第11話 - 刃を向ける先
「なあ、お前はどっち派?」
沈黙を破ったのは当然エリックだ。エリックは話しながらも手を止めず、むき終わった芋を切り始める。
何派と何派か、とはエリックは言わなかったが、ノクスはわざわざ確認しない。昨今話題になっている派閥は、あの二つだけだ。
「どちらにも属していません。国の方針に従います」
「まあ、エクセクトレスはそうだよな」
エリックは少しつまらなそうに、切った芋を鍋に入れる。
「母上と兄上の言いたいことはわかるんだけどさ、現実問題それは無理だと思ってるんだ」
ノクスも芋を切りながら、エリックの話に耳を傾ける。
「平和のために武力が必要っていうのはさ、なにも戦争しようって言ってるわけじゃないんだ。守るための力くらいないと困るよなって話で。だって、こっちが殴らなければ相手が殴ってこないわけじゃないだろ?」
「……おっしゃるとおりだと思います」
ノクスには国同士のことはわからないが、少なくとも個人間の諍いではエリックの言うとおりだ。自分が一切手を出さなくても殴られることはある。もうだいぶ古くなった記憶の中で大人たちから受けた痛みを、ノクスはぼんやりと思い出す。
エリックの眉間に少ししわが寄る。
「こっちが武器を捨てない限り相手が武器を捨てることはないっていうのは、たしかにそうなんだけど……でもオレは、こっちが武器を捨てても相手は変わらないと思う。現に、近隣で武力放棄した国はない」
たしかにそのとおりだ。周囲の国々は皆軍を所有している。今クラリタニアは、無防備と言っても過言ではない。
「それにさ、結局この国にも武力はあるんだよ」
ノクスは顔を上げる。ノクスには、エリックの言葉が理解できていない。
(騎士……は王宮を守っているだけだ。戦えはするが、国を守るための武力としては乏しい。それとも、他国と戦えるほどではなくても武力と呼んでいる……?)
その困惑がエリックに伝わったのか、もしくは最初から言葉を続けるつもりだったのか。エリックが顔を上げ、橙色の瞳をまっすぐにノクスに向ける。
「お前たちだよ、エクセクトレス」
ノクスははっとする。エクセクトレスも国を相手にする力はない……が、エリックが言いたいことはそういうことではないとノクスは気づく。
エリックは再び視線を下げ、芋を切って鍋に優しく入れる。
「エクセクトレスはこの国の秩序を“守る”ための“武力”だ。ただ刃を向ける相手が、外国じゃなくて国内の反乱分子ってだけ。やってることは変わらない。お前たちこそが、武力なくして平和はないことの証拠だとオレは思ってる」
切る芋がなくなり、ノクスはナイフを置く。返す言葉がない……というよりは、最初から言い返すつもりはない。ただエリックの言葉は、ノクスの胸に強く響いた。
エリックもナイフを置き、ノクスにニッと笑顔を向ける。
「まあ、だからってこっちにつけって話じゃないから。オレから言い出しといて悪いけど、あんまり気にしすぎるなよ」
エリックは全ての芋を鍋に入れる。もう炊事で手伝うことはなさそうだ。
エリックはまだ休む気はないらしく、他の準備を手伝いに行く。ノクスはその後ろを歩きながら、首の布で口元を覆う。神経を周囲に集中しながらも、ノクスの頭にはエリックの話がぐるぐると回っていた。




