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あの果てしない空の下  作者: kai
第一章
3/14

3.土上竜

ズィーベン・ドライとの戦闘の翌日。

鳥車を用意したサフィア一行は、民衆に見送られながら街を出た。

「すごい人気ですね。」

「貴族の中だと、サフィア様はまともな方ですからね。」

(そういやサフィアって貴族だったな。)

「ヒトリ様!おやつ食べよ!」

「今から食べたら着く前に無くなってしまいますよ。」


「本当に言わなくて良かったの?」

街を出てしばらくした鳥車の中、サフィアが言う。

「あまり名が知れると、無謀にも喧嘩を売ってくる輩もいますから。それに、厄介事を押し付けられても困りますし。」

リルを撫でながら言う仁理に、ユフィも同意を示す。

「確かに、護衛なのにサフィア様の傍を離れる事態になりかねませんね。」

「じゃあ、これからもできるだけヒトリの実力は隠していきましょう。ずうっと私の騎士様でいてほしいもの。」

サフィアのその発言で話がまとまったその時、御者が口を開いた。

「いやあ、にしても良かったですね。ちょうどドジョウリュウが休眠期に入って。」

「ドジョウリュウ?」

首を傾げる仁理。

「土の中を泳ぐ竜です。山ほどの大きさがあるので、災害指定魔獣になっているんですよ。」

仁理の様子を見て、ユフィが付け加える。

仁理は、ある表現に疑問を持った。

「土上竜か......土の中を泳ぐ?掘るんじゃなくてですか?」

「はい。なんでも、特殊な力で土が水のように変化するのだそうで。」

「そりゃ、災害になるのも納得ですね。」

(土を変質させる......巻き込まれたらたまったもんじゃないな。)

これフリでは?というツッコミは置いておき、魔力操作の訓練を始める仁理だった。



#5『夜戦』


その日の夜のこと。

形を覚えて氷魔法の足しにするべく両刃の斧を抱いて舐めていた仁理は、鳥車が停止したことに気付いた。

「ん?」

他の3人は寝静まっている。

音を立てないようそっと窓を開けると、操縦席に御者が居ない。

「おや?」

窓から操縦席に出る仁理。

周囲の異変があるかどうかは不明だが、取り敢えず停車はマズいと感じた仁理は、手綱を振って絆鶏を走らせる。

「ごめんよ。もうちょっと走ってくれ。」

仁理の言葉を理解してか、絆鶏の片方が鳴き声を上げる。

続いて車上に登る仁理。そこから車の後ろを見下ろすと、大量の骸骨が追ってくるのが見えた。

「おや。」

(アンデッドか?それとも式神や精霊の類か。何にせよ、このタイプの人外もこの世界には居るんだな。)

中央には黒いローブの男。

「あんた、吸血鬼連合の者か?」

返答は無い。

(このまま走ればローブの男は撒けるかもしれないが、問題はアンデッドだ。筋組織が存在しない以上、疲労は無いものと考えるべきだろう。対して此方は絆鶏が命綱。このままだとジリ貧か。)

氷で斧を作って投げてみる仁理。

斧は数匹のアンデッドにぶつかり消滅させる。

(討伐に際して特殊な条件があるわけじゃないのか......量産出来る疲労しない兵士ってだけでも強いが、ここまであっさり倒せると少し拍子抜けだな。)

何度か氷の斧をぶつけてアンデッドを全滅させた仁理。しかし、黒いローブの男に投げると器用に躱されてしまう。

(まるで2Dの自動スクロール型ゲームだな。)

その後、弾丸型の魔力放出、氷の槍、蜘蛛の巣状の魔力放出を試すが、どれも綺麗に回避された。

(弱ったな......やむを得んか。)

仁理は助走をつけて鳥車から飛び降りると、真っ直ぐ男に斬り掛かる。

(仕方ない。このままジリ貧になるよりはマシだろう。)

『 』を使うという考えは、現在の仁理には無かった。そもそも、大規模な破壊以外のどの手段でどう戦えば男を止められるかの見当が付かなかったのだ。

刀を躱した男は、魔法陣を伴った術式でアンデッドを再度召喚する。

一方、仁理は刀から巨大な魔力の刃を伸ばし、横薙ぎでアンデッドを一掃した。

当然、上に跳んで回避した男。しかし、それが仇となった。

「残念だったな。」

空中ではそれ以上動けない。それを利用し、仁理は魔力の糸で男を拘束した。

「さ、知っていることを話してもらおうか。」

フードを外すと、いかにも老獪そうな顔が覗く。

しかし、

「断る。」

そう言い、男は舌を噛み切った。

「はぁ。治癒魔法の1つでも使えりゃなぁ。」

そう言い、男の喉を切って心臓を刺して、仁理はその場を走り去るのだった。


周囲には丈の短い草ばかりで、糸での移動に使えそうな木などはほとんど無い。仕方なく、仁理は地面を凍らせ、その上を氷のボードで滑ることで移動していた。

(もう少し出力が高けりゃ車が作れるんだがな。)

魔力操作の訓練において、精度はセンス、出力と総量は日数に依存する。そこそこセンスがあった上に貫通魔法を4度使った仁理は精度こそ卓越しているが、出力と総量は未だ並以下である。身体に戻せる精度依存の糸なら総量はある程度無視出来るが、氷での移動をしていてはいつ魔力切れを起こしてもおかしくない。つまり、出力が高ければ車を作って楽に移動出来たのに、と仁理は嘆いているのだ。

「ぜ、全然見えねぇな......こんな開けてんのに。」


「んん......んぅ......?」

目を擦りながら上体を起こすリル。

サフィアとユフィが起きる気配は無い。

仁理を探そうと辺りを見回すと、窓の外の光景が目に入る。

「んえ!?暗い!!」

屈託の無い黒だ。車内の照明があっても、近くの景色すら見えない。

リルは、窓を開けて外の匂いを嗅いでみる。

「匂いは......しない。」

何より、仁理が居ないことを不安に思ったリル。

しかし、外に探しに出ようにも、この暗さではどうしようもない。仁理の匂いが残った斧を抱いて、リルは一人途方に暮れていた。

少し時間が経ったその時、

「おや、起きているのか。」

「誰!?」

斧を起き臨戦態勢に入るリル。

扉から入ってきたのは、真っ白なローブに真っ白な髪の男だ。

「物騒なものだね。心配しなくても、取って食ったりは......いや、するか。いや、しないよ。僕は紳士だからね。」

「しんし?」

「そう、紳士。真摯な紳士さ。」

「うーん、むずかしい......」

頭を使ったことで自然と警戒が緩まるリル。

「いやぁ、あの童貞野郎、中々引き離せなくて大変だったよ。ま、そのお陰で思わぬ収穫もあった訳だけど。」

「ドーテー?ってなに?」

「性交経験の無い男のことさ。」

「せーこー?」

「交尾だよ。」

「交尾!交尾ならわかる!......で、そのドーテーはだれ?」

「はぁ......君は本当に学が無いね。恥ずかしくないの?」

「リルは自信を持って生きてるから恥ずかしくない!」

「そうかぁ。救いようのない馬鹿っているものなんだねぇ。」

「で、そのドーテーはだれなの?」

「有巣仁理。君の主人だよ。」

瞬間、青い魔力で車内が満たされる。

「ヒトリ様を、どこへやった!!!!」

「ッハハ!そんなカッカするなよ。怖いだろ?」

男の胸ぐらを掴むリル。

「どこへやった!!!」

「やめてくれよ。僕は意外とビビりなんだぜ?」

男を投げるリル。男は、窓を突き破って外に飛び出した。

すると、外の景色が一気に明るくなる。

真っ黒な空に、白い地面。およそこの世のものとは思えない光景だ。

「ヒトリ様を返せ!!!」

殴り掛かるリルの手を掴み、男は呆れた顔をする。

「おいおい、やめてくれよ。効かないのはわかるだろ?このまま戦っても君は勝てないし、僕は負けるつもりなんて無い。」

「うるさい!!」

「それなら、話し合いに徹した方が良いとは思わないのかい?僕はこんなにも冷静に冷淡に冷酷にも君に話し掛けているというのに、君と来たら」

「うるさいうるさいうるさい!!!」

再度男を投げ飛ばすリル。

「話聞けよ脳無し!!」

「黙れ!ヒトリ様を返せ!!」

「知らねぇよワンコロ!!!」

男が腕を振ると黒い塊がリルに襲いかかる。

リルはそれを引き裂こうと爪を立てるが、食い込んで抜けなくなってしまう。

「なに、これ......気持ち悪い!!」

掴もうとすると張り付き、剥がそうともがくと広がる。あっという間に、塊はリルの全身を覆いつくした。

「やれやれ。抵抗しなければこうはならなかったのに、これだから獣人は。身体だけは一丁前なんだから、頭が悪いなら身体を売れば良い。」

「それは心外ですね。」

そう言いながら、鳥車からユフィが出て来る。

「リル様を解放していただけますか。」

「んー......」

ユフィの全身を舐め回すように見る男。

「一般的に、人間は胸が大きい方が好みらしいね。」

男の言葉に、ユフィは眉ひとつ動かさない。

「可愛げが無いなぁ。ま、マグロも嫌いじゃないんだけどね。僕は割と雑食なんだ。色んな性癖を」

「解放する気がないのなら、攻撃を始めますが。」

明らかにわざと遮られ、男は眉を顰めた。

「話を遮るなよ。僕の話の途中だろ?」

「下衆の話を聞く義理はありません。」

瞬間、鼓膜をつんざくような音量の重低音が響いた。

「ぐぅ......っ!!」

「うるさいなぁ!どいつもこいつも!!僕がこんなに理性的に対応してやってるのに!!僕がその気になれば片手で君たちを殺せるんだぞ?!もっと僕に敬意を表するべきだろ!もっと僕を尊ぶべきだろ!!!」

「っああ......!!」

ユフィの目から血の涙が溢れ始めたその時、空にヒビが入った。

「悪い。遅くなった。」

ヒビが広がり、隙間から仁理が落ちてくる。

「ヒトリ様......?」

「お前は!!いつもいつも!!僕の邪魔を......おやぁ?」

すっかり異世界にチューニングされた仁理を見て、男はニンマリと笑う。

「これはこれは!!魔力も霊力もすっからかん!おまけに神器も神化も無い!そんな腑抜けた姿でどう戦うんだ?!!!」

仁理はリルの拘束を解き、後ろへ突き飛ばす。

「げほっ、ゲホッ......ヒトリ様!!!」

「ヒトリ様、彼は一体......?」

「知る必要は無い、と言いたい所だがな。」

男が再度、不気味な笑みを浮かべる。

「ヤツはアスモデウス。魔界に存在する最上位の悪魔だ。」

「悪魔......!?」

「さいじょーい?ってどういうこと?」

「めっちゃ馬鹿ってことだよ。」

「違う!!最も神に近い者という意味だ!!」

「ん......?何が起きてるの......?」

その時、サフィアが鳥車の中から出て来た。

「サフィア様!戻ってください!」

当然、ユフィは止めようとする。

「安心しなよ。僕は美人を傷付けたりはしないよ。」

「あぁ。だからキショいんだ。」

「気色悪いのはお前だろ童貞!!」

「黙れよ処女厨。」

「神聖な処女に魅力を感じるのは当然だろ?!それに、人間の手垢が」

「ハイハイ強い強い。」

「お前!お前はいつも!!僕の話を聞かないよなぁ!!!」

激昂して霊力の奔流を仁理にぶつけようとするアスモデウス。しかし、黒い塊は仁理の5m前で左右に分かれて流れて行く。

「ちょっとぐらい!話し合いで解決しようだなんて思わないのかなぁ!!!」

「話し合う必要は無い。」

仁理が指を鳴らすと、黒い塊が全て消滅する。

「粛清対象だ。」

空間が揺らぎ、空が割れる。

「な......っ!?」

「折角、異世界ライフを愉しんでいたのに。とんだ邪魔が入ったな。」

割れ目から巨大な眼が覗く。

「本物の......神?」



「んん......んぅ......?」

目を擦りながら上体を起こすリル。

サフィアとユフィが起きる気配は無い。

仁理を探そうと辺りを見回すと、窓の外の光景が目に入る。

「んえ!?暗い!!」

星一つない夜だ。

「目が覚めましたか。」

操縦席から声が届く。

「ヒトリ様!なんでそこに?」

「御者が消えたので。」

絆鶏に餌をやりながら、仁理は溜め息をついている。

その時、サフィアとユフィが起きてきて、仁理の方を覗く。

「ヒトリ、大丈夫?」

「成程な。成程、成程。」

「ヒトリ?」

(此方にも彼らは干渉出来る、ということは、この世界の魔法はもう少しレベルが高い可能性がある。魔法の練度を上げないとなぁ。)

「私は大丈夫ですよ。」

「無理しないでね。一日中、鳥車の操縦をしてたんだもの。」

「......おっと?」


(どういうことだ?御者の存在が丸ごと無かったことになっているな。)

しかし、事実として鳥車も絆鶏も存在し、食糧は5人×日数分ある。要は、過去は変わらず、御者に関する記憶のみがごっそりと抜け落ちている状況なのだ。

仁理の確認した仁理以外の認識では、鳥車と絆鶏は業者が用意し、食糧は余裕を持った量を用意したということだ。更に、土上竜への言及は王都を出る前に聞き、鳥車の操縦は仁理が行っていたということになっている。

「リル。絆鶏も寝ましたし、私はしばらく眠ります。異変があればすぐに起こしてください。」

「わかった!」

直前まで寝ていたためか元気いっぱいのリルに見張りを任せ、仁理は横になる。

(課題は2つ。1つは、御者の失踪の謎だ。原因が判らない以上、このまま放置するとマズい可能性がある。もう1つはさっき始末した黒ローブだ。おおかた吸血鬼連合の手先だろうし、吸血鬼の力が増す夜間に襲撃を掛けてくる恐れがある。)

ふぅ、と溜め息をつく。

(さっき魔界で使ったせいで『 』は暫く使えない。ぶっちゃけ、リルがどれだけ戦えるかにもよるが......)

リルは呑気な顔で鳥車の周囲を跳ね回っている。

(不安だなぁ......)



翌朝。

(心配事の9割は杞憂に終わる、とはよく言ったもんだな。)

特に何の異変にも見舞われることなく朝を迎えた仁理は、氷で斧を作り振ってみる。

(魔力、身体機能共に異常無し。)

「サフィア様とユフィさんは異常ありませんか?」

「ええ。2人とも変わりないわ。」

リルは仁理の起床時、既に眠っていた。しかも、とんでもなく幸せそうな顔で眠っていた。

「朝食はどうする?」

サフィアに訊かれ、仁理は首を横に振る。

「私は遠慮しておきます。」

「もう、ちゃんと食べないと更に痩せるわよ。」

「余計なお世話です。」

餌を平らげた絆鶏に「よろしく」と挨拶をし、仁理は操縦席に座る。そして間もなく、鳥車は走り始めた。


しばらく進んだ所で、鳥車が大きく揺れた。

「ヒトリ!」

「石でも踏んだんですかね。」

「いえ......後ろに......」

「後ろ?」

仁理が振り向こうとすると、すぐ横に顔がある。

「わぁ。」

「君がヒトリ君?」

騎士団の制服を着たその女は、鼻息荒く仁理に近寄っていた。

(魔力の気配が無い?)

「......そう...ですね。」

「いやはや、追い付けて良かった良かった!」

仁理の身体をベタベタと触る女。

「あの。」

「細いけど、やっぱ男の子って感じだぁ!んふふ。」

無抵抗に身体を触られ続ける仁理。その様子を見て、リルがムッとする。

「おい!牛女!ヒトリ様に触るな!」

「あらあら、ごめんねぇ。つい興奮しちゃって。」

「えっと......なんで副団長さんがここに?」

首を傾げるサフィア。

「良い感じの男の娘が王都を出発したって聞いたら、急いで追い掛けて来たんだぁ。」

「えっ徒歩で!?」

「うん!徒歩で!」

そして、会話を反芻し目を丸くする仁理。

「副団長!?」

「うん!あ、自己紹介がまだだったね。私は王都直属騎士団副団長のアンシー・ヴィオルテ!」

「アンシーさんですね。私は有巣仁理です。」

「よろしくね!ヒトリ君!」

仁理の手を握りブンブン振るアンシー。

「よ、よろしくお願いします......?」

一方、その力強さに困惑する仁理だった。


「ヒトリ。なんか暑くない?」

「あー、確かにそうですね。」

サフィアとの会話の直後、背後から魔力の気配を感じた仁理。振り返ると、車内でサフィアが氷を作っている。

「あんま濡らさないでくださいよ。木製なんですから。」

「わかってまぁす。」

その時、莫大な魔力の気配を感じた仁理。

「おっと。」

地響きが轟く。

「えぇ!?」

鳥車の右側面、一同の前に姿を表したのは、

「でっかあああああい!!!」

空を穿つほど大きな海竜の姿だった。


#6『陸を泳ぐ竜』


大量の土埃を上げながら土上に着地する竜。その槍のような頭が、水のように波打つ土を受けている。

(熱風!見るからに海竜骨格なのに恒温動物なのか!いや、それ以上に気になるのはあの土だ!通常の挙動じゃない!)

おそらくあれが土上竜だ、と仁理が思考を巡らせた所で、竜が大きく身体を捻ったのが目に入る。

「来る!!」

手綱を振り絆鶏を加速させる仁理。

しかし、おそらく回避が間に合わないだろうと見るや否や、アンシーが仁理の肩を叩いた。

「武器!何か武器無い?!」

「これを!」

仁理が斧を作って渡すと、アンシーは車から飛び降りた。

「アンシーさん!?」

「リルも行く!!」

「リル!!?」

竜が体勢を変えた。

「うおりゃあああああああ!!!!」

次の瞬間、竜の頭部に火花が咲く。

衝撃に耐えかねて体勢を崩し大きく減速する竜。同時に、アンシーが着地したことで鳥車も体勢を崩す。

「ヤバい......!!」

「任せて!」

すんでのところでサフィアが氷の壁を作り出し体勢を立て直す。

「リルは?!」

「わかんない!」

ユフィが窓を開け、氷のレンズを作って竜の周囲を見る。

「居ました!背中です!」

「背中ぁ!?」

サフィアからレンズを差し出され、仁理も確認する。

仁理が目撃したのは、竜の背中を勢いよく突っ走るリルの姿だった。

「あンの馬鹿......ユフィさん!!」

「はい!」

ユフィに手綱を渡し、車上に上がる仁理。

「土上竜の動きが遅くなってます!おそらくさっきのアンシーさんの攻撃が効いているのかと!」

仁理のその言葉を聞き、腕を組んでドヤ顔をするアンシー。

「いい感じに当たったもんねぇ。」

「言ってる場合か!今の内に仕留めるんですよ!!」

「あ、そうか。」

即座に仁理は氷で細い砲身を作る。

「それは?」

「これで貫通魔法の威力を一点に集中させて撃ちます!綺麗に脳をぶち抜けば殺せる筈!」

仁理は即座に魔力の充填を始める。

「私はどうすれば良い?」

「頭の位置の特定とリルへの撤退指示を!」

「わかった!」

車から降り、アンシーはダッシュで竜を追い掛けて行く。

「......バケモンが。」

アンシーの走る速度が速すぎて、竜よりも前に躍り出ていた。


大きく跳躍し竜の上に乗ったアンシー。

「リルちゃーん!!」

竜の背中の中央付近、棘のように尖った鱗の裏で、リルが爪を突き立てていた。

「居た!リルちゃん!」

「ここ!ちょっと柔らかい!」

「爪じゃあ無理だよ!」

「じゃあどーするの!!」

「頭を探そう!そうすればヒトリ君がやっつけてくれる!」

「わかった!!」

リルは攻撃をやめ、四足走行で前に駆けていく。

その後を追い掛けるアンシー。

瞬間、竜が身を捩った。


身を捩った竜を見て仁理が舌打ちする。

「チャージが間に合わん!!」

仁理は貫通魔法のチャージをやめ、砲身を氷の斧に変化させる。

「飛んでけッ!!!」

ハンマー投げの要領で斧を投げる仁理。

魔力強化の恩恵もあり、斧は真っ直ぐ竜の背中へ飛んで行く。

竜のヒレが鳥車の目前まで迫ったその時、再び火花が散った。

「ヒトリ君!」

今度は上手く着地したアンシー。

「大丈夫です!そっちは?!」

「大丈夫!!」

直後、リルも鳥車に戻って来る。

「頭見つかんなかった!!」

「成程!」

サフィアが車上に上がって来る。

「何か策は?!」

(魔法防御なら貫通魔法で突破出来る。しかし、鱗による物理的な高防御は威力を上げないと無理だ。だから一点に威力を集中させて突破しようとしたんだが、急所がわからなきゃ無理だな。)

「ヒトリ!早く!!」

黙ったまま思考を止めない仁理を見かねたサフィアが急かすように声を上げる。

(土上竜の骨格は首長竜じゃなくモササウルスのようなずんぐりむっくりなモノだ。その上、ドリルのような鱗を纏っているため頭部の特定は困難。その上、不安定な足場から狙うことが出来るのか?そもそも、威力を集中させたところで貫通出来るのか?)

しかしそこで、仁理はある策を思いついた。

「直接、脳を凍結させれば......」

「脳を......?」

サフィアは目を丸くし、竜を仰ぎ見る。

依然として、竜は熱風を放っていた。

「アンシーさんの攻撃が2度命中しても全く動じていない。不安定な足場とこの距離では貫通魔法の命中率も低い。ならば、とにかく動きを止めることに全力を注ぐべきでしょう。」

「駄目です!!」

ユフィが操縦席から声を上げた。

「サフィア様にそのような危険なことはさせられません!!」

隣に視線を送る仁理。アンシーも同感といった様子だ。

「尽きたか......万策。」

その時、リルがあ!と声をあげる。

「祝福は?!ヒトリ様祝福持ってる!!あの潰すやつ!!」

「事情あって今使えません。」

「事情?」

「昨夜皆様が眠っている間に戦闘があって、そこで負荷を掛けすぎたんです。」

「ヒトリ......!」

仁理の顔を見るサフィア。

「ごめんなさい。事情も知らず怒鳴って......」

「謝罪する暇があったら頭を回してください!」

「......わかった!」

仁理の喝を受け、サフィアの表情が変わる。

竜を仰ぎ見るサフィア。依然として、竜は並走を続けている。

「お腹......」

そう呟いたのはアンシーに視線が集まる。

「お腹?」

「お腹なら、柔らかくて攻撃が通ったりしない?」

一同の視線が土上竜に戻る。

しかし、

「でも、リルの攻撃は効かなかった!」

「お腹に入れたの?」

「ううん!背中!」

先ほど、リルの攻撃が入っていたのは鱗の生え際の柔らかい部分だ。

「鱗の付け根の所だったよね?」

「うん!」

アンシーの補足によりリルの情報が纏まった。

「成程......」

「多分、貫通魔法なら通るわよね?」

「希望的観測ですが、おそらくは。」

(柔らかい部分......付け根......)

「......鱗の付け根?」

氷でレンズを作り、再度竜の背中を見る仁理。

「あそこ!」

リルの指さす先、背中の中央には、大きな鱗が一本、槍のように生えている。

(脊椎動物は基本的に相同器官と呼ばれる共通部位を持つ。)

イルカのヒレや鳥の翼の骨格は、ヒトの手の骨格と似ている。つまり、ヒレや翼は手と共通のルーツを持つということだ。そしてこれを相同器官と呼ぶ。

(一際尖っている背中の棘。そして、その真下にあるヒレ......おそらく、あの位置が俺らの肩にあたる位置。なら、棘の付け根に鱗が無いのは何故だ?)

考える仁理を見る3人の緊張が高まる。

再び、竜が身を捩った。

「マズい!アンシーさん!」

「がってん!!」

サフィアから斧を受け取り竜を叩きに行くアンシー。

その背中を見て、仁理は違和感を覚えた。

「騎士団の団員は鎧とか着るんですかね?」

「えぇ?......着ない、んじゃないかな。魔力があるもの。」

仁理の突拍子も無い発言に面食らいつつ、サフィアは真面目に答える。

「魔力......あの竜も莫大な魔力を持ってますね。」

アンシーの攻撃が命中して怯む竜。

「そもそも、鱗って必要なんですかね?」

「ん?竜は鱗を持ってるものでしょう?」

「確かに、普通の竜はそうですね。」

仁理の言葉を聞き、サフィアは目を見開く。

「そっか!魔力があるから!」

「はい。あの鱗は多分、元々持っているものではなく、泳いでいる最中にぶつかった土砂や岩石が堆積したものです。それなら、棘の裏や身体の後ろ部分の鱗が薄いのも納得出来る。」

アンシーの攻撃が再度命中する。しかし、鱗は剥がれない。

それどころか今回、竜は怯みもしなかった。

「!?マズい!!」

咆哮。直後、鳥車が大きく揺れる。

「なに!?」

「サフィア様!!鳥車が沈んでいます!!」

ユフィが操縦席から大声を上げた。

「なんで!?」

「わかりません!!とにかく飛行の準備を!!」

「わかったわ!!」

サフィアが氷で背中に翼を作る。

「サフィア様はリルをお願いします!」

「了解!!」

リルを抱えて飛ぶサフィア。同時に、仁理はプロペラを作り出し、ユフィを抱えて飛ぶ。

「ハンケイが!!」

サフィアの腕の中で悔しそうにするリル。

「荷物も沈んでしまいましたね......」

幸か不幸か、土上竜は一行を置いて先に進んで行った。その後ろ姿を見ながら、仁理とユフィは地面に触れて硬度を確認する。

「土に戻っていますね。」

一同は着地し、話し合うまでもなく氷魔法で作ったスコップで地面を掘り始めた。

「......ん?アンシーさんは?」

首を傾げる仁理。

サフィアとユフィは目を見合わせる。

「えっと......竜の背中の上?」


幸い、絆鶏を掘り起こすのには大して時間を要さなかった。そして、処置が早かったことで絆鶏は2羽とも一命を取り留めていた。

その後、鳥車をなんとか掘り起こした一行は、車内の土を外へ掻き出す作業をしていた。

(土上竜が休眠期だ、という御者の情報が間違いだったのか、それとも何かしらのイレギュラーが起きたのか......恒温動物だからそもそも休眠期なんて無い可能性が高そうだが。)

「......釈然としないわ。」

そう口にしたのはサフィアだ。

「釈然としない、とは?」

「あんなに大きくて速い生き物が居るのに、なんでみんな王都から辺境まで無事に行き来できてるのかなって。」

「確かに、あの巨体と能力を考えると、出会った時点で終わりですよね。」

ふぅ、と息をつき汗を拭く仁理。辺りには、一切の遮蔽物すら無い平原が広がっている。

「そもそも、人間を襲う意味があるんですかね?」

ユフィが言う。

仁理も考えてみるが、思い当たる節が無い。

「野生動物が人間を襲う理由は主に、縄張りを守るため、食料にするため、子供や自身の身を守るためなどの理由がありますね。」

「縄張りだったら王都に来るときに襲われてるはずよ。あの大きさなら身を守るためってのも違いそう。」

「じゃあ......食料?」

リルが言うが、仁理は首を横に振る。

「いや、それならとっくに食べられている筈ですよ。ヤツの方が速いし大きいので。」

「いっそ食べられた方が、中から貫通魔法で倒せたかもしれないわね。」

「んな物騒な......」

その時、遥か前方からとんでもない速度で近付く影があった。

「みんな!大丈夫?!」

「アンシーさん!そっちも大丈夫?」

真っ先にサフィアが気付いて声を上げる。

「はい!私はだいじょうぶい!!」

「だいじょうぶい......?」

「とにかく!一旦王都に戻るよ!!」

突拍子もないことを言い出すアンシーに戸惑いながらも、来た道を引き返す一行だった。

Tips:アスモデウス

魔界に住む上位悪魔の一体。女誑しのプレイボーイな反面、プライドが高く人を見下す癖があるため早々にボロが出る。

有巣仁理には、今までに何度も殺されている。

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