#-19
その時だった。
美由やホムンクルスの上に影が覆いかぶさる。
雲か。
なんてこと思うがはずが無く、美由は頬を膨らませる。
「ちぇ……美味しいところ全部持って行くんだから」
なにか生体反応を察知したのか、ホムンクルスは咄嗟に上を見上げる。
すると雨、ではなく一本のナイフが落ちてきた。
ナイフは滑り、ホムンクルスの左肩の関節部に引っかかる。
そして同じぐらいのタイミングにナイフから黒い波動が爆ぜ、左腕をもぎ取った。
影の正体は龍の翼を大きく広げたいレキ。
愛用のハンドピース〝アズール〟に魔力を籠め、爆弾のように扱ったのだ。
無論、アズールの刃の影を利用した技なのでアズール本体には傷一つ無い。
本当はそのまま影の部分を圧迫させても良かったのだが、そうすると美由にまで被害が及ぶため選択肢から排除した。重力の利用も同様だ。
爆散を確認するとレキは翼を消し、空からふわりと美由の目の前に降りてきた。
背中にはアラクネが乗っており、慣れない感覚に目を丸くしている。
「大丈夫?」
「と思う?」
「憎み口叩く分、余裕はありそう」
クスリと笑い合うとレキはアラクネを背から降ろすと、何も持たずホムンクルスへ突進する。
標的をレキに変更したホムンクルスの巨大な拳が勢い良く振り下ろされた。
レキは美由と違い、スピードはない。
ただパワーがある。
利き手の右腕を龍の腕へ瞬時に変換させ、ホムンクルスの拳と殴り合う。
結果は言うまでもなくレキの圧勝で、ホムンクルスの腕がもれなく飛び散る。
両腕を失ったホムンクルスはバランス悪そうにぐらりと巨体を揺らす。
そこに追い打ちをかけるようにレキは龍の腕の爪に力を籠める。
「〝Shadow Slash〟」
そして龍の腕を振るい、五本の薄い影の刃がホムンクルスに襲いかかる。
抵抗しようにも抵抗できないホムンクルスはそのまま影の刃に斬られ、そのまま爆散した。
残骸の中、たまたまアズールを見つけたレキは手間が省けたと安堵の息を吐き回収する。
そして怪我を負った美由の方へ走った。
「レキ! 美由、血がたくさん!」
アラクネが元々白い肌をさらに白くして訴えてくる。
だが外傷は腕だけで、血は吐いているものの、流れ出てはいない上、触診しても痛みを訴えないことから口内を切ったものだとレキは判断した。
「大丈夫、大丈夫。なんかの肉食わせとけば秒で治るから」
「治らないわよ。それどこの実験生命体?」
美由が浮かべる笑みでアラクネはようやく落ち着きを取り戻したようだ。彼女に思いっきり抱き着く。
しかし。
そんな何気ない会話を繰り広げているが、レキは未だ信じられなかった。
アラクネがこんなに人懐っこい性格をしているなんて。
今でも騙されているのではないか、と疑っているほどだ。
時間はまた一昨日の夜に戻る。




