第94話 開戦
数週間音沙汰はなかった。シグマ国の場所は依然として掴むことができず、開戦すらしない状況であったが、ついにその時は訪れる。
「なんだ...?......ッ!!」
早朝の丘の上で兵士が遠目で見たそれは太陽を背にして現れた一つの車両であった。
「こちらデルタ4a、東北東方向から不審な車両を一台視認、確認を求めます....!」
「こちらCP了解、情報にはない車両だ。奇襲に警戒して臨め、オーバー」
司令部にいるオスカーはそう無線で言うと息を吐く。
「おそらく先行隊だろう、一番に攻めるならデルタだろう、シグマがアルファを扇動したとなれば位置が割れてるというのは当然、だがこっちもそれはわかっているのでね」
その言葉を聴き、兵士はライフルに銃弾を込める。
味方と敵の区別はつくように、味方の場合はモールスを打ちながら行くように指示している。しかしその様子は一切見られない。
車両に乗る人間はガラスの反射で見えないが運転席に向けて兵士が引き金を引こうとしたその瞬間、その車両の背後からいきなり土煙が舞う。
おそらく爆発によるもので、土煙が一気に車両を包むように巨大に立ち上がり、その煙でできた影はまるで闇が侵食するかのようにしていた。そして兵士の耳に轟音が届く。
「爆発…いや、あれは煙幕としての利用…!? 車両の位置を見失った。このまま爆破をしながら突破するつもりか…!」
兵士が困惑しながら煙に向けて銃を向けるがその後ろから金髪で白のローブを纏った青年、オメガ国所属の三級者テルロが現れる
「OK、それさえわかりゃ十分、今のうちに報告しなよ」
腕を巨大な煙に向けて連続で指を鳴らし始める。
その瞬間、鳴らした音が空気の玉となり発射される。
彼の持つ制御系魔法[手音弾]の玉の速度は音速と同じなため着弾は遅い、煙に直接当たるだけだと効果は薄いので煙と地面が接する面に当てる必要はあるが、弾数は無限、いくらでも撃てる。
大量に撃った音弾が煙にもうすぐで届くかといったところで、皆が土煙と爆破、そしてまだ見ぬ車両に警戒していたその時、土煙の影の先端、デルタ国から見てわずか60mの位置にそれは現れた。
「先頭に人間を視認! おそらく魔法に類いか…!?」
それは白Yシャツに黒のハーネスをつけた落ち着いた雰囲気の黒髪の女であった。彼女の手には生成されたであろう大量の[空榴弾]が抱えられており、彼女はそれをその場に全て放り捨てると、デルタ兵士が射撃する前に即座にアルファとの戦いの時に使っていた塹壕に隠れ、同時に撒かれた[空榴弾]は爆破され、テルロは思考し始める。
射程距離的に[注視]による魔法の有無は判別できないんだけど、多分魔法じゃんね? あれが瞬間移動?いやあんまり考えても無駄かな、兵士が連絡をしてるだろうから二級か一級がここに来んのに致命的な損害は受けないようにしないとかな。デルタ側から見ての第二塹壕への侵入。気配を消す系だと接近に気付けないとやばいしここは…
テルロはその瞬間、東方面全体に音弾をまばらに連射する。例え位置が分からなかろうが牽制は行うが、かなり先頭で爆破されたせいで土煙とテルロ達を覆い被さる陰で視認性はさらに悪くなっている。兵士たちはいつでも戦闘ができるように準備をしている。
テルロが煙や辺りに音弾を撒いていたその時、1人に兵士が悲鳴をあげる。
「なんだと…ッ?」
それはナイフで兵士の頸動脈を切り払った先ほどの女であった。
その時、自身の記憶の中から階級表に該当する階級者を浮かばせ、テルロは叫ぶ。
「一級者エウレカ・メランシーバー、所持魔法[影移動]だ!」
即座にテルロはエウレカに音弾を放つと同時に後ろに跳ぶ。それを見たエウレカは手榴弾のピンを抜きながら影の中に潜るように入り、手榴弾を投げると同時に音弾を回避して姿が消える。
手榴弾が爆発し、丘の上にいた兵士や用意していた武器が吹き飛ぶ。皆がエウレカを警戒し始める。
「こちらデルタa!一級者エウレカによる奇襲を受けた!現在隠れられて場所の把握ができていない!」
「こちらCP、もうすぐ増員が到着する。状況はこちらも把握している、目の前の敵だけでなく車両への警戒を怠るな、オーバー」
オスカーはそう指示をすると思考を始める。
…状況は無線から聞いた限りでは相手はまだ少数でしょう。手榴弾を投げて撤退したということは個人能力では完全には攻めきれないと考えたということ、おそらく車両に乗っているのは階級者でしょう。それらの到着を許す方が今はまずい、兵士には悪いでしょうがここは被害を出しつつでも時間を稼いでもらうしかない。
こちらの階級者は一級者ラグーン、ベッツ、三級者はディア、メロ、ラント…対応力が高いため攻撃力は軍部が補うとしましょうかね…




