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#-20

 レキはアラクネではなく、奥のアラクネに食されていた男を握り潰した。

 握り潰したと言っても軽く包む程度の強さなので、その死体に握るとき以上の損傷はない。


「でもその救いを与えるのはボクらの役目じゃないし、諦めるのもまだ早いのかもしれない」

「え……!」


 そして死体を手放すとレキは龍の腕と翼を消し完全に無防備になる。

 当然、龍の能力を消したのだから重力の力も消えていた。

 その異様な行動に敵対しているアラクネは当たり前だが驚きを隠せない。


 なぜならそれはつまり攻撃をする気は失せたという意表だ。

 だったら、殺さないと言うなら。


 アラクネの目に再び闘志が戻る。

 ジッと見つめる白い髪がかかる首筋。今ならその首を簡単に狩ることが出来る。


 だがそれより早くアラクネの身体にある異変が訪れた。


「うぐっ!」


 急に喉の奥から吐き気を催した奴はレキたちをそのままに、近くの木に身体を寄せ、何かを吐き出した。


「え、なに!? どうしたの!」


 心配し、近付くレキはその吐瀉物を見て驚く。

 それはまるで血のように鮮やかで、そしてどす黒い赤だった。


「大丈夫!?」

「ふれ、るな……」

「拒絶反応でしょ」


 そんな彼の横で美由が呟くように言葉を吐く。


「拒絶反応?」

「そ。人肉にせよなんにせよ、肉を生で食べたんですもの。そんな獣じみた行為をしたら反動が来るに決まってるじゃない」


 そう当たり前のことを呟く美由の顔をレキは不思議そうに見る。

 その視線は妖と猛獣と同等に見ているようで、美由からしてみると非常に不愉快だった。


「あのねー、一応言っておくけど妖は獣じゃないわ。人と同じように肉には火を入れて食べるし、味付けだってする」

「確かに」


 無に近い表情でレキは頷く。

 この反応、どうやら最初っから理解しており、からかうつもりで反復したのか。

 それに気付いた美由はレキの両頬をつねり、逆方向に引っ張る。


「どうしてそんなめんどくさいことするかなぁ……」

「ごめんなひゃい、ごめんなひゃい!」


 吐き気がなんとか一段落したアラクネは不思議そうな目で彼らを見つめる。

 なんでこいつら人殺しが目の前にいるのにこんなに気楽にいられるのだろう、と。


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