10 断絶
10 断絶
カーゴは前進を続け、僕らは闇に飲み込まれて行った。
前方を照らすライトは舗装された路面から少し凸凹のある岩肌に変わっている。
車体はほとんど揺れない。
それは優れたサスペンションだけが理由ではない。
テラが岩肌の起伏を先読みし、慎重にカーゴを導いているからだ。
僕たちはカーゴを運転しているつもりだった。
でも実際には、テラに運ばれているだけだった。
大きくハンドルが切られる。
鋭角に曲がった瞬間、岩肌が現れ、目の前を横に流れて行く。
カーゴは何事も無かったかのように、一定のスピードで前進していく……モニターに映る地図の向きが何度も大きく変わってゆく。
前面のガラスの向こうは不気味な闇……
僕たちは言葉を無くし、目まぐるしく向きを変えるモニターの地図を、眺めることしかできなかった。
………
変化があったのは急カーブが10個目に入ったところだった。
突然ゆっくりになり……
また動き出して、ゆっくりになる……
動き出してカーブを曲がった瞬間、カーゴ内に車体側面を岩肌が擦る嫌な音が響いた。
車内に緊張が走る……
カーブを曲がり切ったところでカーゴは完全に停止してしまった。
「テラ様……
どうされました?」
……
嫌な沈黙が流れた。
『……エイド
通……信障害……が起き始め……ています。
ここから更……に悪くな……ることが予想……されます。
申し……訳ありませ……ん。
撤退……を推奨……します。
進む……のであれ……ばここか……らはセン……サーを含め目視……を中心とし……た操縦に切り替……えてください
撤……退を推……奨します。』
カーゴ内の空気がヒンヤリしていく……重い沈黙が流れて行く……
このミッションはテラのサポートがあることが大前提だった……
サポートが受けられない今、判断ミスは班の生死に直結する可能性すらある。
僕は即答出来ずにいる。
「エイドさん、照度を上げることができれば操縦に問題は無いです!」
ノアの声が室内に響く……
「確か予備の照明があったわ」
リナが席から立ち上がると側面の操作パネルをいじりだした。
「エイド
進むも戻るもまずは車体の損傷度合いの確認をしたい。
車外活動の許可を求める。」
グラントが立ち上がり、装備を取りにコンテナへと歩き出した。
「グラント、状況の確認をしたら即時修理ではなく、1度報告をしてくれ!」
グラントが頷く。
「リナ、補助照明は見つかったか?
向きの調整が可能ならまずはカーゴの周囲を照らしてグラントの光源確保をまずは優先してくれ」
「了解!」
リナは操作パネルをいじりながら片手を上げてくれた。
「ノア……
大丈夫なんだな?」
……
………
「任せて下さい。
このメンバーの中で1番僕が上手く乗れるって自信はあります。」
「……分かった……」
「テラ…聞こえましたか?
損傷具合を確認し、可能であれば、ここからは僕らでこの先に進んでいきます。
テラには今まで同様、可能な範囲でのサポートをお願いします。」
『……エイド……
これは…不確……定要素が……大きいで……す。
万が……一のとき……は迷わずに即時……撤退をする事を約……束して下さ……い』
途切れ途切れの通信が、僕の心細さを表しているようだった。
……
………
「エイド
残念な報告だ。
車体へのダメージは少ないが、我々の目とも言えるセンサーが破損してる。
あれは直るけど少し時間が掛かるな……
1時間、いや、45分くれ」
グラントが申し訳なさそうに報告しに来た。
「グラント、急がなくていい。
1時間掛かるならそれで問題ない、僕も手伝うよ。」
工具を用意しにコンテナへと向かっていった。
「エイドさん、少し時間があるならセンサーの表示をわかりやすくしたいんだけど良いかな?」
「かまわないけどどうした?」
「今はセンサーの種類別でまとまって表示されてるんだけど、カーゴのエリア別に表示されてた方が視認性が高いと思うんだよね……
リナさんに手伝ってもらえれば、作業は1時間かからないと思うんだ……」
「ノア、操縦しやすくなるならそれで構わない。
リナ!
照明の目処が付いたらノアを補助してくれ。」
……
1度小休止を挟んだ。
レーションと水分を取りながら情報を共有していく。
「グラント、修理は完全?」
「エイド……
オレがちゃんと時間かけて直したんだ、見た目は少し悪いが現状これ以上はない!」
グラントは楽しげに自信満々答えてきた。
やっぱりこいつはトラブルを楽しめるタイプだ。
「ノアとリナの方はどう?」
ノアがノートPCを開くと真ん中にカーゴの絵が出てきて周りにセンサーの略称と数字が出ている。
素晴らしい完成度だ。
「なかなか見やすくていいでしょ?」
ノアが得意げに答える。
「なに得意になってるのよ。
最終的にはテラに作ってもらったじゃない」
「リナさんそれ言っちゃダメです」
どうやら通信環境が悪いなかでもテラの補助を受けながらしっかり使いやすいものを構築できたようだ。
「テラ、ありがとう」
『いえ……確か……にこちらの……方が人に……は視認……性がいいでしょう……
今……後、他で稼……働中のカーゴも…順次バー……ジョンアップし……ていきます。』
僕は残りのレーションを水で流し込むと周りを見渡した。
「よし、行こう!
みんな力を貸してくれ!」
「おっカッコよくなったね……
頼もしいよエイド!」
リナに少しイジられたが、みんな席に着くとシートベルトを締めた。
「みんな準備はいい?」
全員の小さな返事が返ってきた。
車内に緊張した空気が走る。
「大丈夫!
僕らならこなせるミッションだ!
気負わず行こう!」
カーゴが再起動すると目線が持ち上がった。
ガガッッッ
「ごめん、ギア間違えた」
「ノア落ち着け!」
早速いつものノアが空気を和ませてくれた……
カーゴがゆっくりと動き出す。
当たり前だが、テラのときほど滑らかな動きではない。
ここからは見えない。
が、ノアは必死に今ある情報から最適ルートを模索してくれていることだろう。
徐々にヘアピンカーブも滑らかに曲がり始めている。
緊張は程よいレベルに緩和されていた。
……
その後は大きなトラブルもなく、僕たちは急に開けた広大な空間に足を踏み入れていた。
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