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公爵令嬢参る!  作者: まちせん
第一章 王立学園の毒
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第二王子の誕生日パーティー3

アーズ国は建国当時より、騎士団長にはオノクル公爵家の当主が選ばれる事が慣習となっている。


その為、オノクル公爵家の当主には必ずしも嫡男がなるわけではなく、何ともわかりやすい実力主義の家で、数代前には女傑が当主となった事もあった。

つまり次男のフィンも、実力さえあればオノクル公爵となり、騎士団長となれるのだ。


ベリーに誓ったあの日から、フィンは兄を出し抜き当主になる為に鍛錬を積んでいた。

まあ鍛錬とは言っても、寮の周りを毎朝一周ランニングしている程度ではあるが。

そもそも今まで何度も父や兄から鍛錬に誘われていたにも拘わらず、言い訳ばかりしてサボっていた彼に、いきなり兵士に交じっての本格的な鍛錬は無理だった。


体術の面で兄を抜く事は不可能だろうと流石にフィンでも分かる。だから彼は頭脳を養う事にした。

オノクル家秘蔵の、『これまでの戦いで用いられてきた作戦術をまとめた覚え書き』を授業の合間に熱心に読んでいるフィンの姿がここ最近あったのは、それが理由だった。


そしてそれを見守るのはアクリだ。


「君の熱心な様には感服するよ。将来、僕の剣となって頑張って欲しい」


フィンは慌てて席から立ち上がると、少しだけ様になってきた敬礼をしてみせた。

「必ずや俺が騎士団長となり、殿下やベリー様のいらっしゃるこのアーズ国の安寧を守ります!」

そんな頼もしい言葉を聞いて満足したのか、アクリは何度も頷いた。

「遠くない未来、心優しき妃と忠臣に支えられ、僕は幸せな王となるだろう」

「殿下…!」




そう語り合って間もなくの、第二王子の誕生日パーティー。


何と王太子であるアクリの護衛に、兄のハンリーではなく、フィンが抜擢されたのだ!


この吉報にフィンは大喜びする!


自分は認められたのだ!

こんなにも早くに認められるなんて、才能としか言えないだろう!


兄の悔しそうな顔を見たくて、父が去った後に呼びかけたが、彼はいつもと変わらない穏やかな表情をしていて「きちんと務めるんだぞ」と応援までしてきたではないか。


ははは!やせ我慢をしているな?

幼少の頃から鍛錬し勝ち得た地位を、今まで鍛錬をサボっていた弟の俺にあっさり奪い去られ、悔しくて悔しくて仕方ないだろうに!

才能の差さ!努力は才能に勝てはしないってことだ!


自尊心を膨らませ、兄を嘲るように笑った後、フィンは胸を張ってアクリの居室へと向かった。


アクリの居室の扉をノックをすると、アクリではなく女性の声が「どうぞ~」と入室の許可を出してきた。

「この声は…!」

気が急くままに扉を開けると、期待通りベリーが笑顔で迎えてくれる。


きらきらと美しい亜麻色の髪を靡かせ、薄ピンクのドレスを纏ったフィンの女神!


女神は躊躇なくフィンの両手を握る。そして

「わわわ!やっぱりフィンがアクリの護衛に選ばれたんだね?おめでとう!」

騎士団長への第一歩だね!とぶんぶんと握りあった手を上下に振った。


「当然の結果だよ、ベリー嬢」

ソファに腰を掛け、二人の様子を微笑ましそうに見ていたアクリは、紅茶カップを優雅な仕草で弄ぶ。

「神は弛まぬ努力をしている者を無碍にすることは出来ないだろう?僕も神に同意だよ」


ああ…!!


フィンは天を仰ぐ。


この方が未来の国王陛下で良かった!


(そして、未来では臣下になるであろう俺の慶事を、まるで自分事のように喜んでくれる貴女の存在が何よりも尊いと思います、ベリー様!)


フィンはまさに幸せな夢の中にいる気持ちだった。



***



時間を知らせるメイドの来訪により、アクリ達は部屋からホールへと舞台を移す。


そして、国王陛下の御出座し前の舞台裏で、一悶着が起きた。

事の発端は、アクリがベリーを王族の席に連れて行こうとしたが、それを咎めた侍従によって彼女は貴族の待機所へと放り込まれてしまったことだった。

その行為にアクリとフィンが憤慨し、その侍従を詰め寄ったのだ。


「彼女は僕の大事な女性なんだよ?……君の名前を訊いておこうか。勿論顔も覚えさせてもらうよ」

「将来の王妃になる方をぞんざいに扱うとは、不敬ですよ」


騒ぐ二人を遠巻きにしながら、他の王族達もやってくる。


彼らに好奇の目を向けたのは、まだまだ子供な王女二人だった。

「お母さま、またアクリお兄様が騒いでいらっしゃるわ。あら、今日の護衛はハンリーじゃないのね?」

「ふふふ、遂にファルトお兄様にハンリーを奪われたのね。それにしても学園では幼稚に戻る授業でもしているのかしら?まるで子供みたい」

「貴女たち、はしたないですよ。……それよりも」

側室は扇で顔を目の下まで隠しながら、目線を『彼女』に向ける。

母の目線を辿った王女は、第二王子・ファルトの連れた婚約者を目に入れると、パッと視線を母に戻した。

「バラク公爵令嬢、サモエド様ですね」

「貴女達はアクリ殿下とその寵愛相手ではなく、これからはファルト殿下とその婚約者のサモエドさんを重要視しなさい」

「わかりましたわ、お母さま」


側室と王女のひそひそ話を耳に入れながら、護衛として国王の後ろに付いているオノクル騎士団長は途方に暮れていた。


「父上、あの侍従は礼儀がなっておりません。解雇した方がよろしいかと」


アクリが遂に一番の権力者である国王に絡み始めたのだ。

流石に王太子を排除することもできず、オノクルは殿下を諌めろと息子のフィンに目で合図するが……勿論フィンが気付くはずもなく。そもそもフィンも王太子に加勢している始末。

アクリたっての希望でアクリの護衛に任命したが、ここまで次男坊が使えないとは思わなかった、などとオノクルは頭を抱えたくなった。


一方、国王は顎の髭に手を遣りながら「馬鹿な事を」とアクリを一瞥する。


「侍従は皆選抜されたエリート達だ。彼らに礼儀を説く事がお前如きに出来るとでも?」

「…っ」

もう良いぞ、と国王に労われた侍従は、綺麗なお辞儀をした後、そそくさと退場していった。

それを苛立ち気に見送ったアクリは声音を上げる。

「父上!彼は王族を軽視したのです、せめてお叱りの言葉を一つでも言うべきでした」

「軽視?…そう言えば王家の関係者でもない男爵令嬢を、私の許しも得ずに勝手に王族の席に招こうとした愚か者がいたな、アクリよ」

「……っ!!」


国王に睨まれたアクリは、流石に二の句が継げず、悔しそうに下を俯いた。


「さあ、客人たちが待っている。そろそろ我らも顔を出すとしよう」

国王の言葉を受け、王族の者達はアクリの横を通りすぎ、表舞台へと姿を現していく。

出遅れたアクリも、大きく息を吐き出すと、目映い光の方へと足を向けたのだった。



*



国王の話とファルトの婚約者お披露目が終わった後、王子や王女達は客人たちを持て成す為に、各々壇上から降りて交流を始めた。


皆すぐに囲まれるが、今日ばかりはファルトとサモエドを囲む貴族の人数が一番多い。


そして、壇上の席に座ったままの国王と王妃、側室が、サモエドが第二王子妃として望まれるような態度で客人達への対応をしていく様を見て、安堵する。

「サモエドさんは問題ないようですね」

王妃の言葉に、国王と側室が頷く。

「バラクの娘だからな、心配はしていなかったよ」


「ところで……」

扇で顔を隠しながら、側室は目線をサモエドから下の席に向ける。そこには、また問題を起こしているアクリの姿がある。


どうやら今度は、アクリに飛びつこうとした男爵令嬢を、騎士たちが押しのけたことで揉めているようだ。

きゃんきゃん騒いでいるベリーを見た側室が、眉を顰める。

「陛下と王妃様は王太子にアレを妻にする事をお許しになったそうですが?」

国王の居る場で髪もきちんと結わない、態度が淑女の欠片すら無いベリーは、側室の目には珍獣に映っていることだろう。


国王は「うむ」と頷く。


「アクリが王立学園を卒業してからも、あの令嬢の事を想っているのなら、結婚を認めることにした」

「……その際、やはりアクリ殿下は廃嫡に?」


「見よ」

明確な答えは避け、王はファルトを指さす。

それは宰相の娘を婚約者とし、次期騎士団長に護衛をされる姿。


「アクリからはポロポロと大事な宝石が剥がれ落ちて行くが、それをファルトは丁寧に掬っている。まあ単に第一王子の皿から落ちたモノが、その下にあった第二王子の皿に入っただけかもしれぬがな」

国王は側室に目を遣る。


「第三王子は野心家と聞くが、アクリが廃嫡となれば、名乗りあげるか?」


側室は口元だけ扇で隠し、小首を傾げた。

「ファルト殿下がいらっしゃるのにですか?」


王妃も口元を扇で隠し、ふふふと笑う。

「ラック殿下もファルトと同じ歳ですから、どうなるかはわかりませんね?」


「今は偶然にファルトの元に集まりつつある宝石だが、この先どうなるかはわからん。第三王子に実力があるなら、無理やりにでも宝石を吸いこむだろうしな」

王の言葉に、王妃と側室は貼りつけたような笑みで頷いたのだった。



壇上で物騒な会話がされているのも知らず、騎士に嫌味を言って気が済んだアクリは、呑気にベリーとフィンを連れて会場の隅へと向かった。


「どうしてこんな隅っこに行くの?」

「僕は王太子だから、機嫌を取ろうとする貴族たちにすぐに囲まれてしまうからね」

「王太子って大変ね?」


アクリは微笑み、言う。

「高貴な者として生まれてしまったからね。でも……」

彼の腕が、ベリーの背中と腰に回る。

「はわわっ?アクリ?恥ずかしいよお」

「大丈夫だよ、僕たちは今、ダンスを踊っているだけさ」


アクリはベリーの耳元で囁く


「今だけは、君に僕を独占していて欲しいな」



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