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平和の害獣駆除屋  作者: わしお


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第10話 - 芋むきの王子

 ぬかるんだ土を踏む音が列をなす。萌える木々が空を覆い、昼間だというのに辺りは暗い。

 普段は聞かない足音の数に、ノクスは少し落ち着かない気持ちになる。単独の任務が多いノクスは、大人数での移動に慣れていない。といっても、王子を伴う遠征に十五人は少ない方だと思うが。

 一同は通れる道を探し、時に枝を切り落としながら森の奥へと進む。馬も通れないほどの細い道と地面のぬかるみが重なり、歩みは遅い。


 クラリタニアの北西部に位置する森。鬱蒼とした木々は敵の侵入を許さず、故に「天然の要塞」と呼ばれている。そして、侵入しなかったのは敵だけではない。

 今回の目的は、森を開拓するための下調べだ。道を見つけ、地図を書き、植生や動物相を調査する……と、クレメンスから渡された依頼用紙に書いてあった。専門的なことは、ノクスにはわからない。


 ノクスはひたすら第二王子エリックの護衛に徹している。手伝った方がいいのでは……と思う場面がないわけではないが、専門外のことに手を出して、自分の任務が疎かになってはいけない。今のところ襲ってくるのは小動物だけだが、油断はできない。それにエリックは自身の護衛役を、「エクセクトレスの手練(てだ)れ一人」しか連れてこなかった。


(少し、不用心な気もするが……)


 非武装派と再軍備派の対立が激化する今、再軍備派の筆頭であるエリックは当然狙われやすい立場にある。この森を知る者は少ないとはいえ、地元の猟師くらいは道を把握している。王子が来るという情報が漏れて、先回りした者もいるかもしれない。


 ノクスはこんな森の中ですら足音を消し、エリックの短い金髪を見ながら感覚を研ぎ澄ます。

 そのとき、不意にエリックが振り返る。ノクスが真後ろにいると思っていなかったのか、エリックは大げさに肩を震わせた。


「うおぉ!? びっくりしたぁ!」

「申し訳ございません」


 ノクスは機械的な謝罪を口にする。エリックは「はぁ」とため息をつき、ポリポリと後頭部を掻く。


「いや、いいんだけどさ。護衛のために近くにいてくれてるんだろ? ただ近すぎて驚いたというか、足音がないから誰もいないかと思ったというか……」


(足音……)


 ノクスはエリックに目を向けたまま、自分の足元に意識を向ける。ノクス自身は、足音を消していた自覚はない。そういう歩き方が染みついてしまっている。


(大人数で行動するときは、足音が必要な場合があるのか)


「できるだけ足音を立てるよう、善処します」

「いや、いいよそのままで。変なところに意識向けて、護衛が疎かになっても困る。オレが慣れるわ」


 エリックは怒ることなく、笑みを浮かべる。ハツラツとしたその顔は、女王とよく似ている。


「お手数おかけします」


 ノクスは軽く一礼する。エリックは「うん」と短く返事をしてノクスに背中を向けた。


 そのまま歩き続けると、少し開けた場所に着く。エリックはその場所を一周し、一行に向き直る。


「今日はここで野営とする! 各自準備を!」

「「はっ!」」


 常に暗いためわかりづらいが、よく見たら日が傾いてきている。一同はエリックに敬礼し、すぐに野営の準備を始めた。

 エリックは準備が整うのを待つ……かと思いきや、天幕を張る人々の元へ歩いていく。


「手伝うぞ。こっちを引っ張ればいいか?」

「そ、そんな! 殿下のお手を煩わせるわけには……」

「人手は多い方が早く終わるだろ。おい、エクセクトレス! お前も手伝え!」


 エリックが天幕に目を向けたまま、背後に声を投げかける。ノクスは一瞬驚いたが、すぐに天幕の端を持った。

 天幕を張り終えたエリックは、今度は炊事担当者の方へ向かう。


「手伝えることはあるか? 芋の皮むきが途中か」

「で、殿下……!」

「大丈夫だ。家でもやってる」


 なぜ王子が家で芋の皮むきを……とノクスは思うが、そういえばフレデリックも炊事が得意だ。女王の方針なのかもしれない。

 エリックは小さなナイフを持ち、芋の皮をむき始める。その動きに迷いはなく、手慣れているのがよくわかる。


 ノクスも同じくナイフを持つ。料理は苦手だが、皮をむくだけなら得意だ。


「うわっ、お前上手いな! むいた皮が薄い! さすがエクセクトレス」


 エリックがノクスの手元を覗きこむ。そういうエリックがむいた皮も、ノクスとあまり変わらないように見える。


「殿下も十分にお上手です」

「そうだろ。母上がやらせるんだ。『王族も民の仕事を知らなければならない』って」


(やはり、女王の方針なのか)


 ノクスは納得する。王座にあぐらをかかない、女王らしい考えだ。

 エリックも不服そうではない。当然のように手を動かしている。


(なぜ、フレデリック殿下とエリック殿下は対立しているのだろうか)


 ノクスは不思議に思う。ここまでエリックと行動した限りでは、フレデリックとエリックは同じように民を思い、同じように庶民的だ。

 しかしよく考えると、非武装派も再軍備派も、目的はどちらも「平和」だ。考えが合わないのではなく、方法が異なっているだけなのかもしれない。


 そう考えながらも、ノクスがエリックに問いかけることはない。理由は単純に、身分の差だ。フレデリックからは友人のように話しかけることを許可されているが、エリックはそうではない。

 エリックとノクスの会話が途切れる。芋の皮をむく音と周囲の準備の音が、二人の時間を埋めた。

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