3 準備
3 準備
テーブルにはノートPC型の端末と壁の大画面を操作するためのコンソールが置かれている。
一時代を築いたこの形も、今ではタブレットやヘッドギア型が主流だ。
それでも現場では、結局これが一番使いやすい。
ノートPC以外にもたくさんの紙とペン、そして飲みかけのペットボトルが複数置かれている。
渋い顔をしたグラントの前には持ち込み工具のリストが出ている。
「あぁエイド…
いい所に来た。
ちょっと相談に乗ってくれ」
くれ…僕のほうが年上で、このチームのリーダーだけど…
まぁ、グラントはこれくらいが平常運転だ。
「グラント…会話には敬意を持ちなさい!」
別の作業を頑張っているリナが注意した。
よく見聞きしている。
「すまない、エイド
相談に乗ってくれ…ないか?」
一瞬間が空いたのは言い直したつもりで変わってなかったのに気がついたからだろう。
「大丈夫!
グラントは平常運転の方が話しやすいよ」
僕はあえてみんなに聞こえるように答える。
言葉を選んでぎこちない会話のほうが、遠慮されてるみたいで嫌だ。
「すまん、助かる
…で、このリストなんだが…」
見るとカーゴに積載予定の工具リストだ。
「確かにイレギュラーがなければこの程度で良いとは思うんだが…
いざと言う時に欲しいと思う工具が全然足りないんだ。」
リストには赤い丸がついていたり工具が消されたりしている。
「…この辺は、代用できる工具が入ってるから重複してるかな…」
リストに線を引きながら工具の横に数字を書いている
「スパナもモンキーレンチ2丁あればだいたい事足りるし…あっでもメガネは欲しいかも…」
グラントは相談と言いながら考えながら作業をしている…
これは進まない…
「グラント、必要と思う物は一通りリストアップして、そのうえで本当に必要か考えよう」
僕はリナの方へ向かった。
「リナはどう?」
僕は段ボール箱と小さな袋でパズルをしているリナに近づいた。
「レーションの入れ方よね〜
そうそう、私も相談したいんだけど、何とかあれを持ってけないかしら?」
目線の先にはいつの間に運び込まれたのか小型の洗濯機程の大きさの物が置いてある…
「小型の洗濯機?」
リナが呆れたようにため息をつく…
「残念…これは空気中の水蒸気を水に変えてくれる清水器よ…」
「食料は二週間分で足りる。でも水がね……。
普通なら一人一日三リットル。
でも作業するなら五リットルは見積もりたいの。
このままだと足りない気がするのよ。
だから、あれが欲しい。」
そして、少し俯きながら小声で言った。
「あの……レーションのメーカー変えれないかなぁ…
このメーカー美味しくないんだよね…」
「うぅ〜ん、たぶん美味しくないでメーカー変えては難しいな…
何か他の理由考えてよ…
でも、清水器は何とかスペース作って入れよう!」
僕はリナを後にしてノアの元へ……
見ると、教本とモニターを見ながら手を動かしている。
「ノア、どうした?」
「あっエイドさん
この車両いろんな機能付いてますよ、面白い!
使いこなすの大変そうです。」
ノアは実際に操縦する事を見越して操作を覚えてくれてる。
「真下が見えるモニターと前後左右の下部センサー、そしてウインチをリンクさせることでとんでもない傾斜でも自動降下が可能です。
これ気が付かなかったら段差やすごい坂があったら詰みでしたよ」
ノアが得意げな顔で話してくれる。
「……でも通信環境あるから避けるようテラ様が補助してくれると思うぞ?」
「えっと……あぁ……なるほど……
そうですよね……」
みるみる元気がなくなっていく……
まて……いや……マズイな……
「いや、操作がわからないより分かったほうがいいのは間違いない、引き続き頼むよ!」
ホッとした笑顔と同時に
『ぐぅぅぅぅ~〜〜ぅ』
ノアのお腹がなった。
「……お腹すいた〜」
部屋の空気が少し軽くなった。
……
………
「こちらが見直した資材リストになります」
事前に僕はまとめたデータを送っている。
今日はその確認と交渉、そしてプレゼンの日だ。
なぜかテラとの交渉に他のメンバーは逃げ腰で……結局僕ひとりでここにいる……
つまり僕の交渉次第でチームの指揮が変わってしまう……
『事前のデータで確認しましたが、カーゴの容積をずいぶんオーバーするようですが……どうする考えですか?』
ここからが正念場だ……
「まず、優先順位的に清水器ですが、こちらはレーションの入った段ボールから袋を取り出し詰め直すことで容積が2/3程度まで削減できます。」
僕は持ってきた台車から重い段ボールを取り出してみせる…
1人で運ぶのはちょっときつい重さになっている。
「このように緩衝材を抜取り互い違いに詰めることで隙間なくきっちり収まります。そこで空いたスペースに清水器を置きたいと思っています。」
『なるほど、箱でしか認識していませんでしたが、詰め込めるのならば清水器は良いでしょう』
まずは1つ目クリア!
「次にレーションですが、こちらは増減ではなくメーカーの変更をお願いします。」
『そこですが、なぜ変更なのですか?』
そうだよね……
「はい、塩分濃度の違いです。
我々の作業環境の詳細が分からないため、重労働の可能性が0ではありません。
過酷な環境下では塩分不足は深刻な事態を起こします。」
少しの沈黙のあと……
『分かりました。』
よし!
『しかしながら……』
え?あれ?ダメ?
『そもそもレーションとは行軍用携行食です。
必要塩分量も確保されております。
また、両社の塩分濃度ですが0.1%程しか差はありません。
コレはもはや誤差の範囲と言えるでしょう。
変更は不要と判断します。』
やっぱり普通、0.1%とかで差って言わないよなぁ〜
『次に…』
「まって……
……テラ様待って下さい。
確かに0.1%でしょう……
しかし、小さなことの積み重ねが成功率を押し上げます。
塩分は、ひ…必要です。」
『塩分補給の為に塩のタブレットがリストに入っていました。
見落としましたか?』
知っている…
確かに入ってた…
「いや……でも……」
『次の議題に……』
「いや、テラ様
食事は僕らの唯一の楽しみです……
少しぐらい美味しいものが食べたいって言ってもいいじゃないですか?
お願いします。」
『それは、このレーションが美味しくないって事ですか?』
「はい…あの…正直マズイです。」
『……
……そうですか……
今までそういった観点はありませんでした。
いいでしょう。
変更を認めます。』
危ない……なんとか乗り切った。
リナ……僕はやったよ!
「次に工具類です。」
『必要と思われていたものがいくつか外れ、想定外の物がリスト化されていますね…
本当にこのガスバーナーと溶接機は必要なのですか?』
そこは正直僕も疑問ではある。
「はい……必要です」
僕はグラントが用意してくれた紙に目をやる。
「ガスバーナーは鉄板などの歪みやボルト等を外す際、炙れば比較的簡単に修整できます。
溶接機も、イレギュラーがなければ使わないと思われますが、架台を直す事になった場合や加工が必要になったた場合等の対応力が飛躍的に上がります。」
『理由はわかりますが、容量的に入りません…入らないものは用意する必要性を感じません。』
メモに続きは…ない……
グラントのやつ…ここからは僕任せってことか?
「しかし……
工具は何かあった際の生命線です。
なんとかなりませんか?」
『エイド…まず入るスペースを提示してください。
現状は、ただ玩具を欲しがる子供と一緒です。
有用性はあっても、積載するスペースがない物は不要です。』
ですよね~
あると便利は分かるけど持ってけないもんね〜……
グラント……これは無理かも……
『何かありますか?』
「あの……テラ様……
確かに持ち込めないかもしれませんが、最終判断は我々にさせていただけませんか?
命を預ける工具ですから……現地に用意だけでもお願いします。」
『……
確かに自分の目で最終判断をする事は大切です。
分かりました、可能な限り省スペース化された物を用意しておきましょう。
ただし、必要な物を降ろして積む判断は認めません』
お?グラント通った!
『最後に、このアームの件ですが……』
「はい、アームの操作を簡単にする為にジョイスティックだけでは無く、腕に装着するマスターマニピュレーターが欲しいです。」
『なるほど、こちらは基本的には私の方で補助するので必要無いと思われますが……既に備わっている機能なので、後ほど操作マニュアルを送信しておきましょう』
良かったなノア……
もう付いてるってさ……
「そうでしたか、失礼しました。」
僕は頭を下げる。
『いえ……この短期間でそこまで深い操作方法を確認してくるとは想定外でした。
今までの内容から、資材の準備には約2週間程かかると思われます。
決まり次第連絡を入れますので、それまでに移動をしておいてください。』
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