8 下降
8 下降
小さく……しかし確実に明るい光源がそこには見えている。
目の前を流れてゆく天井照明がゆっくりとカーゴが降って行くことを証明しているようだった。
「……地上班
あれ何者だ?
手際が半端なかったな」
グラントが独り言のように呟いた。
『彼らはあなた方のサバイバル教育課程の3期先輩で、歴代最高評価の部隊になります。』
テラはさらりと凄い情報を開示した。
『そして彼らはあなた方の予備として選ばれ、事前準備のほぼ全ては彼ら主導で行われています。
しかし、彼らでもこの斜行エレベーターの修理・点検整備に時間がかかり、ゲートの修理は最低限に留めたようです。』
ここに来た時の光景が少しコミカルだったのはそういうことだったのか。
それにしても……
「あの、テラ?
予備って、どういう事です?」
リナの言葉に少し棘を感じる。
『エイド班がこのミッションを辞退した場合は彼らのチームからの選抜隊で地下に向かってもらう予定でした。』
「歴代最高評価の部隊から選抜……
……予備……
テラ様……
本当はこのミッション、あちらのチームに任せたほうかよかったのでは?」
僕は自分の声が震えているのを感じていた。
ひょっとしたら、僕は判断を誤ったのではないだろうか?
『エイドリアン、誤解を招いたようなのでもう少し詳しく説明します。
あちらのチームは20人の部隊となっています。
歴代最高評価はあくまでも隊としての総合力評価です。
今回のように少人数の場合、その評価は参考になりません。』
テラが説明を続ける。
『その点、あなた方は当初から少人数での運用を前提に編成されています。
少人数での総合力ではエイド班が上と評価しました。』
……
みんな黙って続きを促している。
『また、隊としての評価は向こうが上とお伝えしましたが、それは判断の早さによるところが差として出てきています。
エイド班は決断までは少々時間が掛かりますが、逆に可能な限りリスク回避に行動しようとしている表れでもあり、特にこの任務では重要視すべき点でもあります。
以上の事から、今回のミッションにはエイド班が最適解と判断しています。』
……
「それって歴代最高評価の隊よりも高く評価されたってこと?!」
上から声がしたかと思ったら、軽い着地音と共に、ノアが飛び降りてきた。
「ノア!
飛び降りたりとか危ないでしょ?
まだ任務本番前にも関わらず怪我でもしたらどうするのよ!」
リナが結構本気で怒っている。
『……失礼しました。ノアの行動を考慮すると、現在の評価には誤差が含まれている可能性があります。』
「えぇー
……僕のせいで評価下がるの〜」
「あなたが軽率だからでしょ!」
カーゴ内が笑いに包まれた。
「あっ何か来る…」
「もうノア!
都合が悪くなると話題を変えるんだから!」
「いや、ホントだって!
あれ!」
ノアは少し下を指さすとそこには小さな光源が近づいて来ていた。
……坑道内に入ってからあまり意識はしていなかったが、僕らが乗っているレールとは別に隣にも同等のレールが敷設されている。
近づいてくる光は、おそらく隣のステージで間違いない。
「なるほど……
あれは、おそらくカウンターウエイトの乗ったステージだろうな……」
グラントが楽しそうに向こうのステージを眺めている。
「こちらのステージとのバランスをとるために水で重さを調整するなんて、簡単そうでなかなかの発想だよな!」
目視でも向こうステージが確認できる距離になり僕たちは改めて驚いた……
ステージが……ボロボロだ。
錆びてない場所が見当たらないのではないか?
それほど錆びて穴だらけのステージが鉄骨で補強され、そのうえには今回の水重りであろう水槽が固定されている。
我々の乗っているステージから出ている光が当たりだすと揺れる水面に合わせて天井にキラキラと光を反射させている。
きれいだ。
天井に反射する光は美しい絵画のようだった。
ステージがいよいよすれ違う近さになった時に水槽に背中を預けて座っていた作業員達がゆっくりと立ち上がった。
汚い作業着を身にまとった3人がこちらを見つめ、敬礼している。
「彼らがいたから、安全にエレベーターが使えるんだな……
大変だったろうに尊敬するぜ……」
グラントはそういうと、佇まいを直し、静かに敬礼をした。
僕を始め、あのノアですら直立で敬礼を返していた。
数時間後――
長い下降を終えた僕たちは、薄暗い広場へとたどり着いた。
壁には、大きな文字が残されていた。
『頑張れよ』
あの3人の残したもの……
いや、サポートチーム全体の言葉だろう。
僕は思わず笑みをこぼし、そして、静かに敬礼した。
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