#-21
「……本当に殺さないのか? 命令されてるんで、だろ?」
「うん」
思わずアラクネは問う。そして即答された。
「なんで」
「別にお前の討伐の詐称なんて簡単だし、と言うか最初っから倒す気なかったし」
道中、その話を聞いた美由は「また悪い癖が始まった」と嘆息を零した。
彼は生きていた環境の問題もあるのだが、それが例え依頼であっても、誰かの話だけではどちらが善悪かを決めたりしない。
自分で見て自分で決めることをポリシーとしている。もし依頼者が悪と断定したなら依頼報告をでっち上げることも珍しくない。そんな奴だ。
今回は報告件数のペースと国の戦力の異様な低さ。
以上の二点から国側が何か隠していると気付いたため、討伐はせず、話を聞くことに目的を変更していた。
「ふざけてる」
そんな奴に憤慨するのは当たり前だろう。アラクネは歯を鳴らし、怒りを露わにする。
だがレキは対し構えるでもなく、睨み返すでもなく、ただ肩をすくめた。
「それはお互い様だろ? じゃあ聞くけど、なんでこの隙に殺さなかった?」
「それは……」
アラクネは視線を逸らす。その瞬間、レキはアラクネに詰め寄った。
「しまっ――」
完全に気が緩んでいたアラクネは咄嗟に構える。
しかしそれよりも早くレキの手が彼女の身体に届いた。
厳密に言えばおでこに、だが。
「はい死んだー」
「……はっ?」
ぴんっと弾かれた部分に痛みは生じているものの別に死ぬほど痛いわけではない。
状況が理解できていないアラクネは思わず呆気ない声が漏れる。
目をパチクリと瞬きさせ、理解不能を大きく表現するアラクネ。
それでようやく状況がつかめたのか、レキは恥笑いを浮かべながら指を銃の形に変える。
そしてそれでアラクネも理解が出来たようだ。つまりは撃たれて殺されたのか。
「じゃあ死体くんにはこの森、いや国なのかな。案内してもらおうか?」
レキは微笑みはがらそう頼む、いや命令する。
だがアラクネの表情は相変わらず怪訝なままだ。
「本気なんだな……?」
そう未だ信用が出来ていないのだ。アラクネは再三問う。
対し三度目の回答は笑みで示した。
それを確認すると視線を逸らし、先のレキが握り潰した男の方へ振り向く。
「でもまだやることがある。案内するのはそれからだ」
アラクネはその死体を担ぎ、森の奥の方へ向き直る。
「やること?」
「黙ってついてこい」
レキは答えを求めるように美由と視線を合わせる。
だが美由も流石に状況は読めず、肩をすくめ首を横にふるだけだった。
「あと私、アラクネじゃない。現姫・トゥエンだ」




