第二王子の誕生日パーティー4
「サミー、彼女たちが第一王女のステレと第二王女のアルムです」
貴族たちの挨拶も一段落着いた頃、ファルトの引き合わせにより、サモエドは王女二人に挨拶する機会を得た。
「サモエド・バラクと申します」
「第一王女のステレ・アーズと申しますわ」
「第二王女のアルム・アーズと申しますわ」
ステレは10歳程度で翡翠色の垂れ目の可愛らしい少女。髪は綺麗に結われており、サイドに垂らしている金髪はファルトと同じウェーブがかかっている。
肩に掛けられたショールは薄ピンク色をしていた。
アルムはステレより少しだけ身長が低く、8歳くらいだろうか。彼女もステレと同様に翡翠色の垂れ目で、口元に黒子が一つある少女。彼女はサイドに髪を垂らしていないが、前髪がふわふわと柔らかそうな金髪だった。
肩にはオレンジのショールを掛けている。
二人ともお揃いの貝殻のイヤリングをしているので、仲がとても良いことが窺えた。
「私達の事はステレ、アルムとお呼び下さい。サモエド様の事はお義姉様とお呼びしてもよろしいですか?」
ステレはずっと微笑んでいる。その温和な感じはファルトに似ているとサモエドは思う。
「では、ステレ様、アルム様と。私の事はどうかお好きに呼んでくださいませ」
「ありがとうございます、お義姉様」
ステレとアルムはにこりと笑い合うと、一歩下がった。
彼女らの陰から出てきたのはアルムよりもさらに小さいが、アクリによく似た顔立ちの少年だった。
「彼は第四王子のポリルです。私とは同母弟です」
「サモエド・バラクと申します」
サモエドはカーテシーをし、先程と同じように自己紹介をする。
するとポリルはまだ幼いにも関わらず、きちんと紳士としてのお辞儀を返した。
「第四王子のポリル・アーズです。ぼくも、義姉上と呼んでいいですか?」
「はい、ポリル殿下」
ぱああっとポリルは表情を明るくさせ、兄のファルトの腰に抱き付いた。ちなみにポリルは精一杯伸びをしてもファルトの腰ほどの身長しかない。
「兄上、ぼくは成功しました」
「そうだね、きちんと挨拶出来て偉かったよ、ポリル」
でも、とファルトはポリルの旋毛をちょんちょんと突く。
「水色のマントはどうしたんだい?着けていないと母上に叱られるよ?」
確かにポリルは王族の男子が着用する自分色のマントをしていなかった。
指摘されたポリルは慌ててきょろきょろ見回すが、辺りにそれらしきマントは見当たらない。
「君」
ファルトはポリルの護衛を担当している騎士に声をかける。
「メイドに言えば替えのマントを用意してくれると思う。ポリルを頼むよ」
騎士は敬礼をすると、ポリルの手を引いて会場を後にしていった。
「後、お義姉様に紹介していないのは、ラックお兄様だけね」
「さっき席には着いていらっしゃったから、この会場に居るとは思うのですが」
御出ましの席でファルトの隣に座っていた、黒髪の少年。太い眉をきりっと上げ、ファルトと同じ歳であるのにそれ以上の風格を感じさせた。
「ラックなら、もう退屈して部屋に戻っているかもしれないね」
苦笑するファルトに、アルムも同意する。
「ラックお兄様はファルトお兄様に対抗心剥き出しですものね」
「そうなのですか?」
「ファルトお兄様だけではありませんわ」
サモエドの疑問にステレが答えつつ、言葉を継ぎたす。
「あの人ったら、アクリお兄様やポリル。それに同母妹の私達にまで対抗心を抱いているのです」
少しうんざりした様子でアルムは
「……ラックお兄様はこの国の王になりたいそうですわ。……なれなくても、独立して他の国の王になっていそうな方ですけど」
と呟いた。
「なりそうだね、彼は」
「ええ。なりかねませんわ、あのお兄様なら」
アクリとは別の意味で困った王子なのだなとサモエドは思ってしまった。
***
相変わらず晴れ渡った青い空。つい先日までしとしとと雨が降っていたなんて、信じられない。
御不浄で席を外したファルトは護衛のハンリーを連れ、その空を回廊で見つつ、早足で会場に戻っていた。
「バラク宰相の娘か」
曲がり角で声をかけられ、ファルトは足を止めた。目の前には会場に居なかった第三王子・ラックが護衛も連れずに仁王立ちしていた。
「要領よく婚約者にしたものだな、ファルト」
「…それは、『婚約おめでとう』って言ってるの?」
苦笑するファルトに、ラックは「そう思うか?」と不機嫌そうに言った。
「宰相の娘は俺が狙っていた。後ろ盾としては申し分ないからな」
「まるでサミーを道具のように言うね」
「当たり前だろう。貴族の娘なんてものは政治の道具だ。娘の家との繋がり、世継ぎの生産、戦争では褒賞品にすらなる」
ラックの言い分は正しい為、ファルトはそれに関しては異論はない。
しかし、ファルトはサモエドをただの道具として欲したわけではないので、そこはきちんと言っておく。
「私はサミーを道具として見た事は一度もないよ」
ラックは笑う。
「それじゃアクリの兄上と同じだな」
「……心外だな。私はあそこまで周りが見えなくなってはいないよ」
「道具として割り切らなきゃ駄目なんだよ。貴族の令嬢だけじゃない、自分以外の全てをな。そうじゃないと判断が鈍る」
政治とは、綺麗ごとばかりでは決してない。それをラックは言っているのだろう。
「だからと言って、全てを道具として見做すなんて、悲しいよラック」
「国王ってのは人であってはならない。人のように悲しみで圧し潰されるなら継承権を捨てろ、ファルト」
二人はお互いの目をじっと見つめる。
「お前はな、優しすぎる。王には向いてないんだ。俺に任せろ」
ファルトは返事をしない。
「お前には重要な役職を与えてやる。あの婚約者と仲良く出来ればいいんだろう?王になるよりよっぽどか時間が取れるぞ」
「駄目だよ」
漸くファルトは口を開いた。
「だって、ラックは皆を道具として扱うんだろう?何かあったら、私もサミーも君に道具として利用される。それは了承できない」
「……そうかよ」
ラックはそれだけ言うと、ファルトの横を通りすぎ、居室の方へ歩いて行った。
ファルトも彼を追いかけることは無く、パーティー会場へと歩を進めた。
*
遡る事数十分前。
ファルトが席を外したので、サモエドは一人でパーティー会場を見て回っていた。
「お父様とお兄様は何処かしら」
特に当てがあるわけでもないので、何となく父と兄を探してみることにする。
ドーベルもシェパードも背が高いが、貴族の大人達でごった返すこの会場では、それも目印にはならない。
見苦しくない程度に辺りを見ながら歩いていると、女性の声に呼び止められた。
またファルトとの婚約の祝辞を言いに来た貴族の誰かかと振り返れば、そこに居たのは……
「……ど、なたですか?」
サモエドはぎこちなく微笑む。だって、目の前にはアクリとフィンを連れたベリー・クレトラが立っていたのだから。
「私、ベリー・クレトラよ。よろしくしたくないけど、一応よろしくね、悪役令嬢さん」
カーテシーどころか、お辞儀すらしない彼女にサモエドは固まった。
貴族の御令嬢としての規格外すぎて、どう反応していいのか分らなかったのだ。
戸惑っているサモエドに、アクリが不機嫌そうに「君」と声をかけてきた。
「ベリー嬢が名乗っているんだ、君もきちんと挨拶し名乗るのが常識だろう?」
「……サモエド、バラクと申します」
貴方の中では彼女の行動は常識内なのですか、と思いつつ王太子の命令なのでカーテシーをするサモエドに、ベリーは腕組をしてふんぞり返った。
「あの、それでご用件は?」
「ああ、そうだったわ。どや顔が気持ちよすぎて忘れてた」
ベリーは腕組を解くと、左手を腰に当て、もう一方の手でサモエドに向かって指さした。
「貴女がとった私のファルトを返して欲しいの」
「……はあ」
「ファルトは私の大事なお友達なの。それともシナリオ通り悪役令嬢としてヒロインと争ってみたりする?でもね、そうしたら貴女は破滅しちゃうわよ?」
「……はあ」
「私って結構優しいでしょ?だからこうして貴女に破滅しなくて良いよって助言してるってわけ。わかるよね?だから大人しく返してくれないかな」
「……はあ」
「さっきから要領の得ない返事ばかりだね、バラク公爵令嬢。君は何も考えることが出来ない子供なのかい?」
サモエドは対処の方法が分からないので、対人用の微笑みで曖昧な相槌を打っていたが、外野のアクリが気に入らなかったようだ。
アクリはベリーの前に出ると、厳しい目でサモエドを見る。
「僕の事は知っているよね?」
「勿論ですわ」
「僕はね、この国の安寧と発展の為、日夜模索しているのだよ。つまり、僕の言葉は全てこの国の為に繋がる物と考えて欲しい」
ピッとサモエドを指さす。
「バラク・サモエド。君を国外追放にする」




