第11話:花束と、不器用なプロポーズもどき
倉庫街での騒動から数日。
私たちの間には、以前よりもずっと柔らかい空気が流れるようになっていた。
第二王子派の不正がすべて公となり、クロード殿下は王城にて謹慎処分が言い渡された。それに伴い、ローゼンバーグ家の領地への圧力も完全に消滅し、期間限定だったはずの「お目付け役」としてのセドリックの役割も自然消滅のような形になっていた。
それなのに、セドリックは毎日ローゼンバーグ家の屋敷へ足を運ぶのだ。
公爵もすっかり彼を気に入ってしまい、今ではすっかり屋敷の常連客となっている。
「……おい、ぼーっとするな。紅茶が冷めるぞ」
庭園のテーブルには、今日も綺麗に淹れられた紅茶が置かれている。
ティーカップの横には、小さな花瓶に生けられたピンク色のガーベラが飾られていた。今朝、セドリックが不器用そうに買ってきてくれたものだ。
「ありがとうございます、セドリック。お花、すごく綺麗です」
「……あ? 花屋の店員に『お嬢さんにぴったりだ』と勧められただけだ。飾らないと枯れるだろう」
彼はそう言ってぶっきらぼうに顔を逸らしたが、その耳元がほんのりと赤い。
硬派で無愛想な騎士団長が、けれど私を喜ばせようとしてくれるその姿が、本当に愛おしい。
私は紅茶にそっとミルクを入れ、一口飲んだ。
もう苦く感じない。彼の作る甘さの中に、少しのほろ苦さが混ざっている。その味が、今の私たちの関係そのものだった。
「ねえ、セドリック。私たち、このままずっと一緒にいるんですか?」
私が何気なく尋ねると、セドリックは書類から目を離し、射抜くような鋭い灰色の瞳で私を見つめた。いつもの鉄の騎士の表情だけれど、どこか真剣な色が混ざっている。
「……君、ここを出ていきたいのかい?」
「ううん、そうじゃなくて……」
私は小さく首を振った。
彼がいない生活なんて、もう考えられない。
彼は立ち上がり、私の前まで歩み寄ってくると、大きな手で私の頬をそっと包み込んだ。鎧や鉄の匂いではなく、石鹸と彼の体温の落ち着く匂いがする。
「いいかい、エレノア。私はもう、君を他の男の傍に置く気はないよ。君は私の心に刻まれた女性だ。そのうち、私の姓を名乗らせて、ローゼンバーグの親父にも正式に挨拶に行く」
「え……それって……」
「プロポーズだ。分かったら、覚悟しておけよ」
それは言葉足らずで、少し横暴で、彼らしい不器用なプロポーズだった。
でも、彼の瞳には確かな誠実さと、一生をかけて私を守るという強い意志が宿っている。
私は胸がいっぱいになり、彼の大きな手に自分の手を重ねた。
「はい。喜んで、セドリック」
セドリックは少しだけ口元を緩め、私の額にそっと口づけを落とした。
私たちの出会いから始まった恋は、確かな絆へと変わっていた。




