第7話:ドレスの仕立てと、組織論の夜
第二王子・クロードを追い払ってから数日。
公爵家の屋敷には奇妙な平穏が訪れていた。イザベラは大人しくなり、使用人たちはエレノアの一挙手一投足にビクビクしている。
俺――エレノアは、久しぶりに庭園でセドリックとお茶の時間を楽しんでいた。
華奢なドレスを着こなす俺の姿にはまだ慣れないが、お茶を飲む仕草だけは堂々としたものだ。
「……エレノア嬢。先日のクロード殿下への対応、実に鮮やかだった」
セドリックは少しだけ微笑みながら、紅茶のカップを口に運んだ。彼の灰色の瞳には、信頼の色が宿るようになっていた。
「大したことじゃねぇよ。あいつはただのチンピラだ。人を駒としてしか見られねぇような奴は、上に立つ資格がねぇ。あんたなら分かるだろ? 組織を率いるってのは、そういうことじゃない」
「……ああ。騎士団をまとめる立場として、私も同感だ」
セドリックは頷き、ふと真剣な表情になった。
「ただ、一つ懸念がある。第二王子派の貴族たちが、貴女が主催する次の夜会で何か仕掛けてくるという噂があるんだ」
「夜会、か。令嬢どものお遊戯会ってやつだな」
俺は長い銀髪をかき上げ、ため息をついた。
ヤクザの若頭として抗争や手打ちの席に出席したことは何度もあるが、貴族の夜会なんてものは初めてだ。
「エレノア嬢のドレスについてだが、我がアステリア家の息のかかった工房で、特別に一着仕立てさせた。貴女の強さを引き出せる、機能的でありながら美しいドレスだ」
セドリックがそう言って手招きすると、使用人が大きな箱を運んできた。
中に入っていたのは、上品なネイビーブルーの生地に、動きやすさを考慮されたシルエットが美しいドレスだった。ひらひらとした甘ったるいドレスとは一線を画す。
「ほう……いいセンスしてんじゃねぇか。あんた、なかなか見どころがあるな」
「貴女の気高さには、これくらいがふさわしいと思ってね」
セドリックは少しだけ耳を赤くしながらそう言った。
強面で無愛想だが、こういうところは案外気が利く男だ。俺は組の若い衆を見るような温かい目で彼を見つめた。
* * *
夜会の当日。
俺は仕立ててもらったネイビーブルーのドレスを身にまとった。
鏡に映る姿は、儚げなエレノアの顔立ちとドレスの落ち着いた雰囲気が合わさり、どこか冷たい美しさを放っている。
鏡台の前で髪を整えていると、部屋の扉がノックされ、セドリックが入ってきた。
正装した彼は、いつも以上に精悍で、周囲の騎士たちとは別格の存在感を放っている。
「……よく似合っている。エレノア嬢」
「悪くねぇよ。動きやすいし、いざとなったらナイフを隠し持つスペースもある」
俺がそう言ってニヤリと笑うと、セドリックは苦笑いを浮かべた。
「そこまで計算しているのかい? ……まあ、君らしいが。今夜は私がエスコートする。ローゼンバーグ家の看板を汚させはしない」
「ああ、頼んだぜ。筋の通らねぇ真似をする奴がいたら、俺が全部シメてやるよ」
俺たちは並んで会場へ向かう。
異世界の夜会という慣れない場だが、裏社会を生き抜いた俺の魂には、ただの「交渉の場」にしか見えない。
会場の扉を開けると、そこには華やかなドレスを着た貴族たちが群がっており、俺たちの姿を見ると、一斉にざわめき始めた。
(……さて、どいつから落とし前をつけてやろうか)
俺は青い瞳を細め、フッと不敵な笑みを浮かべた。




