20話 もう1人の話
次の日、ナオは宿の入口でサチと一緒に古い荷物を動かしていた。
朝の町はいつも通りにぎやかだった。
屋台の煙が上がり、通りには荷車が行き交い、ギルドへ向かう冒険者たちの姿も見える。
昨日、ガルドから聞いた旧道と見張り小屋の話は、まだ頭の中に残っていた。
魔物の通り道。
古い街道。
行くなら、もう1人は欲しい。
その言葉が、何度も浮かぶ。
今すぐ行くわけではない。
でも、いつか行くなら考えなければいけない。
2人だけでは足りないことがある。
それはたぶん、少し前のナオなら認めたくなかったことだった。
けれど今は、認めた方がいいと思える。
リュウは速い。
ナオは支援できる。
でも、見える範囲には限界がある。
守れるものにも限界がある。
それを知らないまま遠くへ行けば、たぶんどこかで失敗する。
「ナオ、そっち持てる?」
サチが声をかけてきた。
「ああ、大丈夫」
ナオは木箱の片側を持ち上げた。
中身は布や古い道具らしい。
思ったより重い。
サチが反対側を持つ。
「せーのでいくよ」
「分かった」
「せーの」
2人で木箱を入口の端へ運ぶ。
置いた瞬間、サチが小さく息を吐いた。
「助かった、これ1人だと地味にきついんだよね」
「いつでも言ってくれ」
「そう言うと、本当に頼むよ」
「いいよ」
ナオが普通に答えると、サチは少しだけ目を細めた。
「ナオってさ、そういうところあるよね」
「そういうところ?」
「頼まれたら断らなそうなところ」
「内容によるだろ」
「ほんとかな」
「ほんとだ」
「何割?」
「8割」
「そこは10割って言いなよ」
サチは笑った。
ナオも少し笑う。
香り草と花が置かれた入口は、すっかり宿の一部になっていた。
最初にここへ来た時は、ただの宿だった。
今は、少し違う。
ここにサチがいて、ナオが持ってきた香り草があって、毎朝の会話がある。
それだけで、帰る場所という感じがしてきていた。
「昨日の話、まだ考えてる?」
サチが木箱の上の埃を払いながら聞いた。
「旧道のことか?」
「うん、それと、もう1人必要って話」
「ああ」
「やっぱり気になるよね」
「気になる」
ナオは少しだけ言葉を選んだ。
「2人だけで何とかなると思ってたけど、そうじゃないんだなって」
「それは悪いことじゃないんじゃない?」
「そうか?」
「うん、足りないって分かるのは大事でしょ」
サチはあっさり言った。
「無理に2人で行くより、ちゃんと足りないもの考えた方が安心できる」
「サチはそう思うのか」
「思うよ、私、待つ側だし」
その言葉に、ナオは少し黙った。
待つ側。
サチは何度もそれを言う。
出る側のナオには、まだ完全には分からない感覚だった。
でも、分からないからこそ、聞いておく必要があるのかもしれない。
「待つ側からすると、誰か増えた方が安心か?」
「その人によるけどね」
「まあ、それはそうだな」
「変な人が増えたら余計心配」
「それもそうだ」
「でも、ちゃんと見てくれる人とか、無理を止めてくれる人なら安心する」
サチは少しだけナオを見た。
「ナオもリュウも、止める側と止められる側みたいに見えるけど」
「だいたい合ってる」
「でも、ナオを止める人も必要かもね」
「俺を?」
「うん」
サチは真面目な顔でうなずいた。
「リュウは勢いで前に出るけど、ナオは考えたうえで無理しそう」
「昨日も言ってたな」
「何回でも言うよ、たぶんそこ大事だから」
ナオは何も言えず、少しだけ笑った。
「じゃあ、俺を止める人か」
「うん、そういう人」
「サチみたいな?」
言ってから、少しだけ空気が止まった。
サチが目を丸くする。
ナオも、自分で言っておいて少し固まった。
「……今の、なしで」
「なしにしない」
「そう言うと思った」
サチは笑った。
でも、その笑い方は少しだけ照れていた。
「私が行けるかは別として、止めるくらいならするよ」
「怖そうだな」
「怖いよ」
「だろうな」
「リュウも止めるし、ナオも止める」
「かなり大変そうだ」
「だから、ちゃんと言うこと聞いてね」
「何割?」
ナオが聞くと、サチは少し考えた。
「10割」
「そっちが言うのか」
「うん、私が10割で止める」
2人は少し笑った。
その時、階段からリュウが降りてきた。
今日は寝癖が少しある。
ただ、昨日より目は覚めているようだった。
「おはよう」
ナオが言うと、リュウは片手を上げた。
「おはよう」
「今日は遅くないな」
「俺は成長してる」
「最近それ多いな」
「実際成長してるだろ」
サチがリュウを見る。
「今日は滑らない?」
「滑らない」
「カジノにも滑り込まない?」
「それは上手いこと言ったつもりか?」
「少しだけ」
「今日はギルドだ」
「夜は?」
「分からん」
「そこは変わらないね」
サチは笑った。
「今日は何するの?」
リュウが聞く。
「ギルドで依頼を見る、あと旧道のことを少し整理したい」
「もう1人の話か」
「ああ」
リュウは一瞬だけ真面目な顔になった。
昨日のガルドの言葉は、リュウにも残っているのだろう。
「まあ、俺たちだけじゃきつい場面もあるよな」
「珍しく素直だな」
「昨日滑ったしな」
「効いてるな」
「効いてる」
リュウは苦笑した。
2人は宿を出て、屋台で朝飯を買った。
リュウは串焼きを2本買った。
それを見て、ナオは少しだけ言った。
「3本目は?」
「今日は止まった」
「えらい」
「ミーに報告する」
「それ報告するのか?」
「止まる練習の成果だからな」
「食欲まで管理されてるな」
「管理されてる気がする」
リュウはそう言いながらも、少し嬉しそうだった。
ギルドに着くと、受付の棚から鈴の音が聞こえた。
ちりん。
ミーの耳がぴこっと動く。
リュウはもうそれを見るだけで少し笑うようになっていた。
「あ、リュウさん、ナオさん、おはようございますです」
「おはよう、ミー」
「おはよう」
ナオも軽く手を上げる。
ミーはリュウの手元を見た。
「あれ、串焼き2本ですか?」
「そう」
「3本じゃないんですね」
「止まった」
リュウが少し胸を張る。
ミーの耳が立った。
「おお、リュウさん、食べるのも止まる練習ですか?」
「そういうことだ」
「すごいです、リュウさん、だんだん止まれる人になってます」
「だろ?」
「でも、お腹空きませんか?」
「空く」
「じゃあ、あとで食べればいいです」
「止めた意味あるのか?」
「朝に止まったので、成果です」
ミーは真面目に言った。
リュウは少し笑う。
「ミーの理屈、たまに助かるな」
「助かりますか?」
「ああ」
「じゃあよかったです」
ミーは嬉しそうに笑った。
ナオは掲示板を見る。
今日の依頼は、町の中と周辺のものが半分ずつ。
昨日の旧道の正式調査は、まだ出ていない。
おそらくガルドやギルド内で確認してからになるのだろう。
今すぐ行く必要はない。
むしろ、その方がいい。
「ミー、旧道の正式調査って、すぐには出ないよな?」
ナオが聞くと、ミーは書類を確認しながらうなずいた。
「はい、今日はまだ出てません、ガルドさんとギルド長さんが話してからになると思います」
「ギルド長っているのか」
「いますよ」
「まだ会ったことないな」
「普段は奥にいます、ちょっと怖いです」
「怖いのか?」
「顔が」
「顔か」
「でも優しいです、たぶん」
「そこは断言してやれよ」
リュウが言うと、ミーは少し考えた。
「優しいです、8割くらい」
「2割怖いんだな」
「顔が」
ナオは少し笑った。
「今日は軽い依頼にするか」
「そうだな」
リュウも掲示板を見る。
その中に、町の南側にある小さな診療所への荷物運びがあった。
薬草の入った箱を、ギルドから診療所まで運ぶだけ。
ただし、薬草は湿気に弱いので、落としたり濡らしたりしないこと。
報酬は少なめ。
距離も近い。
「これでいいんじゃないか?」
リュウが言う。
「薬草運びか」
「危険はなさそうだし」
「油断すると落としそうだけどな」
「俺を見ながら言うな」
「言ってない」
「顔が言ってる」
ミーが真剣に依頼書を見た。
「これは丁寧に運んでください、診療所の薬草なので」
「分かった」
ナオがうなずく。
「リュウさん、走らないでくださいね」
「薬草持って走らない」
「本当ですか?」
「10割」
「今日は信じます」
「今日はって」
「昨日も信じました」
「ならいいか」
手続きを終え、ナオとリュウは薬草の箱を受け取った。
木箱はそれほど重くない。
ただ、中身が揺れないように布が詰められている。
ナオが持ち、リュウが周囲を見ながら歩くことにした。
「俺が持ってもいいけど」
リュウが言う。
「お前は足元見る係」
「俺、そこまで信用ないか?」
「昨日滑ったからな」
「まだ言われるのか」
「しばらくは言われる」
「ミーにも言われるな」
「たぶんな」
2人はギルドを出て、南側の診療所へ向かった。
町の中はいつも通りだった。
ただ、診療所へ近づくにつれて、少し空気が落ち着いてくる。
商店や屋台のにぎやかさが減り、静かな建物が増えた。
診療所は白っぽい壁の小さな建物だった。
扉の前には、薬草を干すための棚が置かれている。
「ここか」
ナオが言うと、リュウが扉を叩いた。
中から、年配の女性が出てきた。
「ギルドからです」
ナオが木箱を差し出す。
「ああ、助かったよ、昨日の雨で在庫が少しやられてね」
「湿気に弱いんですね」
「薬草によるけどね、この箱のものは特に気をつけないといけない」
女性は木箱を受け取り、中を確認した。
「問題ないね、ありがとう」
その時、奥から小さな咳の音が聞こえた。
ナオは少しだけ反応する。
女性が気づいて、苦笑した。
「昨日、旧道の方で怪我をして運ばれてきた人がいてね」
「旧道?」
リュウが聞き返す。
ナオも少し身を固くした。
「君たちが連れてきた人とは別だよ、昨日の夜に衛兵が連れてきた」
「見張り小屋の方ですか?」
「そこまでは知らないけど、西の古い道の近くだって聞いた」
ナオとリュウは顔を見合わせた。
昨日、ナオたちは入口付近で引き返した。
そのあと、誰かが旧道の方で怪我をしたということか。
「魔物ですか?」
ナオが聞くと、女性は首を横に振った。
「傷を見る限り、獣か小型魔物だろうね、ただ、本人はあまり話したがらない」
「旅人ですか?」
「どうだろう、荷物も少なかったらしいよ」
リュウの表情が少し真面目になる。
「旧道、やっぱり何かありそうだな」
ナオはうなずく。
ただの古い道ではない。
魔物の通り道という話もあった。
そして実際に怪我人が出ている。
だからこそ、勝手に行くべきではない。
そう思った。
「その人、命に別状は?」
「今のところはね、でも傷が深いからしばらく安静だ」
「そうですか」
ナオは少しだけ息を吐いた。
女性は2人を見て、穏やかに言った。
「若い冒険者なら気になるだろうけど、無理に見に行くんじゃないよ」
「分かってます」
ナオが答えると、リュウも小さくうなずいた。
「昨日滑ったばっかりなので」
「滑った?」
「こっちの話です」
ナオがすぐに言うと、女性は少し笑った。
診療所を出たあと、2人はしばらく黙って歩いた。
旧道の話が、また重くなる。
見張り小屋。
魔物の通り道。
怪我人。
もう1人必要。
いろいろなものが、少しずつ同じ方向へ寄っている。
「行くなって言われると、余計気になるな」
リュウがぽつりと言った。
「分かる」
「でも行かないんだろ?」
「ああ、今は行かない」
「俺も行かない」
「本当に?」
「10割」
リュウは真面目な顔で言った。
「昨日滑ったし、ミーにも言われたし、サチにも言われたし、ガルドさんにも言われたし」
「管理されすぎだな」
「でも、たぶんその方がいい」
「そうだな」
ギルドに戻ると、ミーが受付で待っていた。
「おかえりなさいです、薬草は無事でした?」
「ああ、届けた」
ナオが確認の札を渡す。
「よかったです」
「あと、診療所で少し聞いた」
リュウが言うと、ミーの耳がぴこっと立った。
「何をですか?」
「旧道の近くで、昨日の夜に怪我人が出たらしい」
「えっ」
ミーの顔が真面目になる。
「旧道ですか?」
「たぶん」
ナオが答える。
「獣か小型魔物の傷みたいだって」
「それ、ガルドさんに伝えた方がいいです」
「そうだな」
ミーはすぐに書類を取り出した。
少し慌てていて、紙を1枚落とす。
リュウが拾って渡した。
「落ちたぞ」
「あ、ありがとうございますです」
「落ち着け」
「はい、落ち着きます」
ミーは深呼吸した。
耳がぴこぴこ動く。
「旧道の正式調査、早く出るかもしれません」
「そうか」
「でも、ナオさんとリュウさんだけで行っちゃだめですよ」
「行かない」
ナオが言う。
リュウも続けた。
「俺も行かない」
「本当ですか?」
「10割」
ミーはリュウの顔をじっと見た。
「今日は本当に10割っぽいです」
「分かるのか?」
「顔です」
「また顔か」
「はい」
ミーは少し安心したように笑った。
そのあと、リュウの方へ少し身を乗り出す。
「リュウさん、約束です」
「約束?」
「勝手に旧道行かないでください」
「分かった」
「何割じゃなくて、ちゃんと約束です」
リュウは少し驚いた顔をした。
それから、真面目にうなずいた。
「約束する」
ミーはそれを聞いて、ようやく耳を少し下げた。
「ならいいです」
ナオはそのやり取りを横で見ていた。
少しずつ、変わっている。
リュウが誰かに心配されて、その心配をちゃんと受け取っている。
少し前なら、軽く笑って流していたかもしれない。
でも今は、約束と聞いてちゃんと止まった。
これも、止まる練習なのかもしれない。
その日の依頼はそれだけで終わりにした。
報酬は少ないが、頭の中は旧道のことでいっぱいだった。
宿へ戻る途中、リュウはカジノの看板を見た。
しかし、すぐに目を逸らした。
「今日は行かない」
「言う前に言ったな」
「約束した日だからな」
「旧道とカジノは別だろ」
「でも、今日は止まる日だ」
「また止まる日か」
「たぶん大事だろ」
「ああ」
宿に戻ると、サチが入口で帳簿を見ていた。
ナオたちに気づくと、顔を上げる。
「おかえり」
「ただいま」
「今日は早いね」
「薬草を診療所に届けただけだからな」
「そうなんだ」
ナオは少し迷ったが、旧道の怪我人の話をした。
サチは静かに聞いていた。
途中で口を挟まず、最後まで聞いてから、小さく息を吐いた。
「やっぱり危ないんだね」
「ああ」
「行かないよね?」
「今は行かない」
「今は、じゃなくて、勝手には行かないよね?」
「勝手には行かない」
「リュウも?」
サチがリュウを見る。
「行かない」
「何割?」
「約束する」
リュウがそう言うと、サチは少し驚いた顔をした。
「今日はちゃんとしてる」
「ミーにも約束した」
「あー、なるほど」
「なるほどってなんだよ」
「効いてるんだなって」
サチは笑った。
リュウは少しだけ照れたように目をそらす。
「ナオも」
サチが言う。
「うん?」
「私にも約束して」
ナオはサチを見た。
「勝手に旧道へ行かない」
「ああ、約束する」
「ちゃんと準備して、ギルドの依頼で、必要な人もそろえてから」
「約束する」
サチはしばらくナオの顔を見ていた。
それから、少しだけ表情を緩める。
「ならいい」
「心配かけてるな」
「かけてるよ」
「悪い」
「悪いと思うなら、ちゃんと守って」
「守る」
サチは香り草の横に置いてある花を少し整えた。
「もう1人って話、どうなるんだろうね」
「まだ分からない」
「ミーとか?」
サチがさらっと言った。
リュウが少し咳き込んだ。
「なんでそこでミーが出るんだよ」
「受付だし、道とか依頼のこと詳しそうじゃん」
「ミーは道に迷いそうだけどな」
ナオが言うと、リュウもすぐにうなずいた。
「それはある」
「でも、リュウが案内すればいいんじゃない?」
「俺が?」
「この前、そんな話してたんじゃないの?」
「なんで知ってるんだよ」
「ミーが言ってた」
「広まるの早いな」
サチはにやっと笑った。
「私は?」
その一言で、今度はナオが少し固まった。
「え?」
「いや、言ってみただけ」
サチは軽く笑った。
「宿あるし、すぐには無理だけどね」
「そうだな」
「でも、もし本当に遠くへ行くなら、留守のこととか考えなきゃだし」
「サチ」
「何?」
「行く気、少しあるのか?」
サチはすぐには答えなかった。
少しだけ宿の中を見る。
それから、ナオを見る。
「少しね」
その言葉は、小さかった。
でも、確かにあった。
「外の話を聞いてると、少しだけ気になる」
「危ないぞ」
「分かってる」
「宿もある」
「それも分かってる」
「じゃあ」
「だから、すぐに行くって話じゃないよ」
サチは笑った。
「でも、いつかそういう選択肢があるなら、考えるくらいはしてもいいかなって」
ナオは何も言えなかった。
嬉しいような、不安なような、変な感覚だった。
サチが一緒に来る。
それは、まだ想像の中の話だ。
でも、まったくありえない話ではなくなった。
「その時は、ちゃんと守る」
ナオが言うと、サチは少し目を細めた。
「守るだけじゃなくて、私の話も聞いてね」
「ああ」
「勝手に無理しない」
「分かった」
「何割?」
「10割」
「よし」
リュウが横で小さく笑った。
「ナオも管理されてるな」
「お前ほどじゃない」
「でもかなりされてる」
「うるさい」
サチも笑った。
その夜、ナオとリュウは食堂で飯を食べた。
カジノには行かなかった。
リュウは少しだけ行きたそうだったが、ミーとの約束が効いているらしく、足は向かなかった。
「約束って効くな」
リュウが肉を食べながら言った。
「ミーとのか?」
「ああ」
「よかったな」
「茶化すなよ」
「茶化してない」
「ナオはサチとの約束か」
「ああ」
「効くだろ?」
「効くな」
2人は少し黙った。
カジノの光は、窓の外に見えている。
でも今日は、遠かった。
旧道。
見張り小屋。
怪我人。
もう1人。
そして、約束。
少しずつ、次の大きな一歩に向けて何かが集まり始めている。
ナオはそれを感じていた。
今はまだ行かない。
勝手には行かない。
でも、いつか行く。
その時は、2人だけではないかもしれない。
サチがいるかもしれない。
ミーがいるかもしれない。
まだ分からない。
けれど、この町で出会った人たちが、少しずつナオとリュウの旅の形を変え始めていた。
行くこと。
止まること。
帰ること。
そして、誰かと約束すること。
それら全部が、今の2人には必要だった。
ナオは水を飲み、静かに息を吐いた。
今日は行かない。
今日は賭けない。
今日は約束を守る。
それだけで、少しだけ前に進んだ気がした。




