第4話:裏のルートと、仁義の落とし前
「資金繰りが破綻……? どういうことだ!」
公爵が机を叩き、執事長を怒鳴りつけた。ローゼンバーグ家の裏台所事情を知る俺――エレノアは、椅子にふんぞり返ったまま、その様子を冷めた目で観察していた。
冷や汗を流す執事長と、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる商人風の男。名は、ギルバートと言ったか。この国の商人ギルドを牛耳る貴族派の傀儡だ。
「公爵様もご存知でしょう? 我々が用意した融資の条件を飲んでいただけなければ、ローゼンバーグ家の領地への食糧支援は止まります。そうなれば、領民たちは暴動を起こすでしょうな」
ギルバートは脅すような口調でそう言い放つ。
公爵は唇を噛み締め、何も言えなくなってしまった。他力本願で無能なトップの典型だ。見ていて本当に腹が立つ。
俺はゆっくりと立ち上がり、二人の前へと歩み出た。
細く白い指先で、テーブルをコツコツと叩く。
「……おい、ギルバートとか言ったな」
「ひっ……! エレノア様?」
俺が低い殺気を帯びた声を発すると、ギルバートの顔色が変わる。
エレノアの華奢な容姿からは想像もつかないドスの利いた声に、商人風情が耐えられるはずがない。
「テメェは今、我が家を脅すためにここへ来たと。つまり、俺たちに喧嘩を売っているわけだ」
「な、何を……私は商人として正当な提案を……!」
「黙れ。組のモンじゃねぇんだ、ごまかしは効かねぇよ。裏で別の貴族と手を組み、我が家の財政を意図的に干からびさせた。それを融資という名の首輪で締め付けようって魂胆だろ?」
ギルバートはギョッとして目を見開いた。図星だったらしい。
俺はふっと冷笑を浮かべた。
「金を貸す側の分際で、借りる側の首を絞めようなんざ、どこの世界のルールだ? 俺たちの世界じゃ、そんな筋の通らねぇ真似をする奴は、指一本じゃ済まねぇんだよ」
「い、意味が分かりません! 警察――いや、近衛兵を呼びますぞ!」
「呼べるもんなら呼んでみろ。だが、その前に一つ教えてやる」
俺はさらに半歩、彼との距離を詰めた。
「あんたのバックにいる貴族、誰だ? 第二王子か? それとも別の派閥のネズミか。ここで白状するなら、領地への食糧支援のルートくらいは残してやる。だが、吐かねぇなら、ローゼンバーグ家とアステリア騎士団が総出で、あんたの商会を根こそぎ潰しにかかるぜ」
「あ、アステリア騎士団……!?」
ギルバートの顔から血の気が引く。先日の会談以来、セドリック卿とのパイプができたことが、最大の抑止力として機能している。
その時、公爵が驚いたようにこちらを見た。
「エレノア、お前……一体どこでそんな知識を……」
「親父、黙っててくれ。今は交渉中だ」
俺が一喝すると、公爵は驚きで口をパクパクさせるだけで何も言えなくなった。
「さあ、どうする? ギルバート。お前の商会の帳簿、脱税の証拠はとっくに俺の頭の中にある。ここで仁義を通すか、それとも破滅を選ぶか」
ギルバートはガタガタと震え始め、ついに観念したように頭を下げた。
「わ、わかりました……! すべて話します。第二王子殿下の側近である……侯爵家の者が、裏で糸を引いているのです!」
思った通りの展開だ。王族が自ら裏工作に手を染めるなんて、三流のチンピラと同じやり口だ。
「よし。よく言った。落とし前は、あんたの商会がローゼンバーグ家に支払う『違約金』という形でつけてもらう。異議はねぇな?」
ギルバートは涙目で小さく頷くしかなかった。
(……ふん。最初のネズミ駆除は完了だ)
俺は元の席に戻り、公爵の方を向いた。
まだ呆然としている親父を横目に、俺は次なる一手を考える。
財政問題の糸口が見えた今、次は第二王子との直接対決に備えなければならない。




