第一話Aの1 ダンジョン辺境伯爵紅森山想一郎二世
父の輝彦三世はダンジョン・アトラス“アズ”ホールにて失踪してしまった。もう三ヶ月になる。未だ捜索を続けているが痕跡さえ出てこない。若干不審な点はあったが、あの慎重にして剣聖と呼ばれる程の父でさえもダンジョンは飲み込んでしまう……。
しかし俺はそんな不安な中でも、父の代わりとして振舞わなければならない。城の窓から街を眺めると、幸せそうな領民達の笑顔。俺は生まれ育ったこの地が大好きだし、何としてもそれを守りたい。俺は決心した。ダンジョン辺境伯爵を受け継ぐ事を!
見た目はロリであるウィザード。髪も服のコーディネートも“鳩羽鼠のナウスス・ナハメドメロン”は言う。
「想一郎。輝彦はまだ亡くなられたとは限らんのじゃが、しかしここはぐっと堪えねばならんぞ。辛いかも知れんが、我々は“時間の矢”と同様、前に進む事しか出来んのじゃ」
彼女は“何代”にも渡って紅森山家を支えてきた筆頭家老。爵位は子爵。語尾にやたらと“のじゃ”をつける典型的な“のじゃっ子高齢者”だ。しかし実際には“のじゃ”をつけて喋る人は殆どおらず、その為陰では“のじゃ婆”と呼ばれている。そんな“のじゃ婆”は多くの魔術を駆使し、様々な知識から助言をしてくれる頼もしい相談役だ。
──因みに本人は“のじゃ婆”と呼ばれている事を知らない。
続いて、軍で俺の右腕となるのが犬人族の、オーストラリアに居るディンゴっぽい、ディンゴ・ラムチェイサー准将。
「ああ、そうだな! そして越えねばならない問題がまるで山脈のように聳え立っている! ああ! なんて巨大なんだ! ガハハ! だが想一郎。越えられない壁なんて実はない! それでも心が折れそうになったら、コンクリートをスプーン三杯程呑んで、こう魔法を唱えるのさ! “俺のタマはタングステン!”ってな! 山脈かかってこいや! ガハハ!」
「──なら、登山道具を用意しないとな」
俺は、なんかうまい事言った気に一瞬なったが、すぐに恥ずかしくなって手元の戦略図を眺める。するとディンゴは犬みたいに尻尾をフリフリしながらフォローしてくれる。
「ガハハ! そのいきだ! ──所で腹減ってないか? ラーメンの出前でも取ろうかと思ってるんだが……」
……そして彼は、犬の様にいつもハラペコだ。最近はラーメンに嵌っているらしい。中々の食いしん坊だが、しかし誰よりも信頼できる絶対の忠臣でもある。駅前でご主人を死ぬまで待って居そうな程だ。犬だけに。
“のじゃ婆”ナウススは言う。
「はぁやれやれ。何を馬鹿な。今はそれ所ではないじゃろう。頭にバターを乗せた、ふざけたゴブリン共の軍勢が今迫っておるのじゃ。ゴブリンは狡猾にして滑稽。生存本能が異常に高く、領内に侵入されたら面倒ではすまされんのじゃぞ? ディンゴ。少しは危機感を持ったらどうなんじゃ!」
「あ、頭にバターだって!? ガハハ! よし、俺は味噌バターコーンラーメンにするわ! 想一郎と、かの高名なウィザードで在らせられる鳩羽鼠のナウスス様は何になされるかな?」
「何を言うか! 武士は食わねど高楊枝と云うじゃろう!」
うーん。とは言え“腹が減っては戦も出来ぬ”。俺は答えた。
「そうだな……。俺はとんこつラーメンと餃子にしよう」
「想一郎!?」
「ヨシ来た! いいね! とんこつラーメン! ジュルル」
──犬人族だからな。
骨好きだろうに。すると流れに戸惑いながらもナウススは答える。
「ぬぅ……じゃあ……チャーハンじゃ」
「チャーハンかよ! ガハハ!」
「な! チャーハンの何が悪いのじゃ!?」
「ここは空気読んでラーメンだろ!」
「わ、ワシはチャーハンが食べたいのじゃ! 何が悪い!」
「ああ~わかった! わかった! ガハハ!」
「な、何がおかしいのじゃ! ぐぬぅ……!」
俺はこうしていつも彼等に元気を貰っている。この、平凡で無礼講な感じが大好きだ。俺は再び城の外を見る。
──守らねば!
「俺はラーメンが食いたい!」
「さっき食ったばっかじゃろう!」
「らぁぁぁぁめぇぇぇぇんっっっ‼」
「ドンブリでもかじっとれ!」




