第二話Aの1 偵察隊の帰りが遅い
凄惨を極める戦いを目の当たりにされて、ご乱心になられたネイ公爵令嬢オンドレアお嬢様を後方に移送するよう護衛の騎士達に指示すると、俺はすぐさま最前線に戻った。
敵バターゴブリン軍は、中央後方の森に15000近い歩兵本体を配置していた。それを最後の最後で投入してきたのだ。これは恐らく、第一陣の尖兵を使って乱戦に持ち込み隊列を乱させ疲弊させ、最後に一気に押し切る作戦だったのだろう。
しかし優秀なミラとジュリアの第一、第二歩兵旅団の戦列は乱れなかったし、ナウススの魔術師砲撃支援中隊の砲撃は絶大だった。砲撃に関しては現状1戦闘で2回が限界のようだが……。
そして更に千生とソフィアが両翼を突破し半包囲の形勢を取ると、ソフィアの魔術師騎兵中隊は敵後方、森の中に居た、がら空きになった敵司令部を見つけ出し、大胆にもそれを急襲、撃退した。
すると敵軍は一斉に混乱してしまい、結果敵は、後方の森へ総撤退に至った。
──我が軍の勝利である。
しかし、もしその敵本体が我々の後方から急襲して来ていたら……。反省すべき点は山ほどある。とにかく我々は、またゴブリンが攻め入ってこないよう本拠地を叩く為、その痕跡を追って木の生い茂る山道を北へ北へと進軍を続ける事にした……。
道中俺は少し気がかりな事をナウススに質問する。
「ナウスス。そういえばオンドレアお嬢様はどうなった?」
「ん? ああ、大丈夫じゃよ」
するとディンゴが会話に入ってくる。
「ああ! 凄かったな! まるで惚れ薬を混ぜたウォッカをジョッキ一杯一気飲みさせたような状態だったぞ!」
「そんなにヤバイのか……!?」
おいたわしや……。
するとナウススが補足を入れてくれる。
「いやいや、それは言いすぎじゃディンゴ。それほどでもない。大丈夫じゃよ。エリザベスに一部の部隊を付させてジェンヌまで護送させておいた。それに錬金術の薬も盛られていなかったし、様々な魔術系統の痕跡も無かった。精神的な疾患でもないようじゃ。少し大人しくさせておいたがのう。……ああ~、しかしじゃな、強いて言うならばじゃ、あれは精神的な疾患とも言えなくもないが」
「所謂、恋患いだな! ガハハ!」
「字が違うが、まぁ似た様なもんじゃな! カッカッカ!」
「恋煩い? 一体誰に?」
俺がそう言うと二人どころか、回り全員が俺を見た。
「──お、俺!? いやいやいや! それは困る! 俺には“婚約者”が居るんだ……!」
…………。
「そうじゃな。想一郎。確かにお主には婚約者がおる……」
「……なぁ想一郎。その婚約者とは、愛し合ってる結果での婚約か?」
「なんでそんなこと聞くんだ……? 仕方ないじゃないか」
…………。
「う~ん。政略結婚じゃからな……」
「政略結婚? 今時? そんなのっていいのかよ!? 想一郎!」
…………。
「まぁ話を聞け、ディンゴや。想一郎はファンセイヌ王国のダンジョン辺境伯爵ではあるが、東はアクティム帝国と接している。ただでさえ北から次々と敵が来る上に、ダンジョンも抑えておかねばならないじゃろう? では、お前なら帝国とはどう接する?」
「ああ~まぁ。喧嘩する余裕なんか無いが……」
「じゃろう? 帝国とは出来るだけ仲良くしておかねばならん。ディンゴや。察してやるのじゃ。それに、政略結婚が全て愛の無い結婚とは限らんじゃろうて」
「う~ん……まぁ……。ところで、偵察の帰りが遅いな……。それにこの臭いは……」
「──偵察の帰りが遅い?」
偵察に定評のあるエリザベスはここに居ないし、ここは森の山道……。
そして微かにだが、このバターの臭い……! 俺はハッとして叫ぶ!
「ディンゴ! ナウスス! 今すぐ密集方陣隊形だ!」
「もうブックマークはいいわ!」
「どストレートですねお嬢様……」
(ここまで生き残ってる読者は非常に稀……)
「まぁそれより、この前私は面接に行ってきたのよ!」
「面接……ですか?」
(いきなりですね。なんの面接なんざましょ……?)
「したら超上から目線で、んもう! 超腹立ちましたわ!」
「面接あるあるでございますね」
「だから私、言ってやりましたわぁ~!」
「なんと仰ったのですか?」
「『これ面接ですの!?』って!」
「いや、面接ですよっ! お嬢様!」




