第60話 一時保護区
「ねえ、できれば真ん中の方に移動しない?」
クリスはそう言うとファリンは首を傾げる。
「え、なんで....? まだ人が来るかもしれないよ....」
クリスは隣のファリンに耳元まで近づくと小さな声で囁くように言う。
「生存率を上げるなら真ん中がいいよ。爆撃が来た時に真ん中の方が揺れは少ないし....攻撃も他の子達が肉壁になるし」
クリスはそう悪気なく言うと、ファリンは俯いて震えながら言う。
「そんな....ことで生きたくない....私は....」
ファリンの言葉を聞いて、クリスは少し思考すると言う。
「ごめんね、君が大切だからつい言ってしまったんだ。本当はそんなこと思ってないよ」
クリスはそう無表情で言うとファリンに聞こえないように小さくため息をつく。
相変わらずこうだ。他人のためなら自分がどうなっても良いと考えてる。僕には到底理解できない。兄は妹を守るものだと親が言っていた。“それが普通”であると。普通を演じるためにやってはいるが......合理性に欠ける。
嫌われれば操作しにくくなる。これからも同じ空間で過ごす以上は...仕方のないことか....
クリスはファリンの言葉に呆れつつも輸送車に人が来るのを待ち続け、ついに輸送車は動き始める。
無機質に揺れる輸送車の中で誰一人としてまともに話す子供はいなかった。親を失った直後で当たり前ではあるが、それでも子供が集まっていて誰一人喋らないという状況は異質ではあった。
しばらく輸送車は進み続け、そして止まる。
「とりあえず全員、出るんだ」
後方が開くと兵士がそう指示して、次々と子供が出ていく。列を作るように出ていきファリンとクリスも出る。その先にあったのは大きな施設のようなものであった。
それは有刺鉄線の塀に囲まれて、カクカクとした大きな四角い建物、それはまるで刑務所のようで、ファリンは言葉を漏らす。
「孤児院.......?」
他の子供達も困惑しながらも孤児院であると空気から読み取る。だがクリスだけは疑問を抱く。
孤児院はイギリスだと今はほぼない....里親制度で....ていうかそもそも今の時期にこんな場所...いや、戦争中だからこそか....
クリスがそう思考しつつも兵士を先頭にした列についていく。建物の入り口のすぐ近く、地下へと続く階段があり、そこを降りると長い廊下が続いていた。廊下の側方には寮室のようなものが連続していて、おそらくここで生活するのだろうと皆が認識する。
そのまま通路に沿って進んでいると広い空間に出るのであった。
そしてそこで並ばされ、皆が床に座ってしばらく経つと、裏口の方から小綺麗な黒のスーツを身に纏った金髪の男が現れると、皆の前に立つ。
「やあどうも、ここまでよく来たね」
糸目の優男は穏やかな声でそう言った。子供達は返事することはなく、その様子を見た男は顎に手を添えると、その瞬間、男の手からマジックステッキが突然現れる。
「なんとびっくり! ステッキが出てきちゃいました! でも、驚くにはまだ早いんだぞ?」
男は制帽を外すとステッキで制帽をコンコンと叩く。
「ここからなんと、鳩がでまーす....!」
制帽からすでに鳩の頭が飛び出しており、皆が困惑して、男は焦りつつ制帽を振る。
「ちょ! と、とんで? 飛ばないとほら、ね?」
男はなぜか鳩の対して下手に出ている。子供騙しのようなマジックをしているその様子を見てた子供の内の一人が静かに笑い出す。
そしてその小さな笑い声は伝染するように広がっていく。
それを見た男は赤面しながら鳩を自身の肩に乗せると制帽を被り直す。
「うまくいかないものだね....あ、オホン。私はここ、第6一時保護区に就任してるダスト・フィリップス、先生と呼んでくれていいよ」
ダストはステッキを地面に置くとさらに説明を続ける。
「色々大変だったと思うけどもう大丈夫...! 私たちが必ず生活を保証するよ!じゃあ説明していくね——」
そうしてそこからは今後の生活規則ややるべきこと。寮室の説明などしていった。
ここは国の保護区で里親に引き渡す間を過ごす施設のようでそれまではここで暮らすそうだ。地下室はシェルターにもなっていて安全な空間であるそうだ。




