第12話:未来に続く誓いの指輪 〜最強令嬢のハッピーエンド〜
「――本当に家を出ていくのか?」
ローゼンバーグ家の豪華な和室(執務室)。
公爵である父が渋い顔で腕組みをしているその横で、私はウェディングドレスにも似た白いワンピースを身にまとっていた。あれから数日、私は領地の復興手続きを済ませ、正式な結婚の準備を整えていたのだ。
「はい。私は、セドリックと一緒に生きていきたいんです」
私がきっぱりとそう告げると、父は深いため息をついた。
「あいつはアステリア家の騎士団長だぞ。お前を危険な目に遭わせるかもしれないのに、それでもいいのか」
「セドリックは、どんな時でも私を守ってくれました。だから、私は彼を信じます」
私のまっすぐな瞳を見た父は、やがて小さく肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
「……まったく、いつの間にやらこんなに肝が据わったものだ。あいつなら、お前を不幸にはしないだろう。……行ってこい」
その言葉を聞いて、私は笑顔で頭を下げた。
屋敷の外に出ると、大きな白い馬車の前で、セドリックが腕組みをして立っている。
いつもと同じ銀の騎士服姿。けれど、今日はその胸ポケットに小さなピンク色のガーベラが挿してある。私を迎えに来てくれたのだ。
「……遅いぞ。待ちくたびれた」
彼はぶっきらぼうにそう言ったけれど、私を見るその瞳は、言葉以上に優しく微笑んでいた。私は彼の元へと駆け寄る。
「ごめんなさい、セドリック」
「……ちっ、まったく」
彼はそう言うと、いつものように私の手を取った。
そして、そのまま二人の新しい生活を始めるための馬車へと乗り込む。
屋敷の食卓には、セドリックが用意してくれた美味しい朝食と、窓辺に飾られたガーベラ。二人の生活が、今日からもずっと続いていく。
ふと、セドリックが制服のポケットから小さなベルベットの小箱を取り出した。
パカッと開けると、そこにはシンプルで美しいプラチナの指輪が入っている。
「……はめろ」
「えっ……これって……」
「婚約指輪だ。私の手違いで遅くなったが、君にはこれが一番似合うと思ってね」
彼の大きな指先に、少し震えながらも私は左手の薬指を差し出した。
冷たい金属の輪が、私の指にぴったりと収まる。その温もりが、彼の不器用な愛情そのものだった。
「セドリック、ありがとうございます。私、一生大切にします」
「当たり前だ。……君は私の心に刻まれた女性だ。私の傍で、一生笑っていればいい」
セドリックはそう言うと、私を引き寄せて、周りの目も気にせず深く口づけを落とした。
石鹸の匂いと、わずかな革の匂い、そして彼の体温。
異世界に転生し、最強の騎士と結ばれた私たちの関係は、最高のハッピーエンドという名の未来へと繋がっていた。
最強で不器用な騎士団長と、極道の魂を持つ公爵令嬢の甘くて危険な恋物語。
私たちの旅は、これからもずっと続いていく。




