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箱庭の魔法使い-Snail and the Angel-  作者: 横谷昌資
箱庭の魔法使い-Swans Reflecting Elephants-
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第二話 力の音叉-May I Murder You?-・2

 フードコートに向かう途中、向こうから「関屋さん」が現れたので、秀明は声をかけようかどうかちょっと迷った。何故なら彼女も秀明に気づいたからだった。しかし先ほどの少年とは違い彼女はちょっと秀明に警戒心を働かせているようだった。ただの店員に対してそこまでの感情の動きになるものだろうかと秀明は自分の勘を疑う。

 歩く四人と、接近してくる「関屋さん」。

 すれ違いざまに秀明と少女の目が合い、秀明は会釈する。すると彼女は、

「あの。昨日はどうも」

 と、声をかけてきた。酷く“恐る恐る”といった様子だった。自分の何かが彼女を怖がらせているのだろうかと秀明は内省を始めようとする一方で少女に挨拶した。

「昨日はお買い上げありがとうございました」

 そこで冴たち三人は、少女が“昨日、シャハシュピールにやってきた客”であることを認識する。

「私たち、先に行ってるね」

「ああ」

 そこで秀明と三人は別れる。

「さっきの少年はレコードショップにいますよ」

 二人きりになり、秀明はそう声をかけてみた。すると彼女の意識が今にも崩れそうなほど脆いことが秀明にはありありとわかった。

「あの。はい。本、面白かったです。面白いです」

「それはよかった」

 ビクビク。オドオド。

 彼女は生来の男性恐怖症であるようで、秀明のことを怖れているのも秀明が秀明だからではなく秀明が男性だからであることを彼はすぐに見抜いた。そうなると、これ以上「関屋さん」を自分との会話のやり取りに巻き込むのが心苦しい気持ちになってきた。

 ただ彼女としては、さっきの少年(黒澤くろさわくん)とコンタクトを取ったらしい秀明にちょっと興味があるようだった。少年黒澤は重度の人見知りであり、初対面の人間と会話が弾むような人間には彼女には思えなかったからだった。だが、その興味が秀明に向きはしていたが、それにしても彼女は男性恐怖症だった。一刻も早くこの場から離れ(黒澤くん)と合流したいようであった。

 男性恐怖症の彼女が何故(黒澤くん)とは仲良く接していられるのかは、いくら心をまさぐっても彼女に直接質問してみない限りわからないはずだった。故に秀明はそれ以上の追求をやめる。ただ、「関屋さん」が、(黒澤くん)にちょっとした恋心が芽生えていることだけはなんとか読み取れた。男性恐怖症とはいえ男性に恋愛感情を抱きはするものなのだな、と、秀明はなんとなく興味深かったが、だがこれ以上男性である自分とのコミュニケーションに彼女を巻き込むわけにもいかない気がしてきていた。彼女は秀明に興味があるようだったが、ここは自分が引いてしまった方が彼女の精神衛生上最も適切な行動のように秀明には思え、やがて、

「それじゃ俺はこれで」

 と言って、「関屋さん」から離れた。

 だが彼女はまだ止まらなかった。

「あの」

「ん?」

 なんとかして勇気を振り絞ろうと決意し、彼女は秀明に語りかけた。

「黒澤くん。あ、昨日の男の子、黒澤くんっていうんですけど」

「黒澤くんっていうんだね」

「無事でした?」

「え?」

 彼女の質問の意味がよくわからず、秀明は怪訝な顔になった。

「黒澤くん」

「彼、危なっかしい子なのかい」

「危なっかしいのはそうなんですけど……」

 どうやら彼女も自分のことを年上だと思っているようだった。

「俺、高2だよ」

「あ。タメか」

「そうだね。タメだね。それで、黒澤くんがどうしたって?」

「あの」

 怖い。この男の人が怖い。怖がる要素は男性であるという部分だけで、この人自体はおそらく人畜無害であろうというぐらいの想像はついたが、恐怖症は理屈では治らない。

 それでも「関屋さん」は、決意して秀明に説明した。

「最近、不審者情報が、学校であって」

「そうなんだね」

本郷ほんごうくんが行方不明)(クラスの人気者)(しばらく来てない)(誘拐)(まさか高校生男子を誘拐)(でもまさか)(本郷くんが誘拐されるぐらいなら、黒澤くんも)

 クラスメイトの本郷涼真ほんごうりょうまというムードメイカーの少年が、今週半ばから学校を無断欠席しており、家に連絡を取ったら自宅にも帰ってきていないということでちょっとした大騒ぎになっていたのだった。そこで彼女としてはおとなしい黒澤少年も事件に巻き込まれる恐れがあるのではないかと、やや飛躍した論理を展開させていたことを秀明は読み取った。

 秀明は、安心させてやろう、と思い、ちょっとだけ微笑んだ。

「さっき黒澤くんと会ったばかりだし、お店の中で男子高校生を誘拐ってことはないと思うよ」

「あ。そうだよね」

「ふふ」

 と、秀明はできるだけ柔和な表情を作ろうと心がけた。

 彼女も少しだけ落ち着きを取り戻し始めたようで、秀明に、ぎこちなく微笑みかける。

「それだけ」

「それだけか」

「ごめんなさい」

「そんなことないよ。早く合流できるといいね」

「うん。ありがとう」

「じゃあね」

 と言って秀明は彼女から離れ、三人の待つフードコートへと向かう。

 二人とのやり取りも、今日はここでおしまいだった。

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