第16話:東部領の屋敷と、仁義の交渉
古都の検問で立ちふさがった私兵たちを鮮やかにねじ伏せた後、俺――エレノアとセドリックは、ルキウス侯爵が滞在している東部領の屋敷へと馬車を進めた。
侯爵は第二王子派の主要な支援者であり、王国東部の利権を独占しようとしている狡猾な男だ。門の前には、近衛兵の装備を思わせる厳重な警備が敷かれていたが、俺たちの気迫に圧倒されたのか、門番たちは何も言わずに扉を開けた。
「……随分と静かだな。ネズミどもが穴に隠れてやがるか」
俺はマント付きワンピースの裾を少し持ち上げながら、応接室へと続く長い廊下を堂々と歩く。その足取りは、極道組織の若頭として数々の敵対組織の事務所へ乗り込んだ時のものと少しも変わらない。
セドリックは俺を庇うように隣に並び、灰色の瞳で周囲を鋭く観察している。
「ルキウス侯爵は狡猾な男だ。君が危険な目に遭わないか、私は心配でならないよ」
「あんた、またそれか。俺はただの飾り人形じゃねぇって何回言えば分かるんだ? クロードの時と同じだ。筋の通らねぇ真似をする奴は、俺が全部シメてやる」
俺がニヤリと笑うと、セドリックも小さく口元を緩めた。
やがて、応接室の扉が開き、そこには豪華な椅子にふんぞり返るルキウス侯爵の姿があった。
侯爵はワイングラスを傾けながら、わざとらしくため息をついた。
「アステリア騎士団長、そしてローゼンバーグ家の落ちこぼれ令嬢ではないか。わざわざこんな辺鄙なところまで、何の用だね?」
俺はソファーにどかっと腰掛け、エレノアの小さなブーツの踵で床をコツンと鳴らした。淑女の作法など気にもしない。
「何の用だ、だと? とぼけてんじゃねぇよ。この東部領で傭兵崩れを使って、アステリア家の訓練施設を襲わせたのはあんただろうが」
「……証拠はあるのかい? 貴族を侮辱するつもりか」
侯爵が冷笑を浮かべたその時、俺は懐からルキウス侯爵の名前が記された裏金の帳簿と傭兵たちの証言書を取り出し、テーブルに強く叩きつけた。
「証拠なら、とっくに揃ってるよ。傭兵どもから全部吐かせたんだ。あんたの商会を通じて資金を流し、この街の治安を意図的に干からびさせようとした」
侯爵の顔からサッと血の気が引いた。
「人を脅して領地を奪うなんて、ただの『恐喝』だろうが。あんたらのやってる裏工作は、すべて王城にも伝わる材料として揃ってるんだよ」
「き、君……! ローゼンバーグ家の小娘風情が、僕を相手に何をする気だ!」
俺は立ち上がり、侯爵の至近距離まで歩み寄った。華奢な姿から放たれる、裏社会を生き抜いた者の「殺気」が室内を支配する。
「落とし前をつける時だ。あんたの権力を全て剥奪し、我が領地に違約金を支払わせる。それが、俺たちの世界での『仁義』だ。選べ、ここで白状してケリをつけるか、それとも破滅を選ぶか」
侯爵は恐怖に顔を歪ませた。
王族を退けた若き令嬢の迫力は、彼のような温室育ちの権力者にとってあまりにも強すぎた。
さあ、いよいよ事件は最終決着へ向かおうとしている。




