第83話 備えを
ディバドは自身がつけていた仮面をゆっくりと外すと、ため息をつく。
「まさかこんな方法をすぐに思いつくとはな...」
メアリーはその言葉に笑うが、ディバドは巨大なリュックを下ろすと、そこから”酸素ボンベ“を取り出す。
「にゃ.....は.........は.....?」
メアリーはそこで初めて、笑いが途切れ、一瞬だが顔が歪む。
「この方法をしてきた相手は其方が初めてである。メアリー・C・ニーシェント、尊敬に値する」
困惑の表情を必死で笑顔で取り繕うとするとメアリーにディバドは続けていう。
「確かに其方のいうとおりだ。この空間では援軍が来る前に死ぬであろう。だがそれくらい、使用者であれば想定の範囲内なのだよ」
メアリーはそれを見て即座に思考を回転させ始める。
鉄の壁で埋める...いやボンベがある以上は上られる......土砂を起こしてこのまま埋める...いや、爆弾を持っているということは埋めれば銃で牽制できなくなり土砂を起こされて登ってくる....コンクリート....いやだめだ....浮力で浮いてくる.......援軍を倒せればこいつは殺せる....だけど相手に.........
策を練り回し自問自答をする。しかしその時気づく。
この状況ですぐ殺せる手段がない。
「にゃはは、流石に予想外だったかな、でもここに捕えることには成功した....少しはやりやすくなったね?」
メアリーはそう言って、イータ国への進軍を始める。
そのとおりだろう...備えをしておいたものの、こちらが動けないことに変わりはない。しかし其方達がイータの前線を押し上げたのは最初の奇襲が上手く決まったからだ。イータもそろそろ前線を押し戻したことだろう。自分の役目はここまで、あとは圧をかけ続けるだけだ。
昼から延々と待ち続け、すっかり夜が明けていた。ディバドはなお、それでも銃を構え続けていた。
一日経過と言ったところか....今のところ問題はない。バリアは通信も防いでしまう。そのためこちら側から送る場合はバリアを解除すれば良いが、あちら側の指示はバリアで聞こえなくなってしまう。援軍がくれば引き上げられ、戦うことができる。一級者4人と組めばシグマでも十分落とせる可能性はある。特にメアリー、やつは一級者の中でも頂点、いや、特級者のレベルの強さをしている。奴を殺すことが大切だ。
そのような思考をしていたその時、銃声が響く。
「ぎゃっ———!!」
「ぐは....っ———!!」
それはディバドを見張っていた兵士たちの悲鳴で血飛沫が舞う。
そしてその時、ロー国所属の兵士の一人が穴を覗くように顔を出す。
「ディバドさん...!大丈夫ですか...!」
「ああ、なんとかな」
その兵士はディバドがロー国で見たことがある兵士で、ディバドは言う。
「この穴は毒ガスが満ちている。救出作業には防毒マスクがいるであろう」
「わかりました...! 救出します....!」
その兵士は防毒マスクを装着すると、次々と防毒マスクをつけたロー国兵士が現れ、最初に現れた兵士はロープを垂らして下へと降りてくる。ディバドもまたリュックから防毒マスクを取り出すと装備する。
ようやく救出といったところか.....とはいえ警戒を———
ディバドが思考していたその時、血に濡れたシグマ兵士の銃が穴に向けていることに気づくとディバドは叫ぶ。
「早くそいつを撃つんだ!」
ディバドがそう言うと、銃声が鳴り響いてシグマ兵士は赤く染まる。
ディバドは兵士が死んでいることを確認しようと目を凝らすが死んでいる。
「準備できました...!」
兵士は穴から脱出するための縄を用意して言うとディバドは一言告げる。
「ご苦労」
兵士が先に登るのを見て、シグマ兵士がいないことを確認するとバリアを解除して縄を掴む。
「.....ッ———!?」
「にゃは.....!」
その瞬間であった、兵士が突然ナイフを持ち、ディバドの腹部へと刺した。
ディバドはその兵士を蹴り飛ばしバリア外に追い出すとバリアを展開する。その際にナイフが引き抜かれ腹部に激痛が走る。
「.....っ其方......何をして......」
その兵士は壁を伝い登りきると縄を切り落とす。
その兵士は防毒マスクを取ると、顔がスライムのように変形し、そこからメアリーの顔が現れる。
「にゃははははははは!! ごめんね? 刺しちゃった」
それはシグマ国の保有する魔法である[変装面]、ディバドはそれを見て困惑の表情を浮かべつつも負傷した傷を見て必死に手で押さえる。
「メアリー......か......っ!」
「にゃは? そう! だいせいか〜いっ」
単純な手に....引っかかってしまった。[変装面]は確かに一人....だが防毒マスクをつければ他の兵士の区別が服装でしかつかなくなる....そこを突かれた.....!
いやそれよりも....こいつ...味方を殺したのか.....?確実に死んでる.....やはりそうだ.....この異常性にもっと早く気づくべきであった....
*****
にゃは? ようやく隙を見せたね? そうだよね、救助するにはバリアの解除は不可欠。それに油断しなければしないほど、そもそも敵を入れるなんて論外な事をするわけないから想定しないもんね?
そして君は言った。この方法をしてきたのは初めてだって。つまりさ、味方がどう救助してくれるかがまだ体系化できてない。だったらバリアを解除してから登る方法で登らせれば良いんだよ。
バリアが解除された以上は毒ガスが入ってる。傷口からどんどん毒が入っていっちゃうよね?この一撃だけで、もう君は逃げることも、その最強の要塞にも籠もれないよね?
確かにバリアを解除せずに殺せる状況はないけど、もっと初心に戻って、バリアに介入する方法を考えれば良いんだよ。
ディバドは痛みと絶望で膝をつく。それはどう足掻いても援軍到着前に死ぬことが確定していたから。
ディバドは[絶対防御]の魔法であるクリスタルのペンダントを手に取ると銃口を向ける。
「死ぬ瞬間.....確実に撃ち抜く.....」
敵にこの魔法が渡ればその化け物を止める手段はない。せめて死ぬとしても、これだけは渡すわけにはいかない.....
そうして数十分後、シグマ拠点にて銃声が1発響くのであった。




