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灰と魔法の荒廃戦  作者: 山田浩輔
過去の世界戦争
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第59話 クリス・フラクトリア

 真昼の青空は地獄だった。


 地は灼熱に塗れ、熱が空気を殺す。


 目の前に映る家は焼け落ち、爆発音が絶えず響く。

 近代的な国家はドローンにより壊滅させられる。



 日常に蔓延る歪な非日常が当たり前なこの時代が嫌いだ。早く終わってほしいのに終わらない。




 20XX年、秋のイギリス。

 後世において“魔王”と呼ばれる少年、クリス・フラクトリアの物語である。



  小国間での小さな戦争があった。領土侵犯から始まる交渉の決裂の際の戦争は他国の参戦に伴い徐々に複雑に絡み合い、大戦へと発展していったのだ。


 

 ドローンの出現から戦争方式は大きく変化を迎えた。1日に数万台の爆弾を背負うドローンが嵐のように突撃し、自爆特攻を繰り返す日々に人々は疲弊する。


 もはや策略や性能など意味はなく、いかに物理的、精神的に消耗させるかに特化した削り合いの戦争。




 そして妹のファリン・フラクトリアは目の前で家族を焼いた炎をただ見ていた。

 「ファリン、早く逃げよう」

 「で.....でも....!」

 「もう多分助からない、それよりも今は逃げる方が重要だよ」


 クリスはファリンの手を掴むと走り出す。


 ファリンは涙をボロボロと流すのに対して、ただの少年のクリスは逃げる。家族を焼いた炎にクリスはなんの感情も抱いてなかった。ただ、深層にあった心は一つ。


 [親が死んだので、まずは逃げる必要があり、その後に生活できるように公共機関などで言う必要がある」

 

 そう目的が提示されているだけであった。




 


 シェルター化した地下鉄の中でファリンはへたり込み、俯きながら言う。

 

 「これから....どうすれば....いいのかな」

 ファリンは今、何をすべきかがわからなかった。感情がグチャグチャで思考をまとめられない。涙が溢れて止まらない。その震える言葉にクリスは答える。


 「僕らは子供だし保護してもらえるはずだよ。生活が変わるかはわからないけど....戦争中とはいえ福祉の手はあるわけだしまずは大人を頼るしかないかな」



 

 「お兄ちゃんは....辛くないの.......?」

 ファリンは顔を上げると、小さな声でそう呟く。それを聞いたクリスは、少し思考すると平然と答えた。

 「うん、すごく辛いね」




 「国防省より通達。身寄りのない十八歳以下の未成年者は、ただちにA4出口付近へ集まれ。繰り返す。身寄りのない———」

 ノイズ混じりの事務的な音声。それは、クリスが話していた「福祉の手」の現れだった。

 「行こう、ファリン」

 「わかった......」

 ファリンは納得できないと顔で言っているようで、しかしクリスは分かっていながらそこには一切触れずに走り出した。




 そこには数十人ほどの孤児になったばかりの人間が生気をなくした顔で俯いて集まっていた。クリスとファリンもすぐにその集団に紛れていると回収部隊の兵士たちが子供達にタブレットのカメラを向けて顔認証をしていた。

 彼らは、瓦礫の街に溶け込む他地形迷彩の戦闘服に身を包み、青いゴム手袋を着用していた。



 「次。」

 一人一人にスキャンを行い、ついにクリスの出番が来る。


 [スキャン完了。クリス・フラクトリア。両親、死亡確定]

 写った文字を軽く見て、兵士は視線をタブレットに落としたまま、データを処理した。

 「左手を出しなさい」


 クリスは命令に従うと、兵士は青いゴム手袋の手で、クリスの細い手首に白いプラスチック製のリストバンドを巻き付けた。工業用の結束バンドに似た、分厚く頑丈なIDタグだ。



 

 「次、並びなさい」


 ファリンの番であったが、彼女は俯いたままで、前に歩こうとしなかった。聞こえてるのだろうがそれどころではないのだろう。兵士はファリンに近づくと頭を軽く掴むと正面に顔を向ける。

 「.....ぁっ」

 「ちょっと見してな」

 怖がるファリンに対して兵士は抑揚なく一言言って顔をスキャンするとIDタグをファリンの左手につける。



 「よし、次———」

 兵士はまた次の子供のスキャンを始め、それを尻目にクリスはファリンの手を掴むと出口の方に行くように言う。

 



 「行くよ」

 「......うん...」

 


 二人は階段を登り、太陽が見えてくる中を進むと、地上に上がったそこには巨大な輸送車と兵士がいた。

 兵士の背負うバックパックからは、太いアンテナが数本、不気味な角のように突き出している。それがドローン妨害用のポータブル・ジャマーであることを、クリスは知識としてなんとなく知っていた。アンテナからは、耳鳴りのような微かな電子音が絶えず響き、上空を支配するドローンの羽音をかき消している。




 「乗りなさい」

 兵士が二人を見てそう言うと、指示通りに輸送車へとクリスは乗り込み、輸送車に乗ろうとするファリンに手を出す。

 「ん....」

 「ありがとう.....」

 

 無表情で手を出す兄に感謝を述べつつ手を取ると、ファリンは引き上げられて輸送車に乗る。


 


 とりあえずこれで助かった。ここから僕らがやることはないはずだ。輸送中に襲撃されないことを祈るだけだね。


 そうクリスは思考すると一息つくのであった。

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