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箱庭の魔法使い-Snail and the Angel-  作者: 横谷昌資
箱庭の魔法使い-Swans Reflecting Elephants-
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第一話 そこにいてはならぬ-She knew that He was still a Child-・2

 男の名前は皿井祥夫さらいよしお。女の方は由魅ゆみである。祥夫の苗字までわかったのは由魅がさっきからフルネームで彼のことを呼んでいたからだった。祥夫は由魅のことを日常的に由魅と呼んでいるようで、したがって彼女の苗字は今のところわからない。しかし問題ない。秀明にとっては人物の識別ができればそれでいいのだから。

 由魅は普段祥夫のことを「祥夫くん」と呼んでいるが、しかし今日はさっきからフルネームで呼んでいるようだった。由魅にとってそれは怒りの表現方法であるらしかった。由魅は祥夫に対して怒りを覚えている。しかしその一方で、なぜか心配の気持ちがあった。それはなぜだろう。この二人の間にはどんなことがあって、何があって別れ話が始まったのだろう。ラナンキュラスの少女の心と合わせながら、自分が来店するまでにどのような会話が展開されていたのかを秀明は読み取る。

 どうやら祥夫と由魅は高校生であり、浮気のカップルであるらしかった。祥夫の本命の名前は木暮永遠子こぐれとわこというらしい。しかし永遠子は今、最近出会った堀口武生ほりぐちたけおという少年に夢中になっている。

 そこまで秀明が理解したところで、キッチンで何か物音がした。ん? と、二人はキッチンの方を見る。だが特に何事もなかったようなので二人は再び向き合う。しかし秀明からすれば興味深い物音だった。なぜならその瞬間、少女の強い精神力がキッチンに対して何らかの作用をしたからだった。おそらく彼女が自身の超能力を使って何かをした。ただ、具体的なことは秀明にはまだよくわからなかった。その件も頭に入れつつ、秀明は三人の心を読み取っていく。

 キッチンの物音をきっかけに、しばらく黙っていた二人は会話を再開する。

「だから俺、由魅のことは、その、好きだけど」

「木暮さんに夢中なのはわかるけど。でも彼女はそんなに本気じゃないんじゃないの」

「そうかな。木暮が読者モデルになったの、俺だけ興味なかったのが彼女の興味を引いたわけで。今は俺も好きだし」

「でも、諦めた方がいいと思う。私に決めろって言うわけじゃないけど」

「浮気っていうのは、やっぱり良くないし」

「それはそう。だからこうして話してるの、皿井祥夫くん」

 祥夫は黙り込む。そして由魅もこの先どう会話を展開すれば良いかわからず黙ってしまった。

 二人の想起域を読み取りながら秀明は話をまとめる。

 どうやら元々祥夫を愛していたのは由魅の方だったようで、学級委員の仕事を一緒にする中、好きなロックバンドの話で盛り上がる中、祥夫が病気の母親のことをすごく大切にしていると言ったことから日に日に恋心が芽生え、それがもうすぐ形になりそうだったところ、永遠子が祥夫に構うようになったらしい。美少女の永遠子に特に興味を持たなかったクールな自分に逆に興味を持った、と祥夫は思っているが、しかし由魅の心をまさぐった限りはどうも多少のズレがある。

 由魅が女子たちの噂話で聞いたのは、永遠子は自分が載った雑誌にクラスメイトの中で唯一興味を抱かない地味な祥夫に“イラっとして”、友達たちと祥夫を“落とせるか”どうかの賭けをしているに過ぎない、という真実だった。由魅は聞いてしまった。あんな特徴のない男に女は興味を持たないと言っているのを。ところが祥夫は自分のそんなキャラクターによってちょっとプライドの高い美少女を夢中にさせたと思うことで内心有頂天になっていた。

 由魅からすれば、祥夫は優しい少年であった。確かに異性の目をハッと引くような特徴は持っていないかもしれない。でも、一緒にいることでその誠実な人柄に由魅の恋は始まったのだ。そしてそれは祥夫も同じだった。学級委員の仕事を一緒にする中、だんだん由魅を可愛いと思うようになり、愛おしいと思うようになった。日々少しずつ話をし、ささやかだが二人の思い出を築きながら、本当ならこのまま二人の付き合いが始まるところだっただろう。ところがそこに永遠子が出現した。まだ由魅と付き合っているわけではなかった祥夫だったが、永遠子の情熱的かつ猛烈なアプローチについ心が動かされてしまった。そして、なし崩しに付き合うことになった。これが永遠子のほんのひとときの気まぐれとも知らず。

 ところが秀明が祥夫の心を読み解いていくと興味深い事実がわかった。それは、祥夫は実は成績がいいことがわかり、利用してやろうと思う中でだんだん永遠子の祥夫を見る瞳が変わっていったことだった。と同時に、自分の彼女が美少女の外見の割に成績が壊滅的であるという現実にだんだん気持ちが離れていっているということだった。しかし祥夫は、その反面、せっかくの美少女を手放すのは惜しいと思っている。そんな卑怯な気持ちから、祥夫は由魅と逢瀬を重ねることになってしまっていた。と言ってもまだ肉体関係は持っていない。ただ二人でこっそり会っているだけだ。しかし祥夫は由魅の自分に対する気持ちを知った上で由魅と会っているわけだから、少なくとも彼の認識では由魅との関係は浮気であった。

 そんな中、堀口武生という美少年がクラスに転校してきた。

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