↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢参る!  作者: まちせん
第一章 王立学園の毒
30/40

第二王子の誕生日パーティー2

王宮の廊下、正装したオノクル公爵の後ろを、儀礼用の軍服を着用した二人の子息が続く。

やがて十字に交わった廊下でオノクル公爵は立ち止まると、振り返った。


「儂は国王陛下の元へ行く。お前達は護衛する殿下方の元へ行け」

「はっ!了解しました」

ピッと綺麗に敬礼をした子息に満足そうに頷くと、公爵はそのまま廊下の奥へ消えていった。

それを見送ったハンリーは護衛する殿下の居室へ向かおうと自身も歩を進めようとしたが、


「兄上」


不意に弟のフィンが話しかけてきたので、振り返った。

そこで弟が不敵な笑みを浮かべていたので、不思議そうに返事をする。

「どうかしたのか?」

「兄上ではなく、俺がアクリ王太子殿下の護衛を任されましたね」

「そうだな、きちんと務めるんだぞ」


フィンはハンリーに返事はせず、嘲るような笑みを向け、踵を返した。


弟の思惑がさっぱり分からなかったハンリーは、

「反抗期か?」

首を傾げながら、今度こそ護衛対象であるファルトの元へ向かったのだった。




ファルトの部屋の扉の前まで来たハンリーは、一つ深呼吸した後、ノックをする。


「本日、ファルト殿下の護衛をさせていただきます、ハンリー・オノクルです」

どうぞ、という返事を聞いてから、ハンリーは派手な音を立てないよう気を付けながら扉を開けた。


部屋の中では、ファルトが御令嬢とテーブルを挟んで会話を楽しんでいる途中のようだった。

「ご歓談中、失礼を……」

敬礼をするハンリーの目が御令嬢に向き、少し固まる。

「あら…貴方は」

御令嬢・サモエドの方も驚いたような顔をしていた。が、すぐに事情を察したのか、御令嬢らしい微笑みを浮かべた。


「オノクル公爵様の執事の方ではなかったのですね」

「はい、ハンリー・オノクルと申します。先日は偽名で名乗る無礼を致してしまい、申し訳ありませんでした」

「偽名?」


ファルトが事情を聞きたそうな様子だったので、ハンリーは『野菜を貰いに教会へ行った時にばったり会った』と簡潔に説明した。


「あの場に居た秋津の御令嬢にはワケあって偽名で通していたので、その流れでバラク殿にも偽名を…」

「私の方はお気になさらず。しかし何故桜様に偽名を?」

「……私の弟は、ノーマン・ターリアと親友でして……」

ノーマンの名を聞いて、サモエドは「あー…」と納得した。


「桜様はハンリー様に対して負の感情は持っていませんわ。ご存知の通り、オノクル公爵様の大ファンでいらっしゃるから」

ハンリーは苦笑しながら頷く。

「桜嬢には時期を見て、本名を伝えます」


話が一段落着くと、改めてハンリーはファルトに向かって敬礼をした。

「ファルト殿下、私に殿下の護衛をさせていただく許可を」

「はい、許可します。今日はサミーの事もお願いするよ、ハンリー」

「畏まりました」

ハンリーは敬礼を解き、ファルトの後ろに下がった。


ファルトの真向かいに座るサモエドには、丁度ハンリーの様子を窺う事が出来る。

彼は、街に繰り出した時と同様に穏やかそうな表情をしていた。


「(次期、騎士団長となられるハンリー様がファルト様を護衛……?)」


彼に護衛される事は心強い事この上ないが、普通は王太子を護衛する筈だろうに、とサモエドは思う。

しかしファルトの表情を見ても、特に変わったところは無いので、これがイレギュラーな事では無い事がわかる。


「(アクリ殿下の方は副団長とか、その辺の方が護衛をされているのかしらね)」


王族の護衛の内情に関して全く知らないサモエドは、それ以上深く考えるのは止めた。



それからすぐにメイドが時間が来た事を告げに来て、ファルトとサモエドはハンリーを伴ってパーティー会場へ向かった。



***



妹の付き添いで毎年王族のパーティーに参加していたシェパードは、今年は父親のドーベルと共に会場に立っていた。

そこに数名の貫禄ある男性貴族がやって来る。


「これはこれは、バラク卿。本日はご子息を連れているのですな?」

「ええ。いつも息子は娘のエスコートをしているのですが、遂にフラれましてね」

「ああ、聞いておりますよ。ご息女がファルト殿下と御婚約をされたとか。おめでとうございます」


今日、正式にお披露目されるんでしょうなあ、と朗らかに言う貴族の男にドーベルは曖昧に笑うと、斜め後ろに居るシェパードの背中を押して前に立たせた。


「息子のシェパードです。お見知りおきを」

「シェパード・バラクです」

まだ学生の身であるシェパードは、父親と同じ、もしくはそれよりも上の年齢の見知らぬ貴族を相手にする事は早々ないので、少し人見知りをしてしまう。

だが、父親のような宰相を目指す彼は、ここが踏ん張りどころだろうと精一杯普段通りの顔を作る。

その様子を見た貴族たちは「いやはや…」と感心したようだ。

「流石、バラク公爵家のご子息といったところですな。物怖じ一つしないとは」

「そう言って下さると、父親の私も鼻が高いですな」


満更でもなさそうなドーベルの声を聞いて、ひとまずシェパードはほっとしたのだった。



会場のざわめきが形を変える。


「おお、陛下が御出ましなさった」


話していた貴族の男の言葉を受けて、シェパードは王族が座る壇上の席に顔を向ける。


それは三段の階段で構成されていて、一番上の段の中央に国王と王妃の席が並べられ、王妃の隣から少し離れた場所に側室の席がある。その一段下に王太子、第二王子、第三王子、第四王子、王女たちの席があり、三段目には護衛騎士たちが控えている。


会場の者達の多くの目は、国王ではなく護衛騎士たちの方へ向かった。そこに場違いのように一人の美しく着飾った御令嬢が立っていたからだ。

シェパードは彼女を知っている。妹だ。


国王が手を上げると、瞬時にざわめきが収まる。


「此度は我が第二王子、ファルトの為に皆に集まってもらい、感謝する」

その言葉に、その場にいた男性貴族達は胸に手を当て礼を、女性貴族たちはカーテシーをする。


「ファルトの誕生日パーティーではあるが、もう一つ皆に報告がある。……ファルト」

名を呼ばれたファルトは頷くと席を立ち、騎士の段にいた御令嬢の手を取り、階段を上がり国王の隣に立った。


「第二王子ファルトは、ここにいるバラク公爵令嬢、サモエド・バラク嬢と正式に婚約をした事を皆に知らせる。若い二人を祝福してやってほしい」


会場は割れんばかりの拍手が沸き起こる。

それに応えるようにファルトはお辞儀を、サモエドはカーテシーをする。


「私からの話は終わりだ」


再度手を上げ、国王が区切りを付けたところで、ファルトはサモエドを連れて壇上を降りた。



シェパードはサモエドに声を掛けに行こうと思ったが、壇上を降りた二人があっという間に囲まれるのを見て、時間を置いてからにしようと思い直す。


「しかし、拍手が凄かったですね」

シェパードが隣にいる父だけに聞こえるよう言えば、「仕方あるまい」と返ってきた。


「上が阿呆な事になっているだけに、お控え様の第二王子が堅実な人物だと安心する」

会場が会場なだけに『誰が』とは言えないが、勿論王太子の事だ。


王太子の阿呆武勇伝は公になっていないが、情報収集を怠らない貴族たちは皆知っている。『公然の秘密』というやつだ。


「サミーはまだ王妃教育を続けているのですか?」

先程、自分すら緊張した初対面の年上の貴族への対応をそつなくこなしているサモエドを見ながら、シェパードが呟くとドーベルは否定した。

「サモエドはもう王太子の婚約者候補ではないからな」

しかし、と続ける。

「引き続き王族に嫁ぐ令嬢としての教育はしているがな」

名目は変われど、内容は同じなのだろう。


「……ん?」


シェパードの目の端に、あり得ないモノが見えた気がした。正式な会場で、亜麻色の髪をきちんと結いもせずに翻す、少女。

「…何故彼女が…?」

焦点を合わせれば、それは思った通りの少女の姿…ベリーだった。


「何処に家の御令嬢だ。みっともない」

ベリーの姿に気が付いた貴族の者達がひそひそと囁き合う。公式の場では少女であろうと髪を整えてくるのが常識なのだから仕方ない。

ドーベルも他の貴族同様に眉を顰めたので、シェパードは少女の正体を父にだけ明かした。


「………あれが、そうなのか」


想像以上の怪物が出てきたと言わんばかりに、ドーベルは頭を押さえる。

「しかし、何故彼女が此処にいるのでしょう。彼女はアクリ殿下の寵愛を受けているとはいえ、ファルト殿下の誕生日パーティーに招待される身ではないでしょうに」

「大方、王太子が呼んだのだろう。恥をかくのは自分や彼女だと言うのに」


ベリーは貴族の間を縫うようにして進んでいき、壇上へ登ろうとし……途中で騎士に止められた。

間もなくベリーを止めた騎士を割って入る動きがあった。どうやらアクリとフィンのようだ。

喧騒とする会場の為、彼女のやり取りは聞き取れないが、何やら揉めているようだ。


「様子を見てきます」

「いいや、近づくな。アレに関わればお前の評判に傷がつく。お前はファルト殿下妃の兄になるのだ。その事を、十分理解しなさい」

「……わかりました」

父に窘められたシェパードは、そのまま大人しく引き下がる。正直に言うと、シェパードもベリー達に近寄って、この会場にいる者達に彼女らのお仲間だと思われたくなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。