繋がるのじゃ!」




