第73話 裏切り者
改造人間の軍勢に他国は苦戦し続けた。既存の戦略の通じなさ。そこから戦争方式に爆弾投下が採用され始めた。既存のドローン戦略だけでは通用しなくなったこと原因である。
「よくやった、メアリー・ニーシェント。君の活躍はクリスに続いて素晴らしい戦績を残している。特に潜入工作と少数部隊の指揮力は凄まじい」
「いやあ、わかってくれて光栄だねえ? 先輩もそうは思わない?」
メアリーはニコニコとクリスに向かって言うが、クリスは反応を示さない。それを見てメアリーはクリスの顔を掴むと頬擦りし始める。
「先輩は釣れないね〜? こんな美少女が口説いてるのになぁ?」
クリスはメアリーの顔をはたくとさっさとその場から出ていってしまう。
「先輩?どこ行くの?」
メアリーはスタスタと歩いて行くクリスに声をかけるが、そのまま行ってしまうのを見て考える。
先輩ってずーっとあんな感じだし〜、どうしたらいいのかなあ? あーそうだ、ファリンを殺した犯人見つけちゃえばいいんだ〜
まず敵国の可能性だけど薄いんだよね〜。だってファリンを殺すよりも捕らえたほうが利用できるしね。そもそも改造人間がファリンの細胞なんて情報が出てれば八芒星の条件を他国が分かってるはずだし? そうなると不慮の事故とかかな? いや、そもそも死んでるかな? 私は死体を見てないし先輩もそう、だったらまだ生きたまま解剖されてるなんて....?そうだね、やっぱり私、確認しに行かないと。
クリスは丘の上で青空を見ていた。
どこまでも続く青い空は雲ひとつない。それはクリスの心とは正反対だった。虚無に見えて虚無じゃない。怒りと焦燥だけがそこにある。敵を殺しきるまで全てを殺すまで進み続ける...ただそれだけで....
「先輩〜? いいところにいた〜」
それはメアリーであった。クリスは何も聞こえてないかのように無視するが、メアリーは聞く。
「ファリン殺しの犯人わかっちゃったんだけど、聞きたいかなあ?」
その言葉でクリスは振り向いた。そして振り向いたその顔を見てメアリーはニコリと笑う。
「知りたいみたいだね?」
「....本当のことを言いなよ」
「わかってるよ〜、先輩?」
「そうなんだ....そっか」
クリスはメアリーからの話を一通り聞くと、ゆっくりと立ち上がる。
「ねえねえ、どこ行くの?」
「.......」
クリスはメアリーの言葉を無視して歩き出し、それを見たメアリーは不満そうに言う。
「ひどいよ、私は都合のいい女なの? はぁ......」
クリスは軍部のリーナの元までまっすぐ進んでいた。そこにあるのは殺意の衝動。必ず殺すという決意がまっすぐ進んでいた。
そしてリーナ大佐の元に辿り着くと、地面に八芒星を書いて言う。
「リーナ大佐.....ひとつ聞いていいかな....」
「クリス、どうした?」
リーナはクリスのアザを見て首を傾げる。
「ファリンを自殺に追い込んだのは.....国のせい?」
「......質問の意図が読めないな? 何が言いたい?」
「実験を強行して.....死人を出して.....ファリンが自殺するまでに至ったのは....君かって聞いてるんだよ.....っ!!」
クリスは無表情でそう言うと、リーナは小さく笑って言う。
「そうだとしたらなにか?」
「.....っ!!!」
クリスはその瞬間、殺意を持って一歩踏み出した。だがその瞬間、リーナの背後に隠れていた兵士がショットガンをクリスに放つ。
「ぐ....が....ぁっ......!?」
クリスは激痛と共に衝撃で倒れる。防弾チョッキを着ていたため直接的なダメージはないが、肋骨が数本折れたのを自覚する。
「ありえないと、そう顔が言ってるな?クリス」
「お前........」
「ああ、言ってないからね? メアリーは本当にいけない子だよ、勝手に人の秘密を暴くなんてね」
「いやあ、ごめんね? 私口が軽いからさ?」
そう笑いながらメアリーが現れて、クリスに顔を極限まで近づけると悪意に満ちた表情で言う。
「私思ったんだよね、どうやったら先輩が見てくれるのかって? それってさ。私に怒りを覚えてくれればいいって思ったんだ?」
「メアリー.....」
「悪いのは先輩なんですよ? ずっと私を無視するから、私...どうしても構って欲しかったの?仕方ないよね?」
「クリスを拘束しろ」
リーナ大佐はそういうと改造人間の兵士が二人出てくるとクリスを拘束しようと接近する。だが、それを見たクリスは激痛に耐えながら走り出すと、外につながる窓に飛び込み、ガラスを突き破って脱出する。
「追え」
「「了解しました」」
クリスは肋が折れた痛みを味わいながら必死に走っていた。走って、走って、走り続けた。そしてずっと走り続け.....川に落ちるのであった。
誰も信用が.....できない.....この世界は........何も.....信じていいものはない....
全てが....敵なんだ.....
薄れゆく意識の中で最後に写した心の言葉であった。




