第81話 忍耐力
「撃てぇ———!!!!!」
シグマ側の兵士は機関銃をディバドに向かって一斉に発射した。
銃弾はディバドに集まるかのように放たれるが、ディバドは気にする様子なく全ての銃弾は弾かれ、ディバドは突き進んでいた。
「物量で押し通すつもりか? そんな攻撃が効くとでも?」
ディバドはその攻撃を一切気にすることなく進んでいた。
シグマ側は塹壕を掘りつつ拠点を4つ用意している。それぞれ等間隔に200mほど、一番近い拠点までは600mほど。ディバドはそこに向かって歩いていた。
ディバドは全ての攻撃を無視して進んでいた。そして拠点まで30mという所で、塹壕の前でディバドは立ち止まるとその様子を見てメアリーは笑う。
「簡単だよねえ? 確かに無敵の箱だけど、形状が箱だったら簡単だよ。塹壕を広く掘るだけで、しばらくここを通ることができないでしょ?」
確かに無敵って嫌だけど、攻撃力があるわけじゃない。だったら進軍を抑えるだけでこっちは良いんだよ。何よりさ、ずっと歩いているってことはそれが制約じゃないの?だって走って移動したほうがこっちは困るし、それが制約じゃないのかな?
メアリーはそうニコニコとエクレクスに言う。だが一方で前線にいたディバドは塹壕の掘り方を見て策を見抜くとため息をつく。
「確かに塹壕に落ちればそうであろう。だが自分の制約は歩行などではない、ただ単純に...」
ディバドはそう呟くと塹壕に背を向けて歩き出す。そしてまた塹壕に向き直すと走り出す。
「こういう時のために体力を残しているだけであるからな...!」
ディバドは助走をつけた跳躍で塹壕を飛び越えると再度、進軍を始める。
敵の使う[鉄生成]は細かい生成物は作れないと聞いている。そして情報から察するに自分を閉じ込めるように鉄を生成するようなことはできない。それに閉じ込められようと鉄の維持にも秒数限界があるのだろう?
ディバドは敵の拠点についに到着した。テントがいくつか立っている丘を壁にした場所で、シグマ兵達が警戒する中で拠点を歩き回り、拳銃を構えながら無線を起動する。
「こちら不動卿、視認情報を送る。1拠点で灰兵の数は21、通常兵士が72、守備走は34台、階級者はいない。毒ガス兵器と火炎放射器、機関銃は2台は確認できる」
この世界における機関銃の価値は魔法の次に高い。なぜならこの世界にある機関銃は過去の遺物であり、生産をすることができないからである。
「こいつ....どうすれば....!」
兵士の一人が苛立ちを覚える。当然だ、自陣に敵が侵入して堂々と情報漏洩されるのは心理的にダメージがある。ディバドは報告をしているがその瞬間、即座に引き金を引くと兵士の一人が胸を撃たれて倒れる。
「こいつ...!!!」
他兵士がすぐにディバドに射撃をするが、その攻撃は防がれる。
彼の二つ名である[不動卿]、その所以は戦闘方法から来る。敵陣に侵入し銃を構えて何十日も籠城し、敵が僅かにでも油断したら射撃で数を減らしていき、情報を味方に送る。ただ殺せないだけでなく、延々と被害を、僅かだか確実に増やしていくその陰湿な戦法からきている。
彼は拳銃を日中夜誰かに向けてそこから引き金を引く直前で永久に待ち続けるのだ。
「でもその戦法ってずっと待つよね? だったらそこの拠点で戦ってるうちにこっちはイータを攻め落としちゃえばいいんじゃないの?」
メアリーはそう疑問を口にするがエクレクスは言う。
「そうは行かねえんだよ、良いこと教えてやるよ。なんとメアリー、お前を殺すための一級者4人の部隊が来るそうだぜ? ディバドを生かしたままじゃマジで勝ち目がなくなるぜ。さっさと撤退すべきってのがセオリーではあるんだよ」
「すごいね? 流石と言った所だけどでも大丈夫だよ。最初から思いついたから。”倒し方“」
「そうかよ」
「全員退避だ....! 第二拠点に逃げるんだ...!」
兵士達は次々と拠点から離れてメアリー達のいる拠点へと向かう。塹壕は流れる水のように人が通る。ディバドを3人の兵士が取り囲み銃を構えようとするのだが、ディバドは適当な遮蔽物に隠れると落ちている手榴弾を拾って敵兵士に投げつける。
「グレネードだ!避け———!!」
兵士の注意がグレネードに向かった瞬間に一人を撃ち殺すと、そのままいつもの戦法に戻る。
単純な話、銃を撃ち尽くさせればいい。二人であればリロード時間が挟まれれば即座に殺せる。普通の人間は永遠に一つに集中などできるわけがない。構えるだけで体力は減る。ディバドという異常な精神性の持ち主の前で、一方的に有利な状況にいる相手に対して、精神力で勝てるわけがないのだ。
13分後、ディバドは残った敵兵士を撃ち抜くと、シグマ兵達が向かった拠点へと走り始めた。
この時点でイータ国は塹壕の奪還に成功し始めていた。それもそうだ、一番前線に近い拠点を落としたのだから。前線を押し上げるのは時間の問題だ。
ディバドはそうして次の拠点へと向かうのであった。




