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箱庭の魔法使い-Snail and the Angel-  作者: 横谷昌資
箱庭の魔法使い-Swans Reflecting Elephants-
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第二話 力の音叉-May I Murder You?-・4

 翌日の放課後。肇と待ち合わせをした秀明はそのまま合流し、街をぶらぶら散策することにした。店はとりあえず龍介に任せ、今日はちょっとした休日ということにした。

「どこか行きたいところあるかい」

「今の時間なら、関屋さんがピアノ弾いてるかも」

「ピアノ?」

(関屋さんのピアノなら聴いていられる)

「じゃ、その場所に行こうか」

「おう」

 と、二人はおそらく関屋少女がいるという楽器店へと向かった。

 楽器店のピアノ売り場で関屋少女はピアノを弾いていた。クラシックであることしか秀明にはわからない。ひたすら熱中して演奏に集中する関屋少女。多分うまい方なのだろう、と、音楽のことなど何もわからない秀明がそう感じたタイミングで彼女は二人に気づいた。

「あ」

 と、そこで彼女は演奏を中断した。

「ああ、いいのに」

「いや、でも」

 と、二人は彼女に近づいた。

「仲良くなったの? 黒澤くんと——」

「柾屋秀明です」

(名乗った方がいいよね)「関屋真季せきやまきです」

「友達になったんだよ」と、肇。「柾屋くん、いい子で」

「それは何より」と、秀明。「ありがたき幸せ」

(そうか。友達ができたのか)(ちょっとだけ、面白くないかも)

 秀明は真季の心をまさぐる。真季は生来の男性恐怖症に悩まされてきたが、なぜか肇とは初対面のときから気が合っておりすぐに仲良くなった。そのなぜかの根本的な理由は自分のことであっても真季にはよくわからなかった。ただ、あまり男性としての気質を肇に感じ取れないからなのかなと漠然と思っていた。一緒にお出かけをすることも度々あり、だんだんと真季は肇に異性としての興味が湧き始めていた。それは肇にとっても同じようで、彼らは要するに両片想いの状態であった。いつかきちんと想いを告げたい、と、二人してそう思っていたが、タイミングがなかなかやってこない。タイミングなんて来させるものだよ、と、秀明は心の中で二人にエールを贈る。

 その後三曲ほどの真季の演奏を聴いて、じゃあ、と、二人は真季と別れた。

「関屋さんはピアニストになりたいんだって」

「そうなんだ。うまいもんね」

「絶対音感があるんだって」

「へえ。極めて珍しい能力だ」自分たちほどではないにせよ、とは、もちろん秀明は言わない。「じゃあ音楽家一家とかなのかね」

「音楽好きなお父さんお母さんなんだって」

「なるほどね」

「実物は見たことないけど、音叉みたいだよね」

「そうだね。絶対音感があれば音叉もチューナーもいらない」

(僕もこの感受性の鋭さをコントロールできるといいのに)

 悩みはあれど、久々にできた秀明という友達を肇は思う。肇が無意識で読み取った秀明の感情はなかなかの幸福感に満ちていた。それはそうだろうと秀明は自分の感情を客観的に感応してそう自覚する。なんといっても生まれて初めて出会った同胞だ。このかけがえのない感動は(なかなかの幸福感に満ちて)いておかしくないと自分自身そう思う。

 いつか、そう遠くないうちに秘密を告白してみてもいいのではないかと秀明は思う。無論、テレパスであるという歴然たる事実を伝えたときの肇の反応を思うと、全ての真実を明かすことが果たして自分たちのためになるのかどうか秀明は悩ましい。それなら、と思う。自分も感情感応能力者であるということにするのはどうだ。そして君も自分と同じ超能力を持っていると伝えてあげる。その超能力者としての自覚が肇に芽生えるだけで、肇の生きづらさの大部分が解消されるはずだと秀明は直感的にそう思っていた。いつか超能力者同士としての邂逅を果たしてみたい。それは秀明の超能力者としての使命感であり、また、あるいは受動型である肇に対してどうしても駆られてしまう自分自身の庇護欲によるものであった。


「これからどうしようか」

「もう家に帰るだけだけど」

「店にでも来るかい」

「いや、そろそろお開きに」

「黒澤くんの家はこの辺かい」

「一駅越えたとこだよ」

「いつかお邪魔させていただきたいな」

 警戒信号。

 しかし、何一つとしてイメージらしきものが浮かばない。

「じゃ、今日のところはこの辺で」

「バイバイ」

「またね」

 肇は何かを隠している。

 それは自分自身に対する偽装がまずそこにあるような気が、秀明にはした。

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