表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの果てしない空の下  作者: kai
第一章
4/14

4.薄氷の決戦

土上竜との戦いを経て、王都に戻って来た一行。

アンシーの話では、土上竜が平原、しかも王都からクロード領に繋がる道に居座っているとのことだった。

その後、アンシーが土上竜の情報を騎士団へと持ち帰る中、他の4人は宿を取り部屋に集合していた。

「どうしたもんかねぇ......」

そう言い、ソファに身体を預ける仁理。その様子に、サフィアは暗い顔をする。

「サフィア様?」

「......私、何もできなかった。」

「そりゃそうでしょう。氷魔法なんてそんなもんですし。」

かく言う仁理も、同じことを実感していた。

「私が出来たのもせいぜい使い捨ての斧を作るぐらいです。しかも有効打にすらならなかった。」

はぁ、と深く溜め息を吐く2人。その様子を見かねたユフィがやれやれと首を横に振った。

「反省会をしても仕方ないでしょう。5人全員が無事、荷物も無事、それだけで良いじゃないですか。」

「......そうね......そうよ!別に負けてない!」

開き直るサフィア。しかし、仁理は複雑な面持ちだ。

「いや勝ち負けの話じゃなくてぇ......」


「何とかする方法思い付きます?」

紅茶を啜り、呑気にも魔力の糸であやとりを始める仁理。

「んー......みんなで頑張って凍らせるとか?」

とサフィア。

「毒入りの肉を食べさせる!」

とリル。

「貫通魔法で吹き飛ばすとか。」

とユフィ。

仁理は、3つの意見を反芻して脳内でシミュレーションしてみた。

「割と離れた位置でも暑かったし、かなり人数を集めないと氷は難しいかもしれません。毒も同様で、身体が大きいのでかなりの量を集めないと難しいかも。」

イマイチ理解出来ず首を傾げるリル。

サフィアとユフィが納得したようなので、仁理はとりあえずリルを放置して話を進める。

「貫通魔法はまだ試していませんから、早い話はそれです。魔力出力の高い者に貫通魔法を使わせるとか。」

しかし、サフィアが苦い顔をする。

「でも、貫通魔法って一度撃ったら終わりなんでしょ?」

仁理の場合、今までに4度、貫通魔法を使用しているが、魔鉱石で充電した1度目を除いて例外なく魔力切れを起こし、、直後サフィアに介抱されている。

当然、貫通魔法を用いるなら、それを使った魔法使いを回収する役も必要である。故に、必要な人員が単純計算で2倍になるのだ。

「......いや、土上竜が1匹なら1発で良いのでは?」

そう指摘したのはユフィだ。

しかし、仁理は首を横に振る。

「それは流石に希望的観測ですよ。」

「でも、2匹以上居た場合かなり絶望的では?」

「まぁそれはそう。」

そこで、仁理が「あっ。」と声を漏らした。

「どうしたの?」

「......別に、討伐しなくても良いのでは?」

「......迂回すれば良いってこと?」

「そうですね。」

数秒考えるサフィア。

「......確かに。」

その時、部屋にノック音が響く。

ユフィが扉を開くと、そこに居たのはアンシーだ。

「ヒトリ君。呼び出し。私と一緒に騎士団の詰所に来て。」

「......はい?」



#7『一難去らずまた一難』


仁理を出迎えたのは、赤と黒の装飾の部屋と、その中央の紳士だ。

背広のように改造された騎士団の制服を着た若い男は、アンシーと遜色ない背丈とそれに似つかわしくない細い身体を持ち、不気味な笑みを浮かべている。

「ようこそ!我が執務室へ!!」

男は仁理に歩み寄り、屈んで手を握る。

「アリス・ヒトリ君ですね?!君に会えて光栄ですよ!」

「えっと......」

「おっと!自己紹介がまだでしたねぇ!」

男は踵を返し、彼の肩に届くほどの長さの杖を手に取って部屋の中央まで歩いた後、床を叩いて振り返る。

「私は王都直属騎士団第三席のベスタ・カールです!以後、お見知り置きを!!」

「よ、よろしくお願いします......」

(や、ヤバいヤツだ......)

「貴方の活躍は全て見ていましたよ!」

大袈裟な動きで蝶ネクタイを直すベスタ。

「なんの前触れもなく突然街中に現れ!迷子のサフィア嬢を助け!ベルモンド殿の顎を殴り!吸血鬼2体の撃退と1体の討伐を完遂し街を守り!そして土上竜から仲間を生還させた!!」

そして、ベスタは杖で仁理の顎を持ち上げる。

「まるで、御伽噺の主人公のようですねぇ。」

仁理の背筋を悪寒が伝う。

その様子を察してか、ベスタは仁理に背を向けた。

「アンシー殿。ご退室願えますか。」

「へ、変な気起こさないでよ。」

「変な気ぃ?それは寧ろ貴女の方でしょう?」

図星を突かれ押し黙るアンシー。

「ヒトリ君。何かあったらすぐ叫ぶんだよ。」

そう言い残し、アンシーは部屋を後にする。

「んな物騒な。」

「そうですよねぇ。私はこんなにも善良で勤勉なのに。」

「......本当に勤勉な者は自分のことを勤勉だなんて言わないのでは?」

「ンフフ。それはごもっとも。」

仁理をソファへ促し、慣れた手つきで紅茶を淹れるベスタ。

「貴方は今、祝福を使えない状態にあるでしょう?」

不意を突かれ唖然とする仁理。

「やはり図星ですか。」

仁理はすぐさま自身の頬を叩く。

(まずった!顔に出た!!)

紅茶が仁理の目の前に置かれる。

「そんなに取り乱さなくても、見ていれば判りますよ!土上竜に手も足も出ず私に臆したのが何よりの証拠だ!」

そして、ベスタは余裕の笑みで仁理の正面に座った。

「祝福が使えなくなった経緯は知りませんが、現在使えない状態にあるなら好都合、という理屈は解りますね?」

紅茶を啜る仁理。

「不穏分子だから処分しておこう、と?」

「いえ、私はカビキラ殿ではありませんし、そんな野蛮なことをするつもりはありません。そこで、貴方に選択肢が用意されています。」

「選択肢。」

「はい。一つは、騎士団に入団する。もう一つは、この国を出て行く。」

もう一度紅茶を啜る仁理。

「あまり強制はしたくないのですがねぇ。王室によると、ベルモンド殿を下したともなれば戦力として見過ごせないらしいのですよ。」

「ベルモンドさんは手加減していたのでは?」

「手加減?知りませんねぇ。」

ベルモンドが手加減していた、という情報は、ベルモンド以外に判るものではない。当然、仁理の主張も何ら根拠のないただの憶測である。

「......わかりました。出て行きます。」

すんなりと言った仁理に唖然とするベスタ。

「楽しかったです。この街。」

「つまらない。貴方がそれほどの人間だったとは。」

「知るか。どうとでも言え。」


「なんで!?なんで了承したの!?」

「んー、余計な揉め事にしたくないからですかね。」

宿の部屋にて、着物の帯を解く仁理。

「でももっと反論できたでしょ!?危ないことしませんとか!」

「そうですよ!何も出て行くことなんてありません!」

仁理が髪を解く。

「ヒトリ!」

ワ装を脱ぎかけた仁理の腕をサフィアが掴む。

「痛いです。」

「ねぇなんで!?なんで行っちゃうの!?」

「サフィア様。」

「話したいこといっぱいあるよ!教えたいことも!魔法だって!まだ教えれる!!」

「サフィア!!」

仁理が初めて見せる剣幕に、思わずたじろぐサフィア。

「離してください。」

サフィアの手の力が緩まる。

仁理は無情にもそれを振りほどき、着替えを再開した。

「まだ私が此処に来て1週間程度しか経過していません。情も思い入れも無いので、わざわざ騎士団に入って窮屈な思いをしてまで此処に残る理由もありません。」

ジャージを着る仁理。

「でも......じゃあ、お話をすれば!」

仁理が大きく溜め息を吐いた。

「そこまでの労力を割く理由がこの国に無いんですよ。私は此処の国民じゃないので。」

「でも......でも......!」

俯くサフィア。その目から涙が零れる。

「私を助けるって......言ったのに......!」

「もう助けたでしょう。そこで終わりですよ。」

パン、と手を叩く仁理。

「この話終わり。リル、行くよ。」

「はーい!」

「待って!!」


宿の入口で、ようやくサフィアが仁理の服の裾を掴んだ。

「行かないで!!」

「断る。」

「やだ!!」

「やだじゃない。」

「やだ!!!」

仁理が無理やり振りほどいたため、サフィアが体勢を崩して転ぶ。

サフィアに駆け寄るユフィ。好機とばかりに仁理がその場を後にしようとしたその時、

「おやぁ?どうしましたかなサフィア嬢。」

声の主はカビキラだ。

そして、足を止めない仁理の前にベルモンドが立ちはだかる。

「退け。」

「断る。」

睨み合う両者。その後ろから、カビキラが笑い声を上げる。

「主を泣かせるなんて!騎士の風上にも置けませんなぁ!!」

「はぁ。」

立ち去ろうとした仁理の腕をベルモンドが掴む。

(強いな......)

「何があったのか知りませんがねぇ。サフィア嬢を泣かせるのはいただけない!!もし!もしもお困りなら!このカビキラ・モンブランが!助けて差し上げても良いのですが!!」

大袈裟な音を立てて片足を前に出すカビキラ。

「土下座して靴でも舐めれば?!助けてやらんことも?!ないですが?!!」

その時、

「な......っ!?」

「サフィア様!?」

サフィアがカビキラの前に頭を垂れていた。

「サフィア嬢。何を」

迷わずカビキラの靴を舐め始めるサフィア。

「サフィア嬢!!」

「サフィア様!!」

肩を掴み引き剥がそうとするユフィ。しかし、サフィアは頑なに戻ろうとしない。

「サフィア様!!!」

しかし流石は獣人、力ずくでサフィアを引き剥がすことに成功する。

「カビキラさん。」

ただ、サフィアは再度、額を地面に付けた。

「ヒトリを......助けてください......!!」

「サフィア嬢。顔をお上げください。」

カビキラに促され、サフィアは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

「どうして、そこまで......」

「私が......!ヒトリを助けるって......!約束したから......!!」

仁理の腕から力が抜ける。その様子を察し、ベルモンドを手を離した。

サフィアの前に屈み、カビキラはハンカチを差し出す。

「ヒトリ殿。」

カビキラは、一切の嫌味が消えた声と瞳で、仁理を突き刺す。

「サフィア嬢の覚悟を、無下にするおつもりですかな?」

動揺を隠し切れず、深呼吸をする仁理。

「サフィア様。」

そして、仁理はその場で正座し頭を下げた。

「貴方の意向を無視し、独断で国外追放を良しとした私の愚行を、どうかお赦しください。」

「ヒトリ......」

顔を上げ、サフィアと目を合わせる。

「申し訳もございません。主にこのような無様を晒させてしまって。」

鼻水をすすり涙を拭うサフィア。

「ううん。大丈夫。ヒトリを止められるのなら、それで。」

サフィアの善意に、仁理は目を逸らしてしまう。

「いえ、許しません。」

サフィアはそう言い、仁理の手を取る。

「罰として、ずっと私の傍にいること。もうどこへも行こうとしないこと。」

「......ハハ。」

その時、通りに拍手が響く。

「いやあ!素晴らしい!少年と少女の愛!!実に素晴らしい!!」

満面の笑みで現れたのはベスタだ。

そして、ベルモンドがあからさまに不愉快を顔に出す。

「ベスタ。またお前か。」

「おおっと!今回は私ではありませんよ!王室からの要請でしたし、何より!あまりにも早計が過ぎる!!私がこのようなつまらない筋書きを良しとする筈がないでしょう!!」

サフィアの顔を袖で拭く仁理を放置して話は進む。

「しかし王室の懸念は私にも理解出来るのですよ。あの決闘で少なくともヒトリ君はベルモンド殿に攻撃を当てられる、ということが確定した訳です。」

「あれは俺が」

「そこで!!出自不明であるそれほどの実力者を野放しにすれば何処ぞの輩に思想を吹き込まれ国家へ反逆しかねない!!ならばその危険を排除すべく騎士団へ加入させるか国外追放してしまおう!ということです。」

主張を長文で遮られやや不服なベルモンド。

「ん?ヒトリ様が強いから怖いの?」

そこで、我慢出来なかったリルが口を開いた。

「ええ!そうですそうですとも!ヒトリ君が強いから王室の方々は怖がっているのです!!」

「でも、ツイホーしたら敵になるんでしょ?」

(言われてみれば......)

リルの鋭い指摘に仁理は感嘆する。

「そうです!ええそれも正しいのです!しかしですよ!しかし!王室の方々はそれを理解出来ないのですよ!!国を出て行けと言われはいそうですかと素直に出て行く者は反逆しないと!本気でそう思っているのです!!」

「んー、わかんない!」

「貴女には難しいでしょう!そうです!筋が通っていませんからね!そしてその筋を通せない王室を納得させるのは難しい!!しかし!一つだけ!手っ取り早い方法があるのです!!さぁそれは?!!」

仁理に杖を向けるベスタ。

「......決闘?」

「その通り!!騎士は騎士らしく決闘で是非を決めるべきです!!」

ベスタはトン、と杖で地面を叩く。

「その方が、面白いでしょう?」



翌日の正午。

仁理はジャージのまま、刀も持たず闘技場に居た。

観客席にある一際大きな箱を見る。おそらくその中に国王だか何だかが居るのだろうと仁理は見当を付ける。

そして、黒い本を持ち最後のページを読むベスタ。

「それが貴方の能力のタネですか。」

「ええ。別に隠す物でもありませんし良いでしょう。」

仁理が言うと、ベスタは本を閉じて脇へ投げる。

そして、投げられた本が消滅した。

(召喚する系か?もしくは収納する能力との併用か。)

「『万世の備忘録』という、対象の過去を見ることが出来る魔道具です。備忘録によればどうやら貴方は特別な用意も作戦も祝福すらも無いようだ。」

「接敵した時点で割れそうでしたからね。」

「やれやれ。“貴方の活躍を見ていました”と発言したのは失敗でしたか。」

モノクルの位置を直し杖をつくベスタ。

「私が勝てば貴方は騎士団に入る。貴方が勝てば貴方の思う通りにする。それで良いですね?」

「それでは道理が通らないでしょう。私が勝てば騎士団第三席より強いということなんですから、その場合に入団すべきだ。」

「騎士の決闘とはそういう訳にいかないのですよ。勝者の要求を敗者に呑ませる、そういう“お約束”なんです。」

「もっとも、私は騎士じゃありませんがね。」

「ええ。承知の上です。」

モノクルの奥の瞳からハイライトが消え黒く染まる。

「わかりました。勝った方の要求を通す、それでいきましょう。」

仁理の瞳が青く染まる。


#8『VSベスタ・カース』


「アンブラハンズ!」

ベスタが杖で地面を叩くと、影が伸びて腕が生える。

一方、仁理は氷のモーニングスターを作り出した。

(影の手(アンブラハンズ)!闇属性か!)

迫る影の腕を氷球で撃墜していく仁理。

「良い判断です!相手が何をしてくるか判らない内は無闇に近付くべきではありませんから!!」

攻撃が激化する。対応出来ないと判断した仁理は鉄球を捨て、地面から氷の棘を生やして応戦する。

「地中の水分を!素晴らしい!!」

ベスタの影が延び、仁理は即座に飛び退いて回避する。

しかし、見立てよりも影の延びが速い。やむを得ず、仁理はプロペラによる飛行を選択した。

「それも良い判断です!しかし!!」

瞬間、ベスタが仁理の目の前まで迫った。

(影の翼!?)

「甘い!!」

影を纏った杖による刺突が仁理の頬を掠める。

(速い!)

影が刃になると同時に仁理の魔力の糸が展開される。

(重い!片手じゃ無理か......!)

衝撃に耐え切れず撃墜される仁理。不幸にも影の上に着地してしまう。

影から手が伸び仁理を拘束する。

直後、ベスタが影の鎌を振りかぶった。

「グレイシャルフラッシュ」

仁理を中心に、周囲が一気に凍結する。

地面の影は消え氷に置き換わるが、ベスタは構わず鎌を振った。

「残像だ。」

氷の像が割れる。

「何!?」

仁理がベスタの襟首を掴み、投げる。

当然、悠々と受身をとるベスタ。対して、仁理は斧で追撃する。

「貴方の総量はたかが知れている!」

ベスタが杖で迎撃し、幾度か打ち合う。

「そんなに無駄遣いしてはすぐ魔力切れを起こしますよ!!」

「そりゃあそうだなぁ!!」

そんなのお構いなし、と言わんばかりに魔力の斬撃を飛ばす仁理。

「おいおいおい!アレ大丈夫なのかぁ?」

観客席にて爪を噛んでいるカビキラ。

一方、サフィアは確信に満ちた表情をしていた。

「大丈夫。私の騎士様だもの。」

「軽い!」

斬撃の雨をかき消してベスタの声が響く。

「貴方の攻撃は軽いんですよ!我々を納得させるだけの説得力が無い!!」

仁理が振り下ろした斧を容易く受けるベスタ。

「主人公に相応しい“覚悟”が感じられない!!」

「俺は主人公じゃない!!!」

斧を捨てモーニングスターを振るう仁理。

「いいえ主人公です!!」

しかし、氷球はベスタの前で砕けた。

「なっ!?」

「貴方は!!」

影の剣を手元に残った柄で受ける仁理。

「主人公であるべきだ!!」

足下の影から手が伸び、仁理を弾き飛ばす。

「主人公になるべきだ!!」

空中で身を翻し反撃の姿勢で着地する仁理。

(氷の球がぶっ壊れたのは何故だ!?)

ベスタは追撃して来ない。寧ろ「来い」とばかりに悠々と佇んでいる。

(不気味だ......カウンター型か......?いや、)

パン!と手を合わせる仁理。

(極細の魔力の糸!!)

魔力操作は肉体から離れるごとに精密性を欠く。距離を取っている今のうちに消耗させよう、と仁理は掌印を結び大規模な術式の構築に挑む。

一方、その意図を察したベスタ。至近距離で受けるのは致命的であるため、此方も杖を振りかぶり溜めに入った。

「四界氷結!!」

「レイジングカース!」

冷気が場を支配し、その上を影が這う。

氷の手と影の手がぶつかり合う中、仁理がベスタに飛び掛った。

「ほう!!」

切断した仁理が氷像に変わる。

刹那、背後に斧を持った仁理が現れた。

「それは!」

瞬間、ベスタの左腕が落ちる。

しかし、目の前の仁理は動いていない。

「氷像!?」

瞬間、仁理が斧を振り抜く。

「違ぇよ!!」

すんでの所で避けたベスタは、上空の血しぶきの中央にある2本目の斧に気付いた。

「背後から!?いや、しかし!!」

魔力で生成された氷はかなりの魔力を帯びている。故に、背後から迫れば感知出来る。

逆に、魔力を帯びない氷は空中の水分を凍らせたものである。しかし現状、仁理の『四界氷結』によって空気中の水分の殆どが凍結した状態だ。

「何故!?」

仁理の振る斧が目の前まで迫る。

ベスタの目の前で斧が砕けた次の瞬間、

「掛かったな!!」

砕けた斧が大量の蒸気を吐きながら爆散する。

風圧で後方に押しのけられるベスタ。なんとか体勢を立て直し、魔力の糸を引いて腕を縫合する。

「水蒸気爆発か!!」

治癒魔法により腕を修復するベスタ。

「何故攻撃しない?」

「治癒魔法に意識を割かせた方が良いからな。」

有巣仁理は治癒魔法を使えない。故に、治癒魔法の難しさを知っている。魔力消耗も激しく集中力の要る治癒魔法を引き出すことこそ、仁理の狙いであった。

「......チッ。」

ベスタの腕が完治する。

睨み合う両者。膠着状態が数秒ほど続く。

観客は唖然としていた。

「ヒトリ様、すごい......!」

「ヒトリ......」

サフィアはその時、ただ一点を見つめていた。

(ヒトリの服に私の魔力で作った小さな魔鉱石を仕込んだ......量は氷魔法一回分、効果的な場面で使う!)

地面を覆う氷が爆ぜる。

同時に、影が仁理を掴もうと延びる。

氷を足場にして空中を移動する仁理。ベスタが放つ魔力弾を全て回避し、魔力の刃で斬り掛かる。

「魔力の刃!実に非効率!!」

ベスタが糸で受けようとする直前、魔力の刃が消えて白い球が現れる。

「な......ッ!?」

糸を止めきれず球が両断される。直後、球は大量の煙を発しながら爆発した。

ベスタのモノクルが割れる。

闘技場の舞台を覆う結界内に白煙が満ちる。

どうなった!?と騒ぐ観客。直後、煙が一点に吸われ始めた。

煙が向かうのは仁理の指先。一点に集中し数秒後、光を放ち始める。

当然、ベスタも警戒し、杖の先に黒い魔力を溜め始めた。

「大技のぶつけ合い!浪漫の見せ合い!!素晴らしい!!」

しかし、ベスタの予想に反し、仁理は指を天高く上げた。

「貫通魔法じゃあ......ない......!!」

魔力の収束が止まる。

「『(シロガネ)』最大出力・“王の雫”」

「カース・オブ・インパクト!!」

黒白、同時に炸裂する。

結界が唸る。

光が収まるのを待たず突進する仁理。

同じく、杖で迎撃するベスタ。

仁理の蹴りが杖で止められる。数度の攻防の後、仁理が大きく投げ飛ばされた。

光が収まる。同時に、仁理が体勢を立て直して突撃する。

(ベスタにはもう魔力の糸を練る余裕が無いと見た!)

(おそらくヒトリ君はもう氷を作れない!!)

両者が至近距離まで近付いた。

刹那、

「ぐ......ッ!?」

氷の槍がベスタの脇腹を貫く。

「......は!?」

不意打ちによろけるベスタ。同じく、予想外の出来事に狼狽える仁理。

ポケットの中で、何かが割れる音がした。

咄嗟に取り出す仁理。

「魔鉱石......!?」

氷属性の魔力を帯びていたであろう魔鉱石の欠片が、魔力を使い果たして砕けていた。

「同質の魔力は性質が似通っており擬態出来る!おそらくお仲間の粋な計らいでしょう!素晴らしい愛!!」

脇腹を治さずに両手を広げて叫ぶベスタ。

「これは一本取られました!これぞまさに!まさに王道!」

観客席からも歓声が巻き起こる。

「うおおお!流石!!」

「やっぱスゲー!!!」

しかし、仁理は動揺していた。

(何時だ!?いつ仕掛けられた!?)

一対一で公平に戦う、決闘という場。

「貴方を救うために!!貴方を勝たせるために!!」

(油断した!油断した!!)

タイマンの戦いに水を差された怒り。

「違う!こんなのは王道でも何でもない!!」

そして何より、自分を信じて貰えなかった憤り。

「何を言っているんです?!貴方は素晴らしい仲間を持った!!素晴らしい信頼関係を築いた!!!」

その時、仁理は、まだ溶けていない斧を拾い上げた。

「ヒトリ!やめて!!」

迷わず、仁理は自身の脇腹を引き裂いた。

観客席がどよめく。

「......何を、しているんです?」

「これで平等だろ!!」

魔力の糸で脇腹を縫合する仁理。

ベスタに背を向けて距離を取るように歩く。

「決闘とは!一対一で!己の実力で!雌雄を決する!真剣で公平な勝負だ!!」

(そうか......俺は......!)

「何より!」

振り返り、ベスタと目を合わせる。

「俺は!戦いが好きなんだ!!」

その言葉に満面の笑みを浮かべるベスタ。

「それが!貴方の根幹!!」

ベスタも、脇腹を魔力で縫合する。

「お前も同じか!!ベスタ!!!」

仁理も、幾年ぶりの高揚を覚えていた。

両者、得物を構える。

「ならば!!」

「だったら!!」

2点、白い魔力が集まる。

「私の全力で!!全身全霊を!!」

「俺の!今出せる全てを!!」

全身を魔力が駆け巡る。

「「ぶつけたい!!!」」

両者の砲撃がぶつかる。

同じ構造式を持つ貫通魔法。仁理の方が範囲が広い。そしてベスタの方が密度が高い。

轟音に耳を灼かれそうになりながら全てを出し切らんと踏ん張る両者。

数秒後、魔力の奔流が同時に止まった。

刹那、ベスタのすぐ傍まで駆ける仁理。

「何!?」

魔力切れでよろけそうになりながら、何とか杖で蹴りを防ぐベスタ。すると踏ん張った衝撃で脇腹から出血が始まる。

仁理の攻撃も荒い。縫合を維持出来る魔力は僅かに残っているが、操作が荒く鮮血が舞う。

幾度かの攻防の末、拳と杖で鍔迫り合いになる。

「素晴らしい!!初めて知りました!!魔力切れのその後!!徒手で戦えるなんて!!!」

「同感!全部使い切ってこんな動けるとは思わなかった!!」

攻防が続くこと数秒、仁理の脇腹の糸が解けた。

「好機!!」

迸る鮮血。魔力切れと見るや、杖で殴りかかろうとするベスタ。

仁理、手首を突き出し魔力の糸を吐き出す。

だが、ベスタは寸前で回避に成功した。

「惜しい!!」

「ぐ......ッ!!」

杖が仁理の腹に命中し、大きく後ろに弾き飛ばされる。

追撃の機かと見てベスタが大きく踏み込んだその瞬間、鈍い音と共に後頭部に重い衝撃が走った。

「ん゛......ッ!?」

倒れるベスタ。目の前に、歯が溶けて丸くなった氷の斧が転がる。

「まだ......解除して......いなかったか......!!」

立ち上がろうとするベスタ。その視界に、なんとか立ち上がった仁理の姿が目に入る。

「素晴らしい......!!」

力を失い、後ろに倒れたベスタ。

仁理は脇腹を抑え、ベスタに歩み寄る。

「ありがとう......ベスタ・カース......」

視界が大きく揺らぐ。

「......今までで一番、アツかった!!」

仁理の視界が暗転する。

闘技場が歓声で埋め尽くされたのは、僅か数秒後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ