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あの果てしない空の下  作者: kai
第二章
7/15

7.スパイラル

『氷魔法の話』


宿の庭にて、サフィアと仁理は魔法の練習をしていた。

サフィア「ヒトリ。今日は氷魔法の訓練をしましょう。」

仁理「はーい。」

サ「まずは、“製氷”と“凍結”のどっちに適性があるのかを見ましょうか。」

仁「氷を直接作るか、周りの物を凍らせるか、ということですね。」

サ「そう!やってみて。」

製氷魔法と凍結魔法を使ってみる仁理。

仁「んー、あんま違いがわからないですね。」

サ「じゃあ、どっちも得意なのかも!」

仁「どちらも苦手という可能性は?」

サ「......そうじゃないことを祈りましょう。」

有巣仁理は、寝心地の良いベッドの上で目を覚ました。

「知ってる天井だ......」

当たり前である。仁理は昨夜この部屋で入眠したことを覚えているからだ。

立ち上がり、カーテンを開ける。

「ん゛〜......」

汚い声を出しながら伸びをする。

「ふぅ......さて、」

衣装箪笥を開け、ジャージを取り出す。

「やっぱコレだな。」


風が頬を撫でる。

綺麗に丈を揃えられた芝生の音が心地良い。

「やっぱ広いな......」

(そのくせ、綺麗に整えられている。ユフィの外出中、無堂だけで良く手が回ったもんだな。)

再び伸びをする仁理。

「さて。」

足に魔力を込めた所で、仁理は思い留まる。

(いや、芝生の上に氷作ったらマズいか......)

仁理はすぐそばの石畳の上に移動する。

「よし!」

そして、思いっきり右足を踏み込んだ。

円形に生成される氷の台座。その外周に、6本の柱を等間隔で生成する。

そして、柱の上に屋根を載せる。更に、その下に机と椅子を作って完成。

「我ながら上出来だな。」

椅子に座り机を指で叩く仁理。

「飲み物持って来りゃよかったかな。」

仁理は辺りを見渡す。

おそらく無堂瑞希が手入れしたであろう広い庭は、隅々まで手入れが行き届いているように見える。

(にしても、無堂が転生して来てたとはな。)

その時、後頭部に何かが当たる。

「......ん?」

地面に落ちたのは一つに結ばれたタオルである。

振り返ると、瑞希、サフィア、ユフィ、アンシーの4人が居る。

「......あ、これマズかったですかね。」

すぐさま氷を消す仁理。

一方、サフィアは駆け寄り、仁理の顔を覗き込んだ。

「サフィア様?」

「ねぇヒトリ、大丈夫なの?」

「な、何がですか......?」

「何がって、わからないんですか?」

瑞希が空を指さす。

太陽の位置は、かなり西に寄っていた。

「......ん?」

「ヒトリ。貴方、丸2日寝てたのよ。」

深く息を吸う仁理。

「......丸2日?」



#13『有巣と無堂』


状況が呑み込めないが、取り敢えず何か食べた方が良い、と判断し、仁理はユフィが作ったパンケーキを食べていた。

「なぁヒトリ、2日も眠ってたんだって?」

上座のハインツが心配そうに訊く。

「らしいですね。」

「理由に心当たりは?」

「んー......おそらく祝福のせいかな、と。」

「祝福か......ミズキも言ってたな。」

そこで、ハインツが瑞希の方を見る。

「はい。有巣さんの祝福は私の『模倣』でも制御出来ないぐらい操作が複雑なんです。有巣さんの脳が特別仕様とはいえ、回復も冷却も無しに長時間使えば、脳死はおろか最悪発火のリスクまであります。なので、土上竜の一件が祟ったのかと。」

「よく知ってんな。」

瑞希の完璧な説明に、仁理は舌を巻く。

「ヒトリも肯定するってことは、やっぱりそうなのか。」

腕を組むハインツ。

「治癒魔法を使えないとはいえ、氷魔法で冷却すれば良かったんじゃないのか?」

しかしノータイムで瑞希が首を横に振る。

「氷魔法はおろか、治癒魔法ですら逆効果ですよ。ただでさえ祝福の処理に追われてる脳で魔法を発動しようだなんて。」

「あー、そうなるのか......誰かに治癒してもらうのは?」

「足手まといを一人以上背負って戦うのはリスキーでしょう。もう使用を制限した方が早いですよ。」

「えぇーマジか。」

不服そうな仁理。

「仕方ないじゃない。魔法の練習には付き合うから、ね?」

とサフィア。

「まぁ......自分の能力で死んだら本末転倒ですしね......出来るだけ祝福は使わない方向で行きます。」

と、渋々了承する仁理だった。

(大怪獣バトル、楽しかったんだけどなぁ。)


「ヒトリ様。」

「様は要らない。」

「ヒトリ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。」

一緒に入浴中の仁理とリル。

「ねぇリル。一人でお風呂に入る気はない?」

「や。」

「そっか、じゃあ大丈夫じゃないね。」

仁理は両手でお湯を掬ってみる。

お湯は青緑色に濁っていた。

(入浴剤......?)


バスタオルでリルの身体を拭く仁理。

「身体ぐらい自分で拭こうや。」

「や!」

「お前はイヤイヤ期のガキか。」



翌朝。

他の領主と会談があり、ハインツとサフィアがユフィとアンシーを連れて数日ほど外泊するとのことで、仁理と瑞希は見送りに出ていた。

「辺境だからちょっと出掛けるだけでも一苦労だな。」

よっこらせと鞄を持ち上げハインツが言う。

「ヒトリ君!寂しくなったらお姉さんの部屋で寝るんだよ!」

「因果関係がわかりませんが。」

「ヒトリ。」

仁理の手を握るサフィア。

「ごめんね。一緒に連れて行ってあげられなくて。」

今回、仁理が同行しないのは、仁理の体調と不測の事態を鑑みてのことである。

「いえ、仕方のないことですから。寧ろ同行出来なくてすみません。」

「謝らないで。帰ったらいっぱいお話ししましょ。」

「はい、是非。」

そして、鳥車に荷物を積み終わった一同。

「2人とも、何かあったら頼むぞ。」

「大丈夫ですよ。有巣さんが何とかします。」

「無堂は自分でなんとかする気概を見せてくれ。」

鳥車の前でサフィアが振り向く。

「それじゃあ、行ってきます。」

「お気を付けて。」

鳥車が出発し、静けさに包まれる。

「さて、魔法の時間だ!」

「掃除の時間ですよ。」

仁理の襟首を掴む瑞希。

「うーん、ままならないねぇ......」


「一番不遇な魔力属性を決めようの会。」

箒で床を掃きながら言う仁理。

「私はパスで。」

「えーやろうよ。今後の魔法訓練に役立つかもだし。」

「有巣さんってホントそういう最強議論とか好きですよねぇ。」

「男の子だからね。」

呆れ顔の瑞希をよそに、仁理は考察を始めた。

「ぶっちゃけ最強は氷だと思うんだよな。」

「どうですかね。闇属性も割と良い線行くと思いますよ。」

ベスタとの戦いを思い出す仁理。

「あー、確かに出来ることは多いか。影の操作だっけ?」

「影の操作は結構変態的な使い方らしいんですよね。かなり魔力操作がとんでもないくらい精密じゃないと出来ないとか。」

「マジ?どれぐらい?」

「魔力操作だけでサラダが作れるぐらいです。」

「Oh......俺でも出来ないぞそんなの。」

現在、仁理が出来るのはせいぜい魔力の糸で近くの物を手繰り寄せるぐらいである。つーかそれが限界。

「“俺でも”って、有巣さんでも自画自賛をするんですね。」

「俺は精密性に自信ニキだぞ。」

そもそも、仁理の観測内で魔力の糸を作れるのは仁理とベスタのみである。年単位で魔法の鍛錬を積んでいるサフィアやユフィですら魔力の糸は使えないため、仁理の魔力操作精度もかなりのものということになる。

「普通、闇属性の魔法は鈍足化とか目くらましとかがメインらしいです。」

「割と出来ることが多いのな。」

「影操作無しだと攻撃力低いですけどね。」

「そうかぁ......」

箒を片付け、2人は庭へと向かった。


台車から剪定バサミを、取り出す瑞希。

一方、仁理は同じ物を氷で作る。

「あ、たぶん冷やすと良くないですよ。」

「マジか。危ねぇ〜助かった。さんきゅ。」

氷を消して本物の剪定バサミを取り出す仁理。

「当たり前のように剪定バサミを作れる精密性なら、自画自賛にもなりますか。」

「まぁね。」

ふふん、と嬉しげな仁理。

「しかし、消せるのが便利ですよねぇ氷魔法。」

「どういう原理なんだろうなこれ。魔力が還元されるわけでもないし。」

「さぁ......そういう術式ですとしか。」

「そういえば、無堂は何属性?」

「炎と氷の抱き合わせです。」

「フレイザードじゃん。」

「轟焦凍ですよ。」

強い風が吹き、仁理の顔面が落ち葉で覆われる。

「わっ。」

「大丈夫ですかー?」

「ちょっと切れた。」

「治癒掛けますよ。」

仁理の頬に触れる瑞希。

「ありがとう......そういや、風魔法って微妙じゃね?」

「その心は?」

「炎魔法と氷魔法で代用出来ないかなって。空気を熱したり冷やしたりして風ぐらい起こせるでしょ。」

「風魔法の本分は風の刃にあるそうですよ。」

「あー、そういやベルモンドさんが使ってたな。」

「噂の騎士団長さんですか。」

治癒が完了し、剪定に戻る。

「そういえば戦ったんですよね。どうでした?」

「わからん。祝福がめっちゃ強いらしいってことしか。本体は一発顎をぶん殴って脳震盪だから弱いんじゃねぇかな。」

「それ手加減ですよ。」

「んまぁそりゃそうか。」

間。

風が木の葉を撫でる。

「雷と土の評価も聞きたいです。」

「興味津々だな。」

「途中で終わったら気持ち悪いじゃないですか。」

確かにな、と頷く仁理。

「んー、見たこと無いからなぁ......勘だけど、応用力は土で平均(アベレージ)は雷なんじゃないかな。」

「よほど出力が低くない限り雷は強そうですよね。」

「攻撃以外にどう使うのアレ。電磁浮遊ぐらい?」

「ドアノブに静電気溜めましょう。」

「うーんこの。」

「道行く人の髪の毛を爆発させるとか。」

「うーん、ぐう畜。」

「他に何かありますかね?」

「電気抵抗で熱出すとか?」

「普通ですね。むしろ応用ですらない気がします。」

「けど実質2属性の抱き合わせじゃね?」

「それで言えば炎と氷は風を起こせますし。」

「一番可哀想なのは土かなぁ......」

「私も土が最下位だと思いますね。」

「......そういえば、光は?」

「さぁ......使用者を見たことも聞いたこともないんですよね。」

「理論上存在するみたいな?」

「おそらく、はい。どうせなろう主人公みたいな人が持ってくんじゃないですかね。」

「身も蓋もねぇな......」


風呂場でデッキブラシをかける2人。

「そういや、リル見てねぇな。」

「昼寝でもしてるんじゃないですかね?」

「飯もおやつも食わずに?」

「あー......じゃあ具合悪いんですかね。」

「後で見に行くか。」

「ですね。」

浴槽の中に入る仁理。

「そういえば一つ疑問に思ったんですけど、有巣さんって、能力禁止された時、割と冷静でしたよね。」

「そうだね。」

「普通、いつも使えてた物を禁止されるのってストレスじゃありません?勝てる相手にも勝てなくなりますし。」

「そもそも全面的に禁止された訳じゃないだろ。それに、俺の目的は勝つことじゃなくて戦うことで、ひいてはその戦いを楽しむことだぞ。」

「変態ですねぇ。私は無双する方が好きです。」

「へぇ、意外だな。戦いとか好きじゃなさそうなのに。」

「無双は戦いじゃなくて蹂躙ですよ。まぁ、折角異世界転生するなら能力も魔法も無しの世界とかも見てみたい気はしますけどね。」

「存外退屈だぞ。ほぼ変わらん。」

「......へぇ?」

その後、2人は水で泡を流す。

「意外と楽なんだよな、掃除。」

「はいはい。次は暖炉ですよ。」

「全然楽じゃなさそうなモノが来た......」


屋敷内唯一の暖炉の前に来た2人。

「この地域は四季が無いのでほぼ使わないんですけど、掃除する意味あるんでしょうかね。」

「使わないなら尚更あるだろ。蜘蛛の巣とかとんでもないことになるぞ。」

「言われてみればそうですね......今から鳥肌立って来ました。私は別の所を担当するので一人でお願いします。」

「お前が言い始めたんだろ......」

「そもそも有巣さんは大丈夫なんですか?」

「脚が付いてるから大丈夫。」

「脚が無い生き物が苦手なんですか?蛇とか?」

「蛇は脊椎動物だから平気だな。ミミズとかヒルとかが無理。」

「今度枕元に置いときますね。」

「ぶっ飛ばすぞお前。」

その時、仁理は暖炉の上に置いてある砂時計に気付いた。

「でっか。」

「え、今まで気付かなかったんですか?貴方の眼は風穴なんですか?」

「いつぶち空けられたんだろうなぁ......というか、暖炉の上に砂時計置いたら熱で割れねぇ?」

「魔道具だから大丈夫なんじゃないですかね。」

「魔道具?」

仁理は両目に魔力を込める。

「あぁ、本当だ。」

「......え?」

「ん?」

「もしかして、魔力強化無しで魔力感知出来ないんですか?」

「え?普通は無しで出来るの?」

「え、そうですけど。」

あまりの衝撃に膝から崩れ落ちる仁理。

「う、嘘......だろ......?」

「本当です。」

「じゃ、じゃあ、俺の魔力の才能は......カス?」

「いえ、カス以下のゴミです。」

仁理は、膝を抱えてうずくまる。

「どうりで治癒魔法が使えない訳だ......」

めんどくさ、と溜め息をつく瑞希。

「その因果関係はわかりませんけどね。」

「あ、でも才能無いヤツが努力で成り上がるのも面白いな......」

「貴方に無いのは魔力感知と治癒魔法の才能であって魔力全般の才能ではありませんよ。ぶっちゃけ魔力操作の才能はカンストしてるも同然でしょう。」

「実質デオキシス?」

「デオキシスに謝ってください。」

「......いや、そういう話がしたいんじゃねぇんだ。」

一転し、すっと立ち上がる仁理。

「この砂時計はどういう魔道具?」

「時間を巻き戻せるらしいですよ。」

逆転時計(タイムターナー)......ってコト!?」

その時、ぐしゃ、という音と共に、仁理の口から呻き声が漏れる。

「あ......有巣さん......!」

見下ろすと、胸から刃が出ている。

「、っと......」

空気の抜ける音。どうやら肺に干渉したらしい。

刃が抜かれる。仁理は動揺するが、すぐさま魔力による縫合と血液の循環措置を行う。

「驚いたわ。心臓を刺しても死なないなんて。」

妙に布面積の少ない女が、血の滴るダガーを舐める。

「随分と目に良い格好してんな。」

「気に入ってもらえて嬉しいわ。ありがとう。」

「褒めてねぇよ......!」

氷で刀を作る仁理。

「良いの?」

「何がだよ。」

女が指さす先を見る仁理。

「......ッ!?」

瑞希の首が無い。

まだ倒れていない瑞希の身体の後ろに、ダガーを持った黒いローブの人影があった。

(どちらも接近に気付かなかった......!異様に気配を消すのが上手い......!)

「ごめんね、すぐに楽にしてあげるからね。」

一瞬の動揺を見逃さず斬り掛かる女。同時に接近するもう一人。魔力操作と考察に気を取られ、仁理は右腕を切断されてしまう。

「器用なもんだな......」

「そんなに褒められると照れるわ。」

「急所を狙うのが下手くそだっつってんだよ......!」

瑞希が死亡した以上、これ以上の戦闘続行は不可能である。激痛と貧血により朦朧とする頭でそう考えた仁理は、魔力の糸で砂時計を引き寄せた。

「させない!!」

斬り掛かろうとする女。

しかし間一髪、仁理は砂時計をひっくり返すことに成功した。


そして、砂が落ち始めた。



#14『逆流する砂時計』



仁理の視界に去っていく鳥車が映る。

(......此処がセーブポイントか。)

右手には砂時計がある。

(これ持って戻るスタイル?)

右肩を撫でる仁理。

「さ、掃除よろしくお願いしますね〜。私はサボるので!」

「......無堂。」

「あーあー!聞こえなーい!!」

そう言いながら、建物内へと逃げるように入る瑞希。

(......流れが違う?いや、俺の発言が無かったからか。)

サボり魔を前にサボる発想は出て来ないものである。

(それより、リルの所へ行こう。前の周でリルの姿を見てないからな。)

ちなみに先程、仁理が砂時計を使用したのは午後に入ってからであった。

「“始まった”って感じだな。」


リルの部屋の扉を開ける仁理。中では、リルがクレヨンのようなもので絵を描いていた。

「ヒトリ!」

仁理を見るや否や、尻尾を振りながら駆け寄るリル。

「おはよ!」

撫でて、と言わんばかりに耳を畳むリルを見て、仁理の胸の中が熱いもので埋まる。

「......うん、おはよう。」

リルを撫で、抱き締める仁理。

仁理の匂いを嗅ぎ、リルは満足気に声を上げた。

「ヒトリ!何して遊ぶ?」

仁理の手を引くリル。

「いや、遊んでる場合じゃないんだよな。」

「なんで?」

「屋敷に」

刹那、仁理の視界が揺らぐ。

(......へ?)

大きく傾いた視界に、頬を赤く染めたリルが映る。

(何が起きた!?何が!?なにが何がナニガなにが!)

側頭部に鈍い音と衝撃を感じる仁理。

その視界に、和服を着た首の無い身体が映る。

そして、仁理が最期に見たのは、激昂して女に飛び掛かるリルの姿だった。



およそ6時間後。

「有巣さーん。どこですか〜。」

瑞希は仁理を探していた。

「サボってたの謝りますから。ちょっと遅いですけどお昼作るの手伝ってくださ〜い。」

リルの部屋の前に来た瑞希。

「リルさーん。有巣さん見てませんかー?」

ノックする瑞希。返答は無い。

「リルさーん?」

おそらく部屋に居ないのだろうか、それとも昼寝中なのだろうか。

少し気になった瑞希は、そっと扉を開けた。

「リルさ......ん......」

扉の向こうにあったのは、3つの死体だ。

1つはおそらく仁理のもので、頭部が無い。そして、残る2つは見覚えのない人物のものだ。

「......え?」

部屋の中央で、血塗れのリルがお絵描きをしている。

仁理の頭部を、大事そうに抱えて。



Now loading......



仁理の視界に去って行く鳥車が映る。

(......此処がセーブポイントか。)

隣から、呻く音が仁理の耳に届く。

「無堂?」

「おぅぇ」

その場に膝をついて嘔吐した瑞希。

「無堂!?」

手には砂時計を持っている。

仁理は隣に屈んで背中をさする。

「ぉぶ」

再度の嘔吐。嗚咽が漏れる。

瑞希の口に手を入れ嘔吐の介助をする仁理。

そして、更に2度ほど嘔吐する瑞希。

「全部出したな......」

(一緒に戻って来たのか?......いや、速攻で首を()ねられたのに嘔吐するのはおかしいか。)

「あ、有巣さん......」

「大丈夫か。」

仁理は懐から手巾を取り出し、自分の手と瑞希の口元を拭う。

すると、瑞希が仁理の肩を掴んだ。

「......無堂?」

「有巣さん......!」

瑞希の目から涙が零れる。

「な、何......?」

「よかったぁ......!!」

「えぇ......?」

困惑する仁理。

だが、何となく状況に察しがつく。

「無堂、何回目だ?」

「い、1回目です......リルさんの部屋で有巣さんと知らない人が殺されてて、リルさんが有巣さんの首を持ってて......ぉえ」

再度嘔吐しようとする瑞希。しかし胃の中が空であるためか何も出て来ない。

「わかった。なら取り敢えずリルの部屋へ行こう。」

「す、すみません......一旦着替えて来て良いですか......」

「なるべく早くしてくれ。」


リルの部屋の扉を開ける仁理。中では、リルがクレヨンのようなもので絵を描いていた。

「ヒトリ!」

仁理を見るや否や、尻尾を振りながら駆け寄るリル。

しかし、匂いを嗅いで違和感に気付いた。

「......ヒトリ、オエってした?」

「俺じゃねぇよ。それより」

瞬間、仁理の視界が揺らぐ。

(......へ?)

大きく傾いた視界に、頬を赤く染めたリルが映る。

直後、

「させるかああああ!!!」

なんとか仁理の頭をキャッチした瑞希は、身体とくっ付けて治癒魔法をかける。

同時にリルが激昂。ダガーを持った2人組に飛び掛かる。

「あら。ツイてないわね。」

そう言い残し、女の姿が消える一方、もう片方は逃げ遅れてリルの爪と牙の餌食になった。

「有巣さん!有巣さん!!」

首は接合出来たが、仁理の目に光は無い。

おそらく大量の出血とショックによるものだろう、と断定した瑞希は、氷で輸血用の針を作ろうとする。

(私も有巣さんも同じA型......!輸血出来る!!)

しかし、出来上がったのはトイレットペーパーの芯ほどの大きさのもの。

「ぜんぜん出来ない!!!」

癇癪を起こし投げる瑞希。氷の円筒は、壁に激突して砕けた。

「ヒトリ!ヒトリ!!」

仁理の身体を激しく揺らすリル。

すると、先程リルが捕え損ねた女が現れ砂時計を持つ。

「これは貰って行くわね。」

その言葉と共に、女が消えた。

「待て!!」

おそらくそういう能力だろう、と断定し、廊下へ出る瑞希。しかし、女の姿はおろか、足跡をはじめとした痕跡すら見当たらない。

(痕跡まで消せるんですか......!?)

「リルさん!さっきの女を探してください!」

「で、でもヒトリが!」

「もう死んでるんですよ!!!どうにもならないんですよ!!!」

あまりの剣幕に、リルの顔が歪む。

「うわあああああ!!!」

リルが泣き出してしまった。

イライラし頭を掻きむしる瑞希。

「なんにも上手く行かない!!!」

号泣するリルは一先ず放置し、瑞希は仁理の指を噛みちぎる。

(多分、使えないけど......!コピーだけはしておこう......!!)

口の中に鉄の味が広がる。

呑み込むのに苦戦しながら、瑞希は仁理の刀を拾って駆け出した。


(リープ前のあの地点を過ぎても、『逆流する砂時計』は重ねがけ出来るから元の地点に戻れる!けど、問題はこのまま持ち逃げされて行方が眩むこと!最悪の場合は破壊もありうる!!)

瑞希は思い付く限り全ての扉を開けたが、痕跡らしきものは見当たらない。

(やっぱりもう外に......!!)

正面玄関から外へ出る瑞希。

嘔吐跡に鳥が群がっている。

(あの恰好で領内の村に潜伏は難しい......となると、敷地を囲う森の中!!)

その後、瑞希は迷わず横に走り出し、塀を越えて森へと入っていった。



数時間後。

仁理の身体に感覚が戻って来る。

思いっきり息を吸う仁理。しかし、喉に異物感を感じて咳き込んでしまう。

咳き込んだ衝撃で首筋がブチブチと音を立てる。同時に襲う激痛がダイレクトに届き、仁理の思考が明瞭になる。

(踏ん張れ......ぇえッ!)

直後、全身を包む浮遊感。

ふっと楽になり、全身から力が抜ける。

そして、仁理は左手に燃えるような痛みを感じた。

左手を見ると、指が2本ほど無い。

すぐさま指を生やす仁理。痛みから解放され、安堵の息を漏らす。

「......たぶん、寝てる場合じゃねぇな。」

上体を起こす仁理。

案の定、部屋は血の海である。

前の周で瑞希を殺した者が死んでいる。身体の爪痕から、リルの仕業だと断定し、取り敢えずフードを取って顔を確認する。

「男か。」

男の服装は悪魔教徒のそれではない。野盗か何かだろう、と仁理は断定した。

他には、砕けた氷や、割れた窓が目に入る。

(窓が割れてるってことは、おそらく女は外に逃げたんだろうな。それをリルと瑞希が追ったと。あの氷は追う時に出したものだろう。)

そして、仁理の刀が無い。

「......少し、面倒かもな。」

直後、景色が大きく歪み、仁理はその場から消えた。



瑞希は、森の中を走り回っていた。

刀を振り草を掻き分けながら全速力で走る瑞希。

その後少しして、瑞希は開けた場所に出た。

そこには、石造りの構造物が佇んでいる。

迷っている暇は無い、と瑞希はその建物に足を踏み入れた。


「あら、遅かったわね。」

注射器を持っている女。その奥で、手錠で壁に固定されたリルが項垂れている。

「砂時計、返してください。」

「この子は助けなくて良いの?まぁ、貴方じゃ助けられないでしょうけど。」

瑞希の紫の瞳が光る。

「やってみなきゃわからないでしょう。」

「へぇ。こっわ〜い。」

剣戟。しかし刀が負け、真ん中で折れる。

「あら、下手くそね。」

掌から圧縮した魔力を2発放つ瑞希。

しかし女は華麗に躱す。

「遅い!」

瑞希はありったけの魔力で強化された手でダガーナイフを掴む。

「......遅いのは貴女ですよ。」

「がう!!!」

リルがうなじを噛みちぎり、女はその場に崩れ落ちる。

「うがああああ!!!」

しかしリルは止まらず、瑞希に襲い掛かる。

爪による攻撃を咄嗟に回避し、瑞希は辺りを見回す。

「あった!!」

机の上に砂時計がある。

同時に、リルが左肩に噛み付いた。

「ぐ......ッ!!」

あと一歩、届かず倒れる瑞希。

瞬間、青い閃光が石室内に瞬く。

その衝撃でリルが吹き飛ばされ、瑞希は砂時計を掴むことに成功する。

「これで......!」

砂時計をひっくり返す瞬間、瑞希の眼に青い閃光の主が映る。

「あ......ッ!!」

腕を伸ばし砂時計を差し出す瑞希。

煌々と輝きながら駆け寄って来るその青い双眸は、瑞希の目に浮かぶ涙を映し出していた。

『“ニキ”の話』


宿の庭にて、ユフィと仁理は魔力操作の練習をしていた。

ユフィ「とても上達しましたね。」

仁理「精密性に自信ニキですからね。」

ユ「ニキ......?」

仁「兄貴(アニキ)のニキです。男性に対する二人称で使われたり、○○ニキのように、前に言葉を付け足して称号みたいな意味合いで使ったりするんですよ。」

仁(ま、ネットスラングだからあんま健全じゃないんだけどな。)

ユ「なるほど。女性の場合は?」

仁「女性の場合は、姉貴(アネキ)のネキですね。」

ユ「姉貴......ヒトリ様はどちらですか?ネキですか?」

仁「んー、ぶっ飛ばそうかな。」

ユ「“即座に暴力ネキニキ”でしたか。」

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