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あの果てしない空の下  作者: kai
第二章
8/14

8.不死の殺戮者

『入浴中の話』


リルと共に湯船に浸かり、縁に身を預ける仁理。

仁理「アー゛......溶ける......」

リル「気持ちいーねぇ。」

仁「そういえば、リルっていくつなの?」

リ「15!」

仁「15......15!?」

仁(ゴリゴリにJCとかJKの年齢帯だ!成人男性と風呂に入るのは事案か......?心身の発達に悪影響を及ぼすのでは......?)

一方の仁理は20歳である。

そんな仁理の心配をよそに、リルは仁理に身を寄せ頬擦りする。

リ「リル、お風呂嫌い!だけど、ヒトリといっしょなら好き!」

仁(まぁ、別に良いか......)

鳥車が遠ざかっていく光景が目に入る。

「あ、有巣さん......」

瑞希の声が聞こえ、仁理は安堵する。

(巻き戻ったのか......)

「成程。此処がセーブポイントってところかな。」

その言葉に、瑞希の背筋を嫌なものが伝う。

「有巣さん......な、何回目......ですか......?」

「何が?」

瑞希は、手に持っている砂時計を見せる。

「ま、巻き戻し......」

「ん?1回目だけど。」


#15『私だけ』


「その様子だと、無堂は俺の知らない周回をしてんだろうな。何があった?」

仁理の察しの良さに、瑞希は安心した。

(持つべきものは物分かりの良い相棒ですね......)

「前々回は有巣さんの首を抱えたリルさんがお絵描きをしてて、前回は暴走したリルさんを死の淵から蘇った有巣さんがぶっ飛ばして終了です。」

「えぇグロ......ということは、リルが鍵?」

「というより、リルさんが攫われるのが鍵ですね。おそらく潜伏場所っぽい所もわかってますし、そこへ行きましょう。」

ふと、仁理の脳裏を疑問が過ぎる。

「誘拐を未然に防ぐ方が良いのでは?」

「無理です。今からでは間に合いません。有巣さんの首が飛びます。」

「そりゃ嫌だな......飛ぶのは右肩だけで十分だ。」

「右肩?」

「こっちの話。」

(有巣さんもやり直す時に色々あったんだろうなぁ......)


森の中を迷いなく走る瑞希に、仁理は感心する。

「2回しかやり直してねぇのによく覚えてるな。」

「潜伏場所に辿り着いたのは前回だけです。」

「尚のこと凄いな。やり直したのが無堂で良かった。」

(有巣さんもやり直せていれば......と言えば、残念がるでしょうね......)

その後走ること数分、2人は開けた場所に到着した。

「此処か。」

石造りの建物を見て、即入ろうとする仁理。

「待って。」

「ん?」

「おそらく、敵は姿を消す能力を持ってます。作戦会議もせず安易に入らない方が良いと思います。」

「前の周回でリルが暴走したんだろ?なら早く行って俺が止めた方がいい。」

「前回は死の淵から舞い戻った覚醒有巣仁理だったから止められたんですよ。」

「何だそれ。とにかく、このままじゃ進まないから行くぞ。ダメなら俺が砂時計を使う。」

「......はぁ。」

(もう覚悟決まっちゃってますね......)

「刀、持っとけ。」

「......はい。」

渋々、仁理に着いて行く瑞希だった。


壁に固定された鎖に繋がれているリル。

リルは、完全に意識を失っている。

「大丈夫よ。すぐ終わるからね。」

注射器を使おうとする女。その背後に、仁理と瑞希が立った。

「待て。」

「あら、どちら様?」

「こっちのセリフですよ。」

女は注射器を置き、ダガーナイフを抜く。

黒ローブの男もどこからともなく現れ、仁理と瑞希の背後に回る。

仁理と瑞希が背中合わせになった。

「私はアニア。ただのアニアよ。」

「所属は?」

食い気味に訊く仁理に、アニアは目を細める。

「肉食系は嫌いじゃないわ。けどがっつき過ぎはダメよ。」

「答えろ。所属は何処だ。」

アニアは首を横に振る。

「どこにも。私とその人の2人よ。」

敢えて“2人”を強調したことに3人目以降の可能性を感じた仁理は、咳払いで瑞希に合図しようとする。

(この言いぶりだと、3人目以降が居そうですね。咳払いのタイミング的に、有巣さんも気付いてそうです。)

「私は名乗ったわ。今度は貴方の番。」

アニアの視線は真っ直ぐ仁理を見つめている。

(にしてもホント変な人に好かれますねこの人。)

「有巣仁理。」

「アリス・ヒトリ......不思議な響きね。どっちが姓?」

「有巣が姓。」

「じゃあヒトリ君って呼ぶわね。一緒にいるその子は?」

「無堂瑞希。俺の相棒だ。」

(相棒......!案外嬉しいもんですね......)

「へぇ。妬いちゃうわ。」

「そうか。じゃあ冷やしてやるよ!!」

パン、と手を叩きそのまま掌印を結ぶ仁理。

音に触発され瑞希が男に斬り掛かる。

「四界氷結!!」

石室内が氷と高濃度の魔力で覆われる。

斬り掛かるアニア。

対して、仁理は氷で作った2本のバールで応戦する。

「変な形の武器ね!」

「そもそも武器じゃねぇよ!!」

一方、瑞希の方は男と鍔迫り合いをしていた。

「そういえば、貴方の声、一度も聞いてませんね。」

男は反応しない。

(魔力強化アリとはいえ私に劣る筋力......妙ですね。)

ダガーを弾き、刀に炎を纏わせて思いっきり振る。

すると、炎の刃が飛び、男の足下に命中して水蒸気爆発を引き起こした。

そして、蒸気に塞がれる視界の中で戦う仁理とアニア。

「案外やれるのね!」

「勘が良いんでな!!」

仁理がバールを投げ、アニアは躱す。

「どこに投げてるの?!」

「リル!目ェ覚ませ!!」

ダガーナイフが仁理の左肩を斬り落とす。

同時に蒸気が晴れ、アニアの両側から瑞希とリルが現れた。

「死ねええええ!!!」

「がああああ!!!」

瑞希はアニアの胴を斬り、リルはうなじに噛み付いた。

声を上げる暇も無く、アニアは事切れる。

「やった!」

「下がれ!!」

そして、そこに追い討ちをかけるように、仁理が氷で出来たダルマを落とし死体を押し潰した。

「はぁ!?何してるんですか!!」

「いや、吸血鬼かもしれんし、入念に。」

左腕を拾って肩に当てがい魔力で縫合する仁理。

そして、言うまでもなく治癒魔法をかける瑞希。

「ダメじゃないですか!凄いお宝とか持ってるかもしれないのに!!」

「えぇ......ロクなもん持ってねぇだろ絶対。」

周囲の氷が解け、見るも無惨なアニアの死体が露わにになる。

仁理はその辺りを氷の棒でまさぐってみるが、案の定役に立ちそうな物は見当たらない。

「ほら。」

「......うぅ......ちょっと吐いて来ますね......」

「えぇ......」


外へ出て、思いっ切り嘔吐する瑞希。

その背中をさすりながら、仁理は左肩を回していた。

「治癒魔法が使えりゃ楽なんだがな。」

左肩が切り落とされるのは2度目である。

「なんで使えねぇんだろ。」

「本気になっ、んッ......てないだけなんじゃないですかね......おぶ」

再度の嘔吐。

「無理すんな。」

リルも心配そうに見ている。

「ってか、俺1回と無堂2回か。結構あっさり終わったな。」

「あっさり、終わると思った?」

建物の方から声が聞こえ、弾かれたように振り返る仁理。

しかし、

「こっちよ。」

あと一歩反応が間に合わず、背後から胸部を貫かれる仁理。

「お前......!」

空気が漏れる音。おそらく肺に干渉している。

その時、

「ゲロパンチ!!!」

握りしめた吐瀉物を思いっきりアニアの顔にぶつける瑞希。

「なっ......に......おぇ」

アニアが嘔吐する。

「どうだ!!参ったか!!!」

「おま......それでも人間か......?」

一方、魔力で応急処置を終えた仁理。

「心臓刺されても死なない人に言われたくないです。」

「うわぁ近付くなぁ!!」

「このゲロハンドで撫でりこしてやりますよぉ♡」

「言ってる場合か!!」

刹那、アニアの攻撃により仁理の右肩が落ちた。

(速い......ッ!!)

直後、リルの爪がアニアの胸を穿つ。

「やるわね!」

アニアは咄嗟に落ちた腕の断面を踏み潰す。

「なぁ!?」

「殺す!!!」

激昂するリル。しかし、リルの爪は空を切る。

一方、アニアが振るダガーは、リルに到達する寸前で瑞希の炎により弾かれた。

「小賢しいわね!」

瞬間、仁理が懐に入り込んだ。

「なっ!?」

右肩の断面から魔力が放出される。

魔力はアニアの顔面に直撃し、鼻と口を凍結させた。

同時に、瑞希が胴を切り刻む。

倒れるアニア。その様子を見下ろす3人。

「......やったか?」

「それフラグですよ。」

「ヒトリ!」

リルが仁理に近寄る。

「腕が!」

「フッ......安いもんさ......」

「よく澄ました顔出来ますね......もう治りませんよ、それ。」

「え!?嘘!?」

「ホントですよ。アレが原型留めてないので。」

切り落とされた腕を指す瑞希。

その時、仁理がその場にしゃがみ込む。

「大丈夫じゃなさそうですね。」

「あぁ......たぶん貧血。」

明らかに顔色が悪い仁理。

「一応、治癒魔法かけますね。」

「助かる。」

その時、リルが建物の方を向いて固まった。

「あれ......」

2人も建物の方を見る。

そこには、無傷の状態のアニアが立っていた。

「......は?」

ギョッとして地面を見ると、血痕を残して死体が消えている。

「リスポーン......!!」

仁理の前に出て刀を構える瑞希。

瞬間、アニアの姿が消える。

「マズいです!有巣さん!」

振り返る瑞希。

しかし、仁理はその場に倒れていた。

「有巣さん!!!」

「ヒトリ!!」

駆け寄り仁理を揺するリル。

「ヒトリ!!起きて!!!」

心配をぐっと堪え、瑞希は周囲を警戒する。

(能力の効果がわからない......認識阻害?それとも擬態とか痕跡を消すとかそういう複合能力?)

その時、リルが瑞希を掴んだ。

「リルさん!?」

瑞希を抱えて走り出すリル。

「リルさん!!有巣さんが!!」

そこまで言って、瑞希はリルの目に涙が浮かんでいるのに気付いた。

「リルさん......」

「ヒトリが!!守れって言った!!逃げろって!!」

「有巣さん......!!」

森の中を駆けていく2人。

直後、2人の後ろで巨大な光の柱が立った。



屋敷に戻って来た2人。

「うわああああああ!!!」

瑞希の腕の中で大声を上げながら泣くリル。

そして、歯を食いしばりながら涙を流す瑞希。

「有巣さん......!」

「“アリスさん”がどうしたんだい?」

2人は声の聞こえた方に振り向く。

声の主は、白衣を着た女性だ。

「貴女は......?」

「質問に質問で返すなよ。まぁ別に良いけど。」

その時、女性が腕を振り、氷の棘を複数本、2人を囲うように出現させた。

「あら。なんでわかったの?」

突如現れたアニアに驚愕する瑞希。

「お前......!!」

「待て。」

そう言い、女性が前に出る。

「でも......!!」

「“でも”じゃあない。おそらく君たちでは彼女に勝てない。」

「あら、随分と賢いのね。」

「ああ。私は世間一般で言う所の“天才”と呼ばれる程度の知能指数を持っているからね。」

突如現れた女性の突拍子もない発言に、瑞希は思わず冷静になる。

(また変な人が出て来ましたね......)

「頭が冷えたかい?」

女性が振り向く。

「え?えぇ......まぁ......」

「よそ見しちゃダメよ!!」

と斬り掛かるアニア。

しかし直後、女性の前に展開された壁に止められた。

「防御魔法。無属性の基本技だが、使う者が少ないんだ。」

突破不可能と見るや、アニアは大きく後ろに飛び退く。

「こんなに便利な魔法なのに、皆は何故使わないのだろうね。」

瞬間、女性の指先から光線が放たれる。

アニアは華麗な動きで回避しそのまま消失。

直後、その場を静寂が包む。

「一度風呂に入ると良い。吐瀉物の匂いがする。」

鼻をつまみその場を去ろうとする女性。

「待って!」

「まだ何かあるのかい?」

「貴女は何者ですか......?」

「エイミー・クロード。ハインツの姉だよ。」



背中を丸めシャワーを浴びながら、瑞希は思案していた。

(砂時計は有巣さんに持たせてしまった。あの光が白かったということはおそらく無属性魔法だろう......もしあの光が貫通魔法なら、砂時計に刻まれた術式ごと焼かれている可能性がある。)

温水が目に染みる。

(こんなことなら......もっと有巣さんを説得しようとするべきだった......!もっと有巣さんを理解しておくべきだった......!!)


脱衣所を出ると、すぐそばにエイミーが立っていた。

「落ち着いたか?」

「......えぇ、まぁ。」

「そうか。ところで、砂時計はどうした?」

「......有巣さんが。おそらく壊れているかと。」

はぁ、とエイミーは溜め息をつく。

「まぁ、回収出来ないなら仕方ない。」

歩き出すエイミー。

「来い。今後のことを伝えよう。」


少しして、3人は屋敷地下の書庫に居た。

「屋敷の中に、こんなに大きな図書館があったなんて.........」

ね、リルさん、と瑞希は話し掛けるが、リルは俯いたまま返事をしない。

「放っておけ。人心は簡単に変えられるものじゃあない。」

少し開けた場所に椅子があり、エイミーは座れと促す。

「あの女のことを聞こうか。」

「“アニア”という名前の何者かです。リルさんと砂時計を狙っているようでした。」

「成程。他には?」

「えーっと、リルさんに注射器を使おうとしたり、殺してもすぐ生き返ったりしてました。」

「ほう?」

顎に手を当てて思案するエイミー。

「もしかすると、魔の者かもしれないね。」

「魔の者?」

「あぁ。悪魔やゾンビなんかの類だろう。奴らは浄化しなければ刺そうが潰そうが死なないからね。」

「いや、それがですね、リス......殺した場所と生き返った場所が別なんですよ。」

「ほう?それは妙だね。」

腕を組むエイミー。

「そういう祝福だ、と考えるのが一番楽だがね。だとしたら対策は存在しない。」

「ついさっきまではあったんですけどね......」

「というと?」

「その、有巣さんが触れると祝福を無効化出来るんです。」

「そういう祝福か。なら砂時計を持たせるのも納得ではあるね。しかし、君たちの態度からして、その“アリスさん”とやらはもう助からないんだろう?」

「......はい。」

「なら、打つ手無しだ。ハインツ達が戻るまで、襲撃されないことを祈りながら大人しく待機しようか。」

「......はい。」



「ッ、アァ......」

全身を激痛が襲い、思考が明瞭になってくる。

怒涛の数分間だった。何が起きたのかを逐一覚えていないくらいには。

霞む目を擦ろうとするが、右手が無いことを思い出した。

(そうだった......)

首も動かない。そのため、切り落とされた腕の在処を確認することすら出来ない。

徐々に、呼吸が浅くなってくる。

(死ぬのか、俺。)

全力で魔力を込めて守ったが、掌の感覚が無いため砂時計が無事かどうかが判らない上、ひっくり返してみることも出来ない。

しかし、仁理はただ呆然とするだけの男ではなかった。

「ッ......クッソ......」

全力で魔力を練る。貫通魔法による自爆でガタガタの全身が悲鳴を上げる。

しかし、試行錯誤を繰り返すだけの魔力は残っていた。

「ッああああ!!!」

瞬間、ふっと身体が軽くなる。

仁理は、治癒魔法のコツを完全に掴んだのだ。

全身の痛みが引き、感覚が戻って来る。

呼吸が落ち着き、深く息を吸う。

視界が明瞭になる。

砂時計は、無事だった。

「ッハハ......ツイてるな、俺。」

上体を起こし、右腕に治癒魔法を掛ける。

すると、断面の焦げ付きが取れ、腕が再生する。

「操作、極めて良かったな。」

辺りを見回す。石造りの建物は粉々に粉砕され、土台が露わになっている。

近寄る仁理。

「......おや?」

中には、巨大な魔法陣があった。

魔力は帯びていない。

「成程。そういう仕掛けか。」

寸分の迷いも無く、仁理は砂時計をひっくり返した。



#16『災禍転じて』



「あ、有巣さん......」

去って行く鳥車を見る仁理。

「無堂。リルの所へ行け。」

「......有巣さん?」

突拍子のない言動に困惑する瑞希だが、仁理が手に持っている砂時計を見て全てを察した。

「なるほど。やり直したんですね。」

仁理が砂時計と刀を渡し、瑞希が受け取る。

「リス地を爆破する。衝撃を感じたら殺せ。」

「了解。」


「リルさん。」

リルの部屋の扉を開けた瑞希。

「ミズキ?どうした?」

「すぐに襲撃があります。襲撃者は男女2人組で、刃物を持っています。」

「しゅーげき?」

「はい。ここで戦いますよ。構えてください。」

「戦う!!」

扉の方を向いて構えるリル。

一方、瑞希は窓の方を向いて抜刀する。

直後、窓が割れた。

「察しが良いわね!!」

そう言いながらリルに斬り掛かるアニア。

リルは危なげもなく回避し、喉笛に食らいつく。

「まだ殺さないでください!」

「わかた!」

力を緩めアニアを投げるリル。

対して、瑞希は男と鍔迫り合いをしている。

「目的は何なんですか!」

「教えないわよ!」


「よし。」

開けた場所に出た仁理。石造りの建物は健在である。

氷で杖を作る仁理。瞳が青く染まる。

大量の魔力を纏い、杖の先に集約させる。

「ディ・アクティベイト」

青い魔力が空間を支配する。

「エクスプロード」


衝撃が走り窓枠が音を立てる。

アニアは異変に気付いたようだ。

「まさか!?」

「リルさん!今です!!」

「わかた!!」

男の首を斬り落とす瑞希。

同時に、リルがアニアのうなじに噛み付く。

「な......んの......!!」

なんとか耐えてリルを振りほどくアニア。

しかし直後、瑞希が胸を貫いた。

「ぐ......ッ!この......ぉ!!」

「とっととくたばってくださいよ!!しつこい女は嫌われますよ!!」

刀を抜き、首を斬り落とす。

アニアの頭が鈍い音と共にその場に落ちる。

「ミズキ!」

返り血まみれだが嬉しそうに跳ねるリル。

「終わった......こんなにあっさり......」

アニアと男の身体が崩壊を始める。

力を失ってその場に座る瑞希。

「ミズキ!リルがんばったよ!!」

瑞希の前に駆け寄り耳を畳むリル。

(返り血が消えてる......)

本体と共に返り血も消える仕様だなんてとても良心的だ、と思いながら瑞希はリルを撫でる。

嬉しそうに尻尾を振るリルを見て、瑞希はほっと胸を撫で下ろす。

(終わったんですね......)



「お使いじゃんけんじゃんけんぽん!!」

瑞希の勝利。

「うわああああ!!文字読めないのにいいいい!!」

「ハハハ!大人しく替えの窓を注文して来てください!!」

「くっそおおおお!!!リル!行くぞ!!!」

「はーい!」


といった経緯で領内の村へと向かう仁理とリル。

(2回で解決出来たのは奇跡だ......それに、治癒魔法を含めればお釣りが来る。)

右手を握ったり開いたりして感触を確かめる。

(あの人らの目的わかんなかったし何の解決にもなってないような気はするが。)

「ヒトリ!ちょうちょ!!」

リルが指さす先に、掌ほどの大きさの蝶がとまっている。

「でっか。」

迷わずそれを捕まえるリル。

「おい、食べるなよ。」

「ええ〜?」

しかしリルはそれを口に運ぼうとする。

「おい!食べるなよ!ばっちいから!」

ケラケラと笑うリルに、肝を冷やす仁理だった。


「首ちょんぱ!」

首のない銅像を指さすリル。

「そうだね。」

「でっかいおうち!」

学校らしき建物を指さすリル。

「そうだね。」

そして次に、リルは女性を指さす。

「ふとっちょ!」

迷わずリルに拳骨を入れる仁理。

「ぐうう......」

「すみません!!本当にすみません!!」

「元気なのは良いことよ!気にしないで!」

その後、2人は鍛冶屋に来ていた。

「すみません、窓を注文したいんですけど。」

照明がついておらず、店に人影も見当たらない。

おや?と思い奥へ進む2人。

「すみませーん。」

返答が無い。

(嘘だろ......?)

胸騒ぎを感じながらカウンターまで来た仁理。

「誰かいませんかー?」

「いるよ。」

突如、背後から話し掛けられた。

「あぁ、良かった。」

仁理に話しかけたのは、筋骨隆々の男。

「お、驚かねぇのかい?」

「?えぇ、まぁ。」

「すげぇな兄ちゃん......いや、姉ちゃんか?」

「男です。一応。」

ほう、と身を屈めて仁理を見つめる男。

「な、何ですか?」

「ワモン刀使いとは珍しいな。」

その時、

「ヒトリ!でっかい爪!」

三又の刃物を指さし小さく跳ねるリル。

「勝手に触るなよ。」

はーい、と返事をし、大興奮で武器類を見るリル。

「妹さんかい?」

「いえ、血縁は無いです。関係性は似たようなものですが。」

「へぇ。それでお客さん、何の用だい?」

カウンターの後ろに入る男。

「これを。」

瑞希に持たされたメモを渡す。

「窓か。明日の昼、取りに来な。」

「ありがとうございます。お代は?」

「この大きさで4枚だから銀貨6枚だな。」

この世界での物価は、銅貨と銀貨、そして金貨の枚数で決まる。10進数を採用しているため、銅貨100枚で銀貨相当、銀貨100枚で金貨相当である。

大衆向けの店で提供される料理の相場は10枚前後である。つまり、銅貨1枚が日本円でおよそ100円程度だ。

ちなみに、この設定は覚えなくても差支えはない。

「はい、領収書。明日はこれを持ってうちに来な。」

「ありがとうございます。」

「応!」


鍛冶屋を出ると、喧騒が耳につく。

(騒がしいな。この数分間で何があったんだ?)

広場に人だかりが出来ている。

「気になるな。見に行こうか。」

「はーい。」

野次馬を掻き分け進む2人。

すると、その先から声が聞こえる。

「何や、そないけったいなカッコしてるのに回避下手なん?拍子抜けやわ。」

「あら......優しいのね。」

「優しい?ちゃうちゃう、呆れてるだけや。」

仁理の目に入ったのは、アニアが追い詰められている光景。

追い詰めているのは、ワ装を纏った糸目の男だ。

(糸目に関西弁!絶対ネームドだ!!)

目を輝かせる仁理。すると、糸目が此方に向く。

「そこのワ装のキミ、この人のこと知らん?」

急に話し掛けられ少し驚く仁理。

「ええ。先程屋敷に侵入した者の特徴と一致します。」

「直接会うてへんの?」

「はい。撃退した使用人からの証言です。」

その通り、この時間軸では会っていない。整合性を取るための発言である。

「リルが殺した!」

「へぇ、わんちゃんが。」

「でもなんで!?なんで生きてる!?」

リルが駆け寄り指をさして問い詰めるが、アニアは答えない。

能力を使って逃げられないよう、仁理が背中に触る。

「キミ、今何したん?」

「認識阻害能力だか幻術だかが使えるらしいので、祝福だけ念の為消しておきました。」

「へぇ、詳しいんやね。」

糸目が僅かに開く。

(うおぉ開眼だぁ......!)

「その人は衛兵に任せよか。ボクはキミらと話がしたい。」

「ええ。構いませんよ。リルは?」

「いいよ!」

「えらい元気やなぁ。ほな、そこの食堂へ行こか。」


「へえ、キミら、クロード邸の人なん?」

「ええ、まだ日は浅いですが。」

「堪忍です、察しが悪うて。」

「敬語は使わなくて良いですよ。まだ未熟な若輩者ですし。」

「ほな遠慮なく。仲良うしよな。」

「ええ、是非。」

仁理にハンバーグ定食、リルにオムライス、そして糸目には焼き魚定食が届く。

「意外と子供舌なんやね。」

「ええ、お恥ずかしながら。」

「恥ずかしがらんでええよ。“こね肉焼き”は誰が食うても美味いんやし。」

(“こね肉焼き”って呼ばれてるんだ......注文は絵を指さして出来たが、字が読めねぇと不便だな。)

「そういえば、まだ名前聞いてへんかったね。」

「有巣仁理です。仁理が名前で、有巣が苗字です。」

「アリス・ヒトリ君。ワモン式やね。服装も武器もそうやし、ワモンの人?」

「まぁ、似たような所ではありますが。」

「てことは厳密にはちゃうんやな。同郷か思てんけど残念やわ。」

綺麗に箸で魚の骨を抜く糸目。

(やっぱ箸って合理的な形してんだなぁ......)

一方、仁理も箸でハンバーグ、もといこね肉焼きを切り分けて食べる。

「リルはリルだよ!」

「声でっか。」

「へえ。ええ名前やね。」

リルはスプーンをグーて掴んでオムライスを食べている。

リルの口の周りのケチャップを仁理が拭く。

「ボクはナンシ・ハル。ハルが名前でナンシが苗字(みよじ)です。ワモン出身で、この村の護衛隊長や。」

「護衛隊長殿でしたか。」

(そりゃアニアぐらい圧倒出来るよなぁ!すげぇや!)

「そない大層なもんちゃうで?仕事も殆どあらへんし。」

「またまたご謙遜を。」

反射的に出た言葉に(今の嫌味っぽいか?)と思った仁理だが、ハルは大して気にしていなそうなので安堵する。

数分間、黙々と食事を続ける3人。その後、早々に食べ終わったリルがハルの顔を見詰める。

「ん?どないしたん?」

「ヘビみたい!」

「リル?」

「アハハ!よう言われるわ!」

「すみません......リル、失礼だぞ。」

「ええよええよ。可愛いもんやんか。」

2人も食べ終わり、仁理は一応手を合わせる。

「それ何してんの?」

「故郷での習慣ですかね。食材と、用意してくださった方々へ感謝を示すんです。」

「へえ。ええ心掛けやね。ボクもしとこ。」

手を合わせるハル。

「よし、お勘定行こか。」

カウンターへ向かう3人。

仁理が財布を出すが、ハルに制止される。

「ええよ、ボクが出すから。」

「そんな、申し訳ないですよ。」

「ええから。歳上の顔立てたってや。」


会計を終え、店を出る3人。

「ほな、ボクはこれで。また一緒しよや。」

「ええ、是非。」

「リルちゃんも、あんまヒトリ君困らせたらあかんで?」

「わかた!」

「ええ返事や。ほな、また。」

「ええ。また。」

去って行くハルの背中を見送る2人。

「俺らも戻るか。」

「うん!」

『アリとナシの話』


戦闘を終え、リルの部屋を片付ける仁理と瑞希の2人。

仁理「リルにお片付けは無理だったか......」

瑞希「案の定ですね。」

暫く、黙々と作業を続ける2人。

仁「そういえば、俺らの名前って対になってるよな。」

瑞「というと?」

仁「“巣”が“有”るで有巣と“堂”が“無”いで無堂だから。」

瑞「巣と堂って対なんですか?」

仁「似たようなもんだろ。」

瑞「それ言ったら何でもアリになるのでナシです。」

仁「すぐ“無し”って否定する。名は体を表す、だな。」

瑞「なら貴方は全肯定してくださいね。」

仁「それは無理。」

瑞「はぁ。可愛げが無いですね。」

仁「五十歩百歩だよ。」

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