2.標的の一つは…
琉と茜は命を賭けた世界史のテストを中止すべく、X組の元担任・田山に話を持ちかけた。
「田山先生、すぐに中止にして下さい。百人の何の罪もない人が、一週間後、X組に殺されてしまう。」しかし、田山は黙ったままだ。何も言わない。「先生!」琉は次第に大きな声を出す。すると机の影から、「残念だけど…中止には出来ないわ。」と、弘子の声がした。「教頭先生…。」茜は、弘子に目がいく。「中止に出来ないって…どうしてですか?」琉は声を上がらせる。
弘子は詰まったような声で、「…実はねX組はね、とある所に爆弾を仕掛けたらしいのよ。テストを中止したら、その人達が亡くなる。絶対に、百名以上の死者が出るわ…。」琉は声を上げて、「何言っているんですか?警察にすぐに言いましょう。」と、言った。しかし、田山が「残念だけどそれも出来ない。」と、辛そうに言った。「どうしてですか?」茜は疑問を持った。田山は「警察にこの事が少しでもバレると人質達は即爆発。更にこの学校も…。百名を見殺しにするより被害者が増えて酷くなるよ…。」
その言葉に琉は切れた。「アンタ達は自分の教え子を、簡単に見捨てるつもりですか?」田山は下を向いたまま、「…別に見捨てた訳じゃない。僕だって本当は助けたいさ。今もこうやって策を教師達と練っている。…ただ、最悪はこうなるかもって事だよ。申し訳ないけど、百人の犠牲が最小に抑えられるんだ…。そして犠牲の出ない方法なんてないんだ…。」冷酷に淡々と話す田山と弘子に、琉と茜は黙ってしまった。
X組の真の力。自分達の考えの甘さ。そして、ただ誰も助けられず、指を銜えてその時が来るのを待つ…。考えているだけで自分が情けなく、苛立たしく思えた。
「その、人質にされた場所って?」琉は弘子に尋ねた。「それは知らないわ。でも、死者二百人以上は確実に超えると、睦月皇が言っていました。」田山と弘子の態度には相変わらず不満はあった。どうしても助けられないのか…。琉は悩んだ。だが、悩んだところで何も始まらなかった。
「…それなら仕方がないですね。先にそっちを捜して、そして爆弾を見つけて、警視庁の大西警部辺りに頼んでこっそり爆弾を解体するしかないですね。これが、一人も死者を出さない、賢い考え方だと俺は思います。」茜も、「そうね…それが一番だわ。それに、まだ光があるかも知れないから、私はX組の人達を出来る限り説得するから。」琉も同意した。「そうだな、誤りの道に突き進んでいるって事に教えてあげないといけないな…。先生達は爆弾の場所を、俺等はX組を説得しますから。」こう言って、琉と茜は部屋から出て行った。
職員室に残った田山に弘子は、ボソッと言葉をかけた。「不思議ね。」田山は弘子の言葉に振り向き、「えっ。」と、聞き返す。弘子は目を瞑って、「私がここへ来て早一年が経つわ。来た時は、X組の素行に悩まされていなかった。でも、徐々にX組は頭角を現していき、永遠にこの学校はX組の処罰に悩まされ、きっと廃校になる運命なんだとばかり思っていたわ。」田山は黙って聞く。弘子は目を開けて、「でも今じゃ、その考えも無駄みたいね…。だって、たった一筋の美しい光が、『黒光高等学校』に差し込んでいるような気がしたんですもの。」弘子はそう言った後、ふっと笑って、帰り支度を始めた。
自分達が突き進む、明るい未来に向かって…。




