幕間 北の霊峰にて(3)
──同時刻。
「ああ、あんな簡単に指を切って……!」
ジルは思わず、触れてしまうぐらいに水鏡に顔を近づけた。
「昔からそうなんだ、師匠、あんたのせいですよ!? あんたがすぐ治すから」
「……あの程度なら、今見た通り、彼自身ですぐ治してしまえますが」
「それ以前からってことです!」
ジルは大声でエセルヴォルドを叱責した。
「そもそもですね、ヒースとあんたは違うんですよ。俺はずっと心配してるんだ、あの調子じゃヒースは、いつか、取り返しのつかないことをしでかしますよ」
「……というと?」
「治るから、とか、魔法でどうにかなるから、って、とにかく無茶をしすぎるってことです」
ジルの指摘に、エセルヴォルドは難しい顔で沈黙した。
「あんたが、本当にヒースを独り立ちさせるつもりだったなら、そのあたりのことも、教え込んでやらなきゃならなかった。あんた、本当にそれを……ヒース一人では無力になりうることもあるって、教えましたか?」
エセルヴォルドは目を逸らした。
「……いざとなったら、私が」
「助けてちゃ意味がないんですよ!」
重ねて叱りつけると、エセルヴォルドがいよいよ沈黙する。……とはいえ、これ以上追求しても仕方がない、今更どうしようもないことだ。ジルは「しかし」と話を変えた。
「……早速、とんでもないことをやらかしましたね」
「あれぐらいはやるでしょう。あの子は天才です。私など少しも及ばない」
エセルヴォルドは静かに言った。
「そう、それこそがあの子の才なのです。新しいものを作り出す、あの子の魔法はそういうものだ。……なにより」
エセルヴォルドは、ふと、微笑んだ。
「あの子は、ああしているときが──新しい世界を見るときが、一番、楽しそうですからね」
ジルはそれを見て頭を抱えた。
「……あんた、それもまた本心なんですもんねえ……」
「……? 当然でしょう。それがなにか?」
「いえ」
傷ついて欲しくない。大事にしたい。けれども、自由に──存分に、世界に羽ばたいて欲しい。
それは、紛れもなく愛だった。そしてジルは、そのふたつは両立できると信じている。
けれどもエセルヴォルドはきっと、どちらかしかできないと思っているのだろう。そのくせこんなところで水鏡を覗き続けている。いっそこうして見ているのがバレればいいのに、とさえ考えながら、ジルはため息を吐いたのだった。




