22 逃走
22 逃走
第3坑道前の準備は終わった。
リナはトラックに早々に乗り込んでいる。
グラントとノアが、まだなにかしている。
さっき終了の確認をしたはずなのに?
「ノア、グラントどうした?
トラブルか?」
僕はトラックに掛けた足を降ろした。
「もう終わる!」
グラントが振り返りながら手を上げた……
おろした足をあげて荷台に飛び乗る。
ノアは、まだキーボードを叩いている。
グラントが走って、よじ登って来た。
ノアがキーボードを置き走り出す。
「ガイアあとは頼むね!」
ノアが大声で叫んだ。
「『後はお任せください』だってー」
リナが荷台に乗ったノアに声を掛けた。
三人で荷台に座り込むとトラックは静かに加速し、カーブを曲がるとどんどん加速をしていく。
ショックをあまり感じさせないスムーズな加速と減速でものの数分でガイアの元へと戻ってきた。
「ガイア
セットは完了したが、これで大丈夫か?
戻るなら今がラストチャンスだぞ?」
僕らは、はやる気持ちを抑えつつ、最終確認を行なっていた。
『エイド
提案したミッションは完全履行です。
更にグラントとノアのプレゼントも頂きました。
現時点での最善を尽くしたと思われます。』
「グラントとノアのプレゼント?」
『はい
詳しくは後ほど本人たちにお聞きください。
斜行エレベーターの準備は整っています。
早急に地上まで退避して下さい。』
「ガイア
君はどうなるんだ?」
『この後、斜行エレベータースタート後、計算では6時間後には地上へ出られると思われます。
余裕も考慮し8時間後に第3坑道ゲートを爆発し、ガス抜きを始めます。』
「ガイア
僕が聞きたいのは『君はどうなるのか』だ。」
『……皆さんが作業中に私のデータは転送させて頂きました。
後で、地上でお会いしましょう。』
「えっ?!……」
ノアはなにか言いかけてうつむいてしまった。
「なら僕らの残りのミッションは全力で地上に帰るだけだな。」
僕はみんなに語りかける。
『エイド
地上に出たら、高台に、そしてできるだけ風上に避難してください。
短い時間でしたが皆さんとの時間は楽しかったですよ。
グラントさん
発電施設や冷却設備の復旧……
本当にありがとうございました。
リナさん
私の至らないところのフォローをしていただき、ありがとうございました。
……ノアさん
私とのログのやり取りによる不具合の原因究明、見事でしたよ!
本当にありがとうございました。
エイド
あなた方と出会えたことを誇りに思います。
さぁ皆さん、脱出のお時間です。
急いで地上へ戻ってください!』
僕たちは身動きできなかった。
ノアの堪えながら啜り泣く音が小さく響く。
誰も何も言わない……
ガイアも沈黙を押し通している。
「……
みんな行こう……」
リナが下を向きながら、走って出ていってしまった。
グラントは、ノアのもとに……
僕もノアと肩を組み出口へと向かった。
建物の出口を出ると少し大きめの揺れが襲ってきた。
「みんな急ぐぞ!」
僕たちは斜行エレベーターへ走り込んだ。
乗り込むのを待っていたかのように、斜行エレベーターが動き出した。
ガイアの意志を感じる。
リナがノアの背中を擦っていた。
僕らを乗せたステージは、加速していった。
「終わったな」
グラントが呟く……
「何言ってるの?
ちゃんと地上に出ることがガイアとの約束でしょ
まだ気を抜かないの!」
リナが緩んだ気を締めてくれた。
視界の先に暗赤色の光を放つサーバールームが見える。
光に照らされるようにノアとリナの設置した清水器が横たわっているのが見えた。
その周囲には水溜が見える。
きっと最後まで頑張ってくれたに違いない。
「エイドさん
避難に少し余裕ありましたよね。
あの扉閉めに行ってもいいですか?」
ノアが涙目のまま、僕に問いかけてきた。
「ダメだ……
ノア、ここは堪えろ」
ノアの感傷で全員を危険にさらすわけには行かない。
斜行エレベーターは静かに着床した。
急いでいてもガイアの仕事は最後まで丁寧だ。
エレベーターが地底湖に到達すると、カーゴはそこに静かに佇んでいた。
周りには工具が並べられ、後ろにはコンテナを降ろして……
身軽になっているカーゴは最初にあったときとはずいぶん違い無骨な姿になっている。
僕らは駆け寄りタラップを登っていく。
大地の揺れは頻度も規模も大きくなってきている中、サーバーの冷却装置は音もなく水がかかり続けていた。
「着座次第カーゴ発進
地上を目指す!
シートベルト忘れるなよ!」
「「「はい!」」」
みんなの返事が揃った。
カーゴは周りに置いてある工具とコンテナに別れを告げた。
「ノア
工具を踏むなよ」
グラントが声を荒げる。
「グラントさん
こんな時まで工具の心配なの?」
ノアが不満そうに言い返す。
「バカ!
パンクしても、もう直せん!
気をつけろよ」
「あっ……はい」
ノアの返事は元気がなかった。
低床モードから走行モードへと静かに車体が持ち上がる。
走り出すと、かなり上下に揺れだした。
「皆さん、車体がかなり軽くなってるから乗り心地は悪いですからね!」
「ちょっとノア!
そういう事は先に言いなさいよね……」
リナは床に置いていたリュックを手繰り寄せ、物掛けに固定していた。
外に見える湖面はさざ波がたち、落石でもあったのか大きな波紋がいつくも出ている。
来た時とは違い、澄んでいた水も、所々濁ってきていた。
ガタガタとうるさい車内の中、僕は思い出したことを聞いてみた。
「なぁ?グラント
ガイアに何をプレゼントしたんだ?」
「あぁ、一緒に穿孔機回してる時、左下だけ進みが遅かったのを覚えてるか?」
思い返してみるが、全然気が付かなかった。
「出てくるミル状の石粉もあそこだけ色が違いかなり白っぽかったんだ。」
「あぁ、あそこだけ珪岩っぽかったよね?
他は玄武岩みたいだけど」
リナが肯定しているからそうなのだろう。
「だからあそこに爆薬の箱ごと置いてきて信管の余りもセットしてきた。
余計なことかもしれないけど、出来ることはしておきたくって……
みんなを危険に晒してた自覚はある。
……すまん」
グラントが頭を下げた。
僕は何といえば良いのか分からず、出た言葉は……
「ありがとう」
だった。
急カーブを曲がり、カーゴは地底湖に別れを告げた。
きつい登り坂が続いていた。
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