第74話 敵
「......て...ださ......!」
うるさい....
「...きて...ださい...!」
なんだ....この声....
「起きてください...!」
その瞬間、目を覚ました。
「やっと起きましたね....!よかったです!」
目の前にいたのは赤髪の少女であった。僕はなんと答えたらいいのかわからずただ黙っていると少女は言う。
「フフン! もしかして私が可愛すぎてびっくりしちゃいましたか!?」
少女の謎の自信を聞いて、なんだか懐かしさを覚えた。それはそう.....まるで....ファリンみたいな...
「それでですね、私は言ってやったんです!弱いものいじめはダメですと! めっちゃ追いかけ回されてそれはそれは大変だったんです!」
「へえ....そうなんだね」
彼女の名前は”フィクト・ハルアトス“というらしく、あたりを見る限り自然ばかりで、都市とは無縁と言ったような場所だ。
ベッドをわざわざ貸してくれて、彼女は気前よくいいと言ってくれた。
だけど、僕はすごく不快に思ったんだ。こいつは.....敵国の人間だから。
なんでこんなに普通に接するんだ....お前は敵だ。敵は全て殺す....この世界の全ては敵だ.....その筈だった......なのにどうして君は......そんなにファリンに似ているの....?
「いやー、そういうわけなので....って!涙流してるじゃないですか! 私...何かやらかしましたか!?」
僕はいつのまにか泣いていたらしい。ポロポロと小さく、感覚がわからないけど、そうなんだろう。世界の全てを憎んでいたつもりだったのに....まだ僕は.....信じたいと思ってしまう.....
そうやって泣いていると、扉が開く音が聞こえる。
「ただいまぁ」
「あ!お父さん帰ってきた!おかえりなさいです〜!」
フィクトはそう言って扉の方へと歩くが、僕はすぐにあることに気づくと近くにあったタオルを頭に巻く。
そしてしばらくするとその父親が部屋に入ってくる。
「おやおや、川に流れてたんだって? 大変だったね」
その時、自分の選択の正しさに安堵すると同時に緊張がはしった。フィクトの父親は.......軍人だった。
「遠慮しないでいいよ! わしは気にせんし、怪我人を放って置くなんてことはできないからねえ」
「....そうですか....」
その格好は何度も殺してきた兵士と似たような格好で、それ以上でもそれ以下でもなかった。やはりそうだ。どれだけ人に見えても敵になれば終わりだ。この世界は...そうやって回って....
「クリスさん! 今日は何を食べたいですか? できるものならなんでも作ってあげますよ!」
「えっと....グラタンとか?」
「えー、もっと簡単なやつにしてくださいぃ」
この子今、露骨に嫌な表情してきた。
「えっと..............オムライス」
「お任せくださいよ!」
フィクトは意気揚々とキッチンに向かい、調理を始める。前方にはフィクトの父親が座っていて、待っていると父親は話し始める。
「いい娘でしょう?」
「え....はぁ」
僕はとりあえず適当に返事を返してみると彼は続ける。
「あの子は若い頃に母親を亡くしてねえ、男で一つで育ててきたんだよ」
「そうなんですか」
「うん、わしが帰る時にはいつもご飯を作ってくれて、ずっと苦労ばかり背負わせて、いい人生を送らせてあげれない。あの子が幸せであれば......そう思うと不甲斐なくてねぇ....」
「そんなことは......」
僕の口から不意に出た言葉。だけど僕はそれに驚いた。
他人に気を遣ったことに。
「でもね.....一つだけ....一つだけわがままを言うならば.....せめて少しでも....少しだけでも長生きして欲しいんだよ。もちろん一緒に長生きできたら素晴らしいけれどもね、今の時代じゃいつ死ぬかもわからないからねえ」
「そうですか....だったら.....戦場で戦うのをやめたら.....どうですか.....」
僕ががそう言うと父親は暖かい目で僕を見てニコリと微笑んだ。
「そうかもね、でも今更辞めようとも思えない。友達だけをねぇ、戦わせるのは忍びないからねぇ」
「だったら....友達と一緒に辞めれば....」
「そう割り切れないものだよ。兵士の一人に人生がある。親がいて、兄弟がいて。子供はいて、友達がいて、好きなものがあって、やりたいことがあって。夢があって....この歳になると....どうも人のことが気になってしまうんだ。敵もそうだしね。だから撃つとき...いつも心の中で謝ってしまう」
それは酷く僕の心を貫いていた。刺して、回して、引っ掛けて、グチャグチャにしてくるような.....
今まで殺した人達のことをまるで思い出せない。兵士を殺した。ただそうとしか思ってなかったから......思考の浅さに....反吐が出る。
僕の気持ちは.....一体何を思ってるんだろう...
「はいお待ちどう、私特製オムライスです!」
それは具無しのオムライスだった。ケチャップだけで米を炒めたようなもので。だけど、なぜかこの味がすごく....心に染みるような味がした。
「....なんでそうなりました....?」
クリスの目の上にまでコメがついてるのを見てフィクトは困惑する。そして父親は暖かい目で笑うのであった。




