ベリー・クレトラの正体
ここ数年、ランキングにいつも載っているゲームがあった。
タイトルは『はじまりの風景』。所謂お約束的な乙女ゲーではあるが、実はこのゲーム、裏技やバグがやけに多く、動画サイトにアップされた動画で火が付き、ランキング常連になったのだった。
私は大学受験も終わり、一時の暇を持て余す高校三年の女だった。同じく受験の呪縛から解き放たれた中学三年の妹と共にゲームを漁っていた時、見つけたのが『はじまりの風景』第一部、第二部だった。
「これ動画でしか見たことなかったなー。え?いきなり一部と二部買うなんてお姉ちゃん太っ腹すぎでしょ」
「だって気になってたんだもん。動画とかは面白おかしく編集されてたけどさ、ガチでやったらかなり面白いってレビューにあったし」
購入の手続きをし、早速ダウンロードする。
第一部は男爵令嬢ベリーの物語。
没落寸前の貧乏男爵家に生まれた少女が、王立学園に入学し恋をするという王道ものだった。
「第一部なら私はアクリかな。アンタはどれが推し?」
「私は少年漫画の主人公!って子がタイプだからさー」
第一部の攻略対象は8人。
アクリ・アーズ。アーズ国の王太子。金髪王子様。
シェパード・バラク。アーズ国の宰相を父に持つ堅物。銀髪長身イケメン。
リア・ラスコー。アーズ国の公爵家嫡男の優男。栗色髪でいつもにこにこ笑っている。
リンベル・マニージャ。国境付近を守る辺境伯嫡男の筋肉もりもり男。金髪スポーツ刈り。
ノーマン・ターリア。アーズ国の侯爵家三男。口の軽いナンパ男。赤毛の長髪。
フィン・オノクル。アーズ国の騎士団長次男。騎士団長の息子ではあるが鍛えている様子はなく、中肉中背でこげ茶の髪の毛。
テュクル・ケレスン・キュマ。アーズ国と友好国のキュマ国の王子。留学生。身長は低く、藍色のサラサラな髪を持つ可愛い系。俺様ツンデレでもある。
ハイド・エレッツ。アトマ教猊下の子息。とても優しい、癒し系男子。肩まで伸ばしたクリーム色の髪と体つきが華奢なせいで、当初女の子だと間違われていた。
「主人公タイプ……フィンとか?」
「フィンは駄目!向上心の欠片も無いもん。むしろフィンのお兄さんの方がタイプだよ」
「いやいや、ベリーちゃんと交流していく中で向上心が育つから」
「最初っから向上心持ってろよって話なの。あんな途中から向上心出たとしても、最初から頑張ってるお兄さんに勝てるわけないじゃん」
妹は第二部の方を引っ張り出してきて、メインヒーローのファルトの後ろに描かれている黒髪のぼさぼさ頭の男の子を指さした。
「動画で見てた時から思ってたけど、彼が一番良い!ラック様!」
第二部の攻略対象は、第一部をプレイ済みだと変動する。第一部のセーブデータを引き継ぐ事が出来るのだ。
早く第二部のラックを攻略したいと騒ぐ妹を抑え付けながら、私は第一部をスタートさせた。
・
・
・
それから一週間。我ながらかなりのめり込んだと思う。第一部も第二部も全ストーリーを踏破し、スチルも全て集めた。
まあ、最後の辺は裏技を使って攻略しちゃったけど。
乙女ゲーとして遊びつくしたソレを妹に渡し、私はスマホを取りだした。まだ試していないバグやら裏技が無いか調べる為に。
「ん?」
調べていくうちに、都市伝説のようなサイトに行きついた。
そこにはタイトル画面でとあるコードを入力すると、新しいゲームが発生するという裏技が紹介されていた。
新しいゲームが発生するなんて、裏技の範疇なの?という疑問を持ちつつ、一応試してみようかと思った。
そして妹が第二部で満足するのを待って、その情報にあるコードを入力した瞬間……
私達は『はじまりの風景』の世界に居たのだった。
***
「やあ、ベリー。妹さんとのお買い物は楽しかったかい?」
寮に戻ってくるとすぐに出迎えてくれたのは、アクリだった。
ゲームでもそうだったが、一番好感度の高いキャラクターがこうして出迎えてくれるのだ。
束縛が強いなと思うと同時に、好きな人だから許せちゃうかな、とも思う。
「ただいま、アクリ」
衝動のままアクリに抱き付くと、彼の良い匂いが鼻腔を擽る。
はあ~~~、推しメン最高!!
どうしてゲームの世界に来ちゃったのかサッパリだし、もしかしたら夢かもしれないけど。
それでもこの瞬間が最高なのは間違いないわけで。
部屋に行くまでの廊下で次々と攻略対象の男の子達が声をかけてくる。
皆の好感度はマックス状態!これは裏技を使って手に入れたチートアイテム『魔女の針』のおかげ。
本当はチートなんか使わずに世界観を楽しんでみたかったけど、理由があって使わざるを得なかった。
でもまあ、好感度をちまちま上げていくよりも、こっちの方が手っ取り早くていっか。好感度マックスでもイベントはきちんと発生してるしね。
そんな中、私に会釈をするだけの攻略対象がいた。
シェパードとハイドだ。
最初はシェパードも私に好感度マックスだったはずなのに、最近急に余所余所しくなってしまった。
ハイドもそう。ゲームでは好感度を上げやすいキャラで、『ちょろイド』というあだ名で呼ばれるくらいだったのに。
『魔女の針』を手に入れた反動のバグか何かかな?まあ、後で好感度上げイベントを発生させれば良いか。
推しはアクリだけど、ハーレムエンドが大好きなんだよね!
部屋に入る前に、アクリに声をかけられる。
「そう言えば近々、弟の誕生日パーティーが王宮で開かれるんだ。マナーレッスンの一環として出席してみるかい?」
え?マジで?
ゲームでのマナーレッスンは、単に王宮の一室でされるだけのつまらないイベントだったのに。
「良いの?行きたい、行きた~い」
さっき雑貨屋で買った髪飾りをあげるチャンス!この調子だと第二部に行く前にファルトもさくっと攻略しちゃえるかも!
そんな軽い気持ちで了承した第二王子・ファルトの誕生日パーティーへの出席。
そこで私はショックを受けることとなる。
王宮のダンスホールの真ん中で、第二部に登場する悪役令嬢のサモエド・バラクをさも大事そうに抱きしめるファルトの姿。
「え?嘘でしょ」
何で
「彼女に二度と近づかないで下さい、兄上」
何で
「お前がそんなにも愚かだとは思わなかったよ、ファルト」
何で兄弟喧嘩してるの!?
ファルトって王太子のアクリを尊敬してるんだよね?その証拠にいつもアクリの色である青色を……、あれ?何処にも身に着けてない!
リボンもエンジ色じゃなくて山吹色になってるし!というか、エンジ色のリボン、サモエドがつけてるじゃん!え?リボン盗られたの?犯人横にいますよファルトさん!
何これ、何が起こってるの!?




