第72話 メアリー・ニーシェント
「そんな感じでね! 先輩ってすごく強かったの!すごいでしょ?」
メアリーは楽しそうにシグマの司令官である黒髪の青年、エクレクスに言うのだがため息をつくと言う。
「いや....なんでお兄様呼び....?わけわかんねえよ」
「いやあ、私だって慈愛溢れるいい子だったんだけど〜、す〜っごく怖い事があって〜、それで変わっちゃったんだよ!」
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ファリンが死んでしばらく経ち、クリスは何千人も殺した。ドローン戦の常識を変えるほどクリス、そして改造人間は異常であった。
ドローンの速度は時速100kmを余裕で超える。そして数万台と放たれ、安価で脅威だった。だが、カプティブは、ドローンとチェイスする形で射撃して迎撃することができた。
市街戦では立体的な戦闘を、塹壕戦では一瞬で敵陣を取るなど、他国ではできない戦術を組む事が可能であった。
山小屋がポツポツと置かれる森林地帯にて物資輸送が行われていた。
「こちらズール10、輸送部隊が森を抜けた。このまま離脱する。オーバー」
「こちらCP了解、全軍北上、スナイパーや残党兵に注意しろ、アウト」
無線に聞こえるクリスの声を聞いて、メアリーも走る。
あれから先輩は.....変わってしまいました....いや....戻ったというべきなのでしょうか....あれ以降、全く笑わなくなってしまった。私は....理解してあげると言ったのに....いや....だめだよ.....そんなの傲慢です....私は......
メアリーはクリスのことはずっと気がかりだった。いつもずっと....ずっと気がかりで——
その瞬間だった、森を抜ける瞬間、敵兵士と目が合う。
「ぐ....!くそが....!」
「きゃっ........!!」
兵士はメアリーに銃口を向ける。メアリーは避けようと気に隠れるも、連射された銃弾の一発が足に命中し、そのまま転んでしまう。
「っああぁぁぁあああああっ———!!」
メアリーはその場で痛みで動けなくなりうずくまる。激痛で叫び、涙がボロボロと流れる中で、兵士が一人ゆっくり近づくと、メアリーの手足を上から覆い被さるように押さえつける。
「いや....っ———!! いやぁぁああああ——!」
「へ.....へへ......やったぞ....! 仇を...! 俺のダチをよくも...っ! このままっ.....!!」
メアリーは地面に八芒星を描こうと腕を必死に動かすが、兵士におさえつけられて八芒星を描けない。
兵士は錯乱しているのだろう。極限状態でありながら、いや、極限の状態だからこそ己の欲をひけらかしている、その獣の目を見てメアリーは涙を流しながらも必死に抵抗する。
「いや...いや...ぁあ!!」
そうして抵抗していたその時、手元に偶然、拳銃が落ちていることに気づく。
メアリーはその拳銃を手に取ると兵士に向ける。
「う....うぁああああああ!!!」
メアリーの拳銃に気づいた兵士はすぐにメアリーから離れると、命乞いする。
「やめ....やめて....!!やめてくれ....!...!」
頭を抱えてうずくまって怯える兵士に銃口を向け、て、その兵士以上に震えていた。
「ぶ......武器を捨てて.....! 投降を...!投降してください.....!」
メアリーは焦りながらもそう叫ぶと、兵士はすぐに拳銃やナイフも捨てて両手をゆっくりと上げる。
「は....はぁ......」
メアリーはそれを見て安堵して銃口を下す。そしてその次の瞬間、背後から棍棒で後頭部を殴られてメアリーは倒れる。
「よし....! やったぞ...!!!」
「でかした! でかしたぞ...!」
そしてゾロゾロと隠れていた敵兵士が現れると倒れたメアリーに群がる。
「こいつらに何人殺されたと思ってんだ」
「ふざけやがって、ぶち犯してやるっ....!!」
「改造人間は許さねえ、絶対に...!」
メアリーは手足を数人に抑えられ、顔を殴られ、腹を蹴られ、服を脱がされ始める。
「がっ.....ぁ.....!?」
性欲、暴力、殺意、征服欲、怒り、それらは改造人間に対するヘイト、その全てが今、メアリーに向かおうとしていた。
意識が朦朧とする。頭を殴られてクラクラと、どうしようもない無気力感。メアリーの意識がゆっくりと飛ぼうとしたその時、鋭い痛みがメアリーに襲う。
「きゃあぁぁぁぁあああああっ———!!!!?」
それはナイフを腕に突き刺された痛み、気絶すら許さないほどの激痛でメアリーの意識が、ハッキリと映る。
醜い.....化け物......
そう見えた。目の前にいるのが人間の形をした化け物に、一瞬だがそう認識した。
ファリンちゃんみたいに....私.....自分を犠牲にできないよ......私......そんなに強くない.....ごめんね....ファリンちゃん....
引き金を引けない甘さが命取りだった。
人間は卑怯ですぐに裏切る。そのくせすぐに助けを求める。
救えない。救いようがない.....こんな奴ら....こんな奴ら........
みんな死んじゃえばいいのに。
一瞬でいい、時間を作れ。
メアリーはその瞬間、何かが吹っ切れたかのように抵抗を始めた。
「うぁぁぁあああああっ———!!」
メアリーは必死に抵抗をしてる。そう見せかけるように動きつつ、抑えられている右手の指が地面につくようにすると、身体全体を揺さぶるようにする。右手だけ動かすのは無理だよね。だったら簡単だよ、全身を動かせば右手も動くから、その動きで八芒星を描けばいいんだよね?
メアリーはその瞬間に激しく抵抗を見せ、何度も抵抗し、八芒星を描く。
その瞬間、力が湧き上がり、抵抗で兵士たちの腕を薙ぎ払う。
それを見た兵士の一人が拳銃をすぐに手に取るが、その瞬間、落ちていた木の枝をそいつの目玉に突き刺す。
「ぐあああぁぁぁああああああっ——!!」
そしてその怯んだ一瞬で拳銃の銃身を持つと違う兵士に銃口を向けさせ、引き金を無理やり引かせる。
「がっ......!?!?」
銃声が鳴り響いた次の瞬間、もう一人の兵士の頭を蹴り飛ばすと、敵の腰元に装備してるグレネードを盗み取るとピンを引き抜くと、手放す裾ぶりを見せる。
兵士達は焦ってレバーが完全に上がらないようにと手を伸ばし、メアリーからグレネードを奪い取る。
敵の手に渡った。だが逆に言えば、レバーを上げないことに必死になれば、わたしへの警戒が減るよね?
メアリーはその瞬間に残り兵士の頸椎を殴りつけると、兵士の手からレバーが離れた瞬間にメアリーは即座に離脱して大木を背に隠れる。
そしてレバーが完全に上がると、周囲にいり気絶した兵士たちは全員が一気に吹き飛ぶ。
そしてそれを見たメアリーはニコリと微笑んで口にする。
「怖かったなあ? ひどいよね〜、寄ってたかってなんて...さ?」




