第13話:騎士団長の故郷と、仁義の特訓
婚約指輪を交わしてから数日、私たちはローゼンバーグ家の屋敷で穏やかな日々を過ごしていた。
けれど、元ヤクザの若頭である俺――エレノアの身体に染み付いた「筋を通す」という本能は、静かな生活だけでは満たされそうにない。
「……おい、セドリック。今日はずいぶんと堅い顔してるじゃないか」
庭園でお茶を飲むセドリックの眉間には、うっすらと皺が寄っていた。
彼は紅茶のカップを置き、灰色の瞳でまっすぐ私を見つめた。
「実はね、アステリア家の領内で、騎士団の訓練施設を荒らす不審な集団が出没したという報告が入ったんだ。私の故郷でもある場所でね」
「ほう……。俺たちの世界で言えば、シマを荒らされたってわけだな。そりゃあ、放っておくわけにはいかねぇな」
私がニヤリと笑うと、セドリックは少し呆れたような、けれど愛おしそうな顔で苦笑いを浮かべた。
「君は本当に肝が据わっているよ。だが、危険だ。今回は騎士たちを連れて私が直接出向く。君は屋敷で……」
「馬鹿言え。上に立つ者が現場から逃げるような組は、すぐに潰れるんだよ。俺の身体には、喧嘩のプロの魂が宿ってんだ。あんたの背中は、俺が守ってやる」
私の言葉に、セドリックは少し目を見張り、それから力強く頷いた。
「……わかった。君の覚悟、しっかりと受け止めたよ」
* * *
数時間後。
私たちはアステリア家の領地にある広大な訓練施設へと到着した。
そこは険しい山々に囲まれた場所で、凛とした冷たい空気が張り詰めている。
訓練施設の中に入ると、怪しげな黒ずくめの男たちが数人、武器を構えて待ち構えていた。彼らは第二王子派の残党が雇った傭兵崩れだろうか。
「見つけたぞ! アステリア騎士団長! ここで終わりだ!」
リーダー格の男が叫び、一斉に襲いかかってくる。
だが、俺には通用しねぇ。
俺はウェディングドレス風のワンピースの裾をサッとたくし上げると、懐から護身用のナイフを取り出した。
「……お嬢さん、喧嘩の売り方から教え直してやろうか?」
俺が低くドスの効いた声で言い放つと、男たちはその華奢な姿とのギャップに一瞬動きを止めた。その隙を逃さず、俺は重心を低く落とし、相手の懐に飛び込んで一瞬でリーダー格の男の腕関節を極めた。
「ぐわぁぁぁっ!?」
「いいか、テメェら。筋の通らねぇ真似をしていい場所と、悪い場所があるんだよ。……ここはアステリア卿の故郷だ。看板に泥を塗る奴は、俺が絶対に許さねぇ」
俺が凄まじい気迫で威圧すると、残りの男たちは恐怖に顔を歪め、武器を取り落として逃げ出した。
その後ろから、セドリックが華麗な剣技で残党の動きを完全に封じ込めた。
並び立つ二人の息はぴったりだった。元ヤクザの若頭と、鉄の騎士団長。この最強のコンビネーションに敵う者などいない。
「……見事だった、エレノア。君の戦いぶりはいつ見ても惚れ惚れするよ」
戦闘が終わり、セドリックが優しく私の頭を撫でた。
私は彼の大きな手に自分の顔をすり寄せる。
「あんたの故郷だ、これくらい当然だろう? ……さあ、アステリア卿。次へ行こうぜ」
二人の絆は、どんなトラブルがあっても決して揺るがないものになっていた。




