第14話:黒幕の影と、仁義の落とし前
「……ふん。雑魚の駆除は終わったな」
訓練施設の床に転がる傭兵たちを冷たい目で見下ろしながら、俺――エレノアは着ていたワンピースの汚れを軽く払った。
戦闘後でありながら、俺の呼吸は全く乱れていない。
セドリックは剣を鞘に収め、周囲を警戒していた騎士たちに指示を出した後、俺の元へと歩み寄った。
「怪我はないかい、エレノア?」
「俺を誰だと思ってるんだ。これっぽっちの傷もねぇよ」
俺がニヤリと笑うと、セドリックはホッとしたように小さく微笑んだ。だが、彼の灰色の瞳にはまだ微かな懸念の色が残っている。
「彼らはただの傭兵崩れだ。だが、この訓練施設を狙う明確な理由があったはずだ……。アステリア家の機密情報か、あるいは……」
「ああ、分かってるよ。この傭兵どもを雇った奴が、まだ裏で糸を引いてるんだろうが」
俺は地面に転がっているリーダー格の男の顎を、細いブーツのつま先でクイッと持ち上げた。
「おい、吐け。誰がお前たちを雇って、ここを襲わせた?」
「く、くそ……! 言えるか!」
男は唾を吐こうとしたが、俺の殺気に当てられてビクッと肩を震わせた。ヤクザ時代、数多の敵対組織の連中を締め上げてきたこの眼力は、ファンタジー世界の傭兵にとっても恐怖の対象だ。
「ここで白状するなら、警察……いや近衛兵には引き渡さず、見逃してやるよ。だが、黙り続けるなら、あんたの商会の情報から家族の居場所まで、全部アステリア騎士団に丸裸にしてもらう。……どうする?」
男は額から冷や汗を流し、観念したように小さな声で言った。
「た、大貴族の……ルキウス侯爵だ! 彼が、アステリア家の領地を混乱させるために俺たちを雇った……!」
ルキウス侯爵。宰相派の筆頭であり、先の夜会で失脚した侯爵の兄、あるいは背後関係の黒幕そのものだ。
セドリックが険しい表情で拳を握り締めた。
「ルキウス侯爵か……! 彼は第二王子派の主要人物であり、王国東部の利権を狙っている。父上から聞いていた噂は本当だったんだな」
「親父より見せられた、典型的すぎるお家騒動……いや、お国騒動じゃねぇか」
俺は長い銀髪をかき上げ、深いため息をついた。
ヤクザの若頭として何十年も裏社会を生き抜いてきたこの魂にとって、こんな政治的な駆け引きなど三流のチンピラのやり口と同じだ。
「おい、セドリック。相手が大貴族だろうと、筋の通らねぇ真似をする奴は許せねぇな。俺たちの『仁義』を通し直す時が来たようだ」
「ああ、エレノア。君となら、どんな相手にも負ける気がしない」
セドリックの凛とした声が、山々に囲まれた訓練施設に響き渡る。
私たちはルキウス侯爵の悪事を暴くため、そしてアステリア家の名誉を守るため、次なる決戦の地へ向けて歩き出した。




