第70話 揺るぎなき意志
「はぁ.........はぁ.........」
真夜中の保護区で15歳になったファリンは壁にもたれながらゆっくりと廊下を歩いていた。何か理由があったわけではない、もっと本能的な何かがファリンの震える足を動かしていた。
いつもなら手術後は麻酔のせいでしばらく動けないのに何故動けたのか、わからない、だけどすごく、すごく嫌な予感がしたから。
卒業した子で研究室の方に連れてかれる子を見た。そしてそれから何度か確認してたらみんな....みんなが研究室に行っていることに気づいた。軍人になる子は殆どいないって聞いたのに....
寮室に連れてかれる時...たまたま腕が動いて...気になって研究員さんのカードを取れた.....気になる....
気になる。
気になるよ。
私は研究室の更に奥、一度も行ったことのない廊下の先を歩いていた。私は....知らないといけないんだ.....きっと......
そうしてしばらく進んでいると、不気味なくらいに静かで、暗くて、そして冷たい場所があった。
「ここは......なんだろ....」
ファリンは扉にカードを当てると、電子ロックが解除される。
そして開けたその先で、ファリンは絶句する。
「っ......———!!!!?」
冷気が漂う空間は金属の臭いが強かった。そして周りにある“それ”に気づく。
それは大量の子供の死体であった。触れた時に彼らの死ぬ瞬間の恐怖と激痛が感じられた。手足が変形していたり、顔面が半分ドロドロになってる顔、苦悶の表情、全身から血が吹き出たまま凍りついてるもの、そしてその死体は卒業した子達で.....髪が白くなっていた。
「.....っ.....う....ぅ.............!」
それを見た瞬間に吐きそうになった。視界がギラギラと歪んで弾けて、指の力が入らなくなるほど。恐怖と悪寒が同時に襲いかかった。それはわからないから来る恐怖じゃない。
わかってしまったから、理解してしまったから生まれた自身への嫌悪感であった。
「こんな.....酷い....なんでこんな...........っ!」
息が上がって涙が出てきそうになるが必死に押さえつける。それは強がりじゃない、泣いてはいけないと思ったから。
私の細胞がきっと.....殺したんだ........泣いていいわけがない。私が泣くのは最低だ........私に泣く権利なんて.....ない.....
ダスト先生は......私を騙してたの.....? こんなことのために....なんで....なんで....?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで————
息が上がって、その場から動けない。私は....どうすればいい.....この絶望を......どうすればいい.....?
こんなことのために私は....生きてきた.....?
役に立てると、ようやくきっと....そう思ったのに私は......もうどうすればいいの......?
ああ、そっか
気づいちゃった。
簡単な話だよ
私がいるから人が死ぬ。
私が死ねば.........もう犠牲者は出ない。
そう思考してから私の判断は速かった。私は手術室まで這いずった。震える足は使い物にならなくて、身体を引きずっていた。身体はひどく震えて、視界はやけに歪んでいて。
だが“意志”は明白であった。
私はダスト先生といたあの部屋で、医療用メスを手に取った。
メスを力強く握り、刃を見た瞬間、震える指はその時、一瞬で止まった。
私は一切の抵抗なく、首にメスを当てて、激痛とともに突き刺し、引き切った。




