第62話 太陽みたいな笑顔
「....ファリンちゃん、次は運動の時間だよ〜」
「えー、何しようかな、フットボールしよ!フットボール!」
「私は運動苦手だから....あんまりかなあ....」
数日が経ち、あの件から二人は仲良くなっていた。廊下で談笑していて、クリスはそれについていく形で歩いていると、メアリーはクリスの方に振り向くと声をかける。
「お兄様も運動嫌ですよね...! そうですよね!」
メアリーはクリスに同意を求めるように言うと、クリスは少し思考してから答える。
「僕は得意でも不得意でもないかな、メアリーは無理しなくても自分にできることをやればいいと思うよ」
メアリーがそれを聞いてしょんぼりしているとファリンは笑う。
「まあまあ、メアリーは応援してて!お兄ちゃんもだよ! 私すごいんだから!」
「そっか、応援してるよ」
クリスは微笑んでそう言うと、ファリンも笑顔で返す。そしてそれを見てメアリーはキョトンとした顔でその様子をじっと観察していた。
地下施設に設けられた広大な体育館。人工芝が敷かれたそこには、何十人もの子供たちが一つのボールを追いかけて無秩序に走り回っていた。
「えーい! そっち行ったよ!」
ファリンはポジションやルールなどお構いなしに、泥臭くボールを追いかけては元気な声を上げている。技術は全くないが、その底なしの体力と無邪気な笑顔で、自然と子供たちの輪の中心にいて、メアリーとクリスはその端で見ていた。
「ファリンちゃん頑張ってー....!」
小さい声を必死に上げるメアリーを横目にファリンを見ているとメアリーはクリスに声をかける。
「お兄様、一緒にやらなくていいの?」
「.....うん、別に」
「....えっと....好きな食べ物とか...」
「................バニラアイス」
クリスはそう素っ気なく返すと、しばらく沈黙が流れ、メアリーはまた聞いてみる。
「お兄様は好きな子ってその.....いるの....ですか?」
「別に...」
赤面するメアリーに対してクリスは目線を合わせることもなく返答するとメアリーは俯いて少し悲しそうな表情をして口を開く。
「やっぱり....ファリンちゃんのことだけが好きなんですね......」
メアリーのその言葉を聞いて、クリスはしばらく思考すると微笑んで言う。
「そうかもね。僕はファリンがとても大切なんだ、兄だからね?」
クリスはそうか返してみるとメアリーは小さく笑う。
「お兄様はきっと....自分で嘘をついているのだと思います。でも....ファリンちゃんを好きなのは多分....本心ではありませんか....?」
メアリーの言葉の意味がよくわからず、クリスが困惑しているとメアリーは続けて言う。
「私と話す時....お兄様はいつも素っ気なくって....ファリンちゃんの前だけは取り繕ってる気がします。本当のあなたはきっと....そんなに優しい人ではない.....なんて思ってみたり....」
メアリーの言葉を聞いて、クリスは小さくため息をつくと無表情で言う。
「そうだね、僕は別にどうでもいいんだよ。ただ....そうするように言われただけで、ファリンも含めて......皆んなどうでもいい、自分さえ良ければ」
「でも....私は違うと思う。だって本当にどうでもいいなら、私を助けたりしない、輸送車の話も聞いたのです、自分さえ良ければいいんだったら....ファリンちゃんの言葉を無視して自分だけ真ん中に行ってもよかった。でもそれをせずファリンの横に居続けた」
「勘違いしてるようだけど、あくまであれは——」
「違うでしょ? いや.....少なくとも私はそう思うのです......気づいてないだけで、お兄様はファリンちゃんをずっと大切に思ってて、優しくしたいと思ってる普通の人なんです」
クリスはその言葉に何と返せばいいのかわからなかった。図星を突かれたと言ったところだろうか。合理的に生きているはずだった自身の矛盾を指摘されたこの感覚が。
虚を突かれたかのように言われた言葉に、論理的な返しができないほど、彼女の言葉が自分自身を理解していた。
「そう......なのかな......」
「.....ええ、だからお兄様は.....もっと自分の気持ちを理解してみてください....!」
メアリーはそう言って立ち上がるとクリスの目を見る。
「いいんですよ、ゆっくりで、私がずっと....理解してみせますから......!」
そう彼女は太陽のような笑顔で微笑んだ。




