12話 掲示板の地図と遠い町
次の日の朝、ナオは宿の前でサチと話していた。
空は薄く曇っている。
雨が降るほどではないが、昨日より少し涼しい。
宿の入口では、サチが古い木箱を横に寄せていた。
中には布や小さな道具が入っている。
ナオはそれを持ち上げて、入口の端へ運んだ。
「ここでいい?」
「うん、そこなら邪魔にならない」
サチは腰に手を当てて、少しだけ息を吐いた。
「助かった、これ地味に重いんだよね」
「これくらいなら大丈夫」
「ナオ、見た目通り力あるね」
「魔法は支援寄りだけどな」
「そこ自分で言うようになったじゃん」
「最近よく言われるから」
サチは笑った。
ナオは杖を壁に立てかけ、少しだけ空を見る。
リュウはまだ起きてこない。
昨日はカジノで少し勝って、そのまま宿に戻った。
大きく騒ぐほどではなかったが、リュウは部屋に戻るまでずっと機嫌がよかった。
今日の朝、ちゃんと起きるかは分からない。
「リュウ、まだ寝てる?」
サチが聞いた。
「たぶん」
「昨日勝ったんでしょ?」
「少しだけ」
「勝った次の日って、また行きたくなりそうだよね」
「たぶんなる」
「ナオは?」
「俺も、行きたくないわけじゃない」
「正直だね」
「でも、今日はギルドに行く」
「えらいじゃん」
サチは軽く笑った。
「なんかさ、ナオたち見てると、冒険者ってもっと危ないだけの仕事だと思ってたけど、意外と普通の日もあるんだね」
「俺もそう思ってた」
「魔物倒して、大金稼いで、強い人がどんどん上に行く、みたいな」
「実際はトカゲ捕まえたり、小さい魔物逃がしたり、倉庫見たりしてる」
「なんか地味」
「地味だけど、助かってる人はいる」
サチは少し目を細めた。
「そういうの、ナオっぽいね」
「そうか?」
「うん、派手なことより、そういう方をちゃんと見る感じ」
ナオは少し返事に迷った。
サチは何気なく言っている。
でも、最近のサチの言葉は、妙に胸に残る。
この世界に来てから、分からないことばかりだった。
魔法も、依頼も、カジノも。
でも、サチと話していると、少しだけ足元が見えるような気がする。
「ありがと」
ナオが言うと、サチは少しだけ首を傾げた。
「今の、お礼言うところ?」
「たぶん」
「変なの」
サチは笑った。
その時、宿の中から階段を降りる音がした。
リュウが眠そうな顔で出てくる。
髪は少し跳ねている。
でも、昨日よりは目が覚めていた。
「おはよう」
ナオが言うと、リュウは片手を上げた。
「おはよう」
「今日は遅くないな」
「勝った次の日は目覚めがいい」
「それ、危ない目覚めだな」
サチが笑った。
「リュウ、今日はギルド?」
「ギルド」
「カジノじゃなくて?」
「夜は分からない」
「正直すぎる」
「でも昼はギルド」
「ならよし」
リュウはサチに言われて、少しだけ照れたように頭をかいた。
「なんか最近、みんな俺のカジノ管理してない?」
「してる」
ナオが即答した。
「なんでだよ」
「必要だから」
「俺、そんなに信用ない?」
「8割くらい」
「残り2割は信用してくれよ」
「そこが1番危ない」
サチが吹き出した。
ナオとリュウは宿を出て、朝の屋台でパンと串焼きを買った。
最近はこの流れにも慣れてきた。
サチの宿では食事は出ない。
その代わり、近くの屋台や食堂を使うようになった。
町の食べ物を少しずつ覚えていくのも、意外と悪くない。
「今日は何の依頼にする?」
リュウが串焼きをかじりながら言った。
「掲示板見てからだな」
「そろそろ大きめのやつ来ないかな」
「来ても受けられるか分からないだろ」
「俺たち、少しは慣れてきたじゃん」
「慣れてきた時が危ない」
「ナオ、最近そればっかりだな」
「本当に危ないからな」
ギルドに着くと、いつもより人が多かった。
掲示板の前に冒険者が集まっている。
何か新しい依頼が貼られたのかもしれない。
受付の方では、ミーが背伸びをして掲示板の上の方を見ようとしていた。
耳がぴんと立っている。
「ミー」
ナオが声をかけると、ミーは振り向いた。
「あ、ナオさん、リュウさん、おはようございますです」
「おはよう」
「おはよう、ミー」
リュウが手を上げると、ミーは少し嬉しそうに笑った。
「リュウさん、昨日カジノ行きました?」
「行った」
「勝ちました?」
「勝った」
「おお、すごいです」
「しかもちゃんとやめた」
「えっ、それはもっとすごいです」
「だろ?」
リュウは胸を張った。
ミーは真面目な顔でうなずいた。
「リュウさん、止まる練習の成果ですね」
「まだその呼び方続いてるのか」
「はい、止まる練習の人です」
「やめろって」
ミーは悪気なく笑っている。
ナオは掲示板の方を見た。
「今日は混んでるな」
「新しい依頼が出たんです」
ミーが言った。
「大きい依頼?」
「大きいというか、ちょっと遠いです」
「遠い?」
ミーは掲示板の中央に貼られた依頼書を指さした。
そこには地図のようなものが付いていた。
町の周辺。
東の畑。
南の草原。
北の倉庫街。
そして、さらに西の道。
その先に、小さな村の印がある。
「隣村への荷物護衛です」
ミーが言った。
「荷物護衛?」
リュウが依頼書をのぞき込む。
「はい、商人さんが西の村まで荷物を運ぶので、道中を護衛する依頼です」
「俺たちでも受けられるのか?」
ナオが聞くと、ミーは少しだけ首を傾げた。
「一応、Fランクでも受けられます、ただ、日帰りはちょっときついかもです」
「泊まり?」
「たぶん、村で1泊して次の日に戻る感じです」
リュウの目が少し輝いた。
「町の外か」
「食いついたな」
「だって、初めてじゃないか?ちゃんと町から離れるの」
「草原には出てるけどな」
「村まで行くのは初めてだろ」
ナオは依頼書を見る。
報酬は悪くない。
ただし、道中で小型魔物や盗賊まがいの連中が出る可能性あり。
荷物は壊れ物を含む。
護衛対象は商人1人と荷車1台。
出発は明日の朝。
今日は事前確認と準備。
「明日出発か」
ナオが言う。
「今日じゃないんですね」
リュウが少し残念そうにする。
ミーはうなずいた。
「急に出ると準備不足になるので、明日の朝です」
「準備って何がいる?」
「えっと、食べ物、水、簡単な寝る用の布、あと雨具とかです」
「ちゃんとしてるな」
「はい、ミーもたまにはちゃんとしてます」
「自分で言うんだな」
「言わないと伝わらないので」
リュウが笑った。
ミーも笑う。
ナオは依頼書から目を離せなかった。
町を離れる。
隣村までとはいえ、今までとは少し違う。
この町に来て、宿に泊まり、ギルドで依頼を受け、カジノに行く。
少しずつ生活ができてきた。
でも、いつかはここを出ることになる。
その小さな練習になるかもしれない。
「受けたいか?」
ナオがリュウに聞いた。
「受けたい」
リュウは即答した。
「危険あるぞ」
「あるだろうな」
「泊まりだぞ」
「それもいいじゃん」
「カジノないかもしれないぞ」
「それは問題だな」
「そこかよ」
ミーが少し笑った。
「西の村にはカジノはないと思います」
「ないのか」
「たぶん、酒場はあります」
「酒場か」
「リュウさん、お酒飲むんですか?」
「飲む時は飲む」
「似合いそうです」
「そうか?」
「はい、なんか、かっこよく飲みそうです」
リュウは少しだけ照れたように目をそらした。
「ミー、たまに急に褒めるよな」
「思ったことを言ってるだけです」
「それが困るんだよ」
「困るんですか?」
「いや、困らないけど」
ミーはよく分かっていない顔をしていた。
ナオはそのやり取りを見ながら、少しだけ笑った。
「ミー、この依頼って他にも受ける人いる?」
「今のところ、商人さんは2人くらい護衛が欲しいみたいです、でも荷車が小さいので、大人数はいらないって言ってました」
「じゃあ、俺たちだけでも可能ってことか」
「はい、ただ、ちゃんと準備した方がいいです」
「分かった」
ナオは依頼書を持って受付へ向かった。
「これ、受ける」
「はい、じゃあ手続きしますね」
ミーが書類を用意する。
リュウはその横で、地図を見ていた。
「この道、どれくらいかかるんだ?」
「歩きと荷車だと、半日ちょっとくらいです、でも途中で休むので、夕方前に村に着くと思います」
「結構あるな」
「はい、途中に小さい森があります」
「森?」
リュウが反応した。
「はい、でも深い森じゃないです、道沿いの林みたいな感じです」
「そこで何か出るのか?」
「小さい魔物が出ることはあります、あと、たまに荷物狙いの変な人もいるらしいです」
「変な人」
「盗賊って言うほどじゃないけど、悪い人です」
「雑な説明だけど、分かる」
ミーは書類を書きながら、リュウを見た。
「リュウさん、明日は突っ込みすぎないでくださいね」
「またそれか」
「荷物護衛なので、前に行きすぎると荷物が守れません」
「それはそうだな」
「なので、止まる練習です」
「結局そこに戻るのか」
「はい」
リュウは苦笑しながらもうなずいた。
「分かったよ、明日は止まる」
「本当ですか?」
「8割くらい」
「残り2割が心配です」
「ミーまでそれ言うのか」
「ナオさんが言ってました」
「ナオ、広めるなよ」
「俺は広めてない」
手続きが終わると、ミーは依頼書の控えを渡してくれた。
「明日の朝、南西門の近くに集合です、商人さんの名前はハルムさんです」
「ハルムさん」
「はい、髭がちょっとあります」
「それ目印になるのか?」
「たぶんなります」
「ミーのたぶんは信用していいのか?」
「8割くらいです」
「リュウと同じだな」
リュウが笑った。
ナオは控えをしまい、掲示板をもう一度見た。
今日は明日の準備が必要だ。
無理に別の依頼を受けるより、装備や持ち物をそろえた方がいい。
「今日は買い物だな」
ナオが言う。
「旅の準備か」
リュウが少し嬉しそうに言った。
「隣村までだけどな」
「それでも旅っぽいだろ」
「まあな」
ギルドを出た2人は、まず道具屋へ向かった。
水袋。
保存用の硬いパン。
干し肉。
簡単な布。
火をつける道具。
小さな薬。
店主に聞きながら必要そうなものを選んでいく。
エルはそれなりに減った。
昨日カジノで少し勝っていなかったら、少し迷ったかもしれない。
「準備って金かかるな」
リュウが干し肉を見ながら言った。
「エルな」
「そうだった、エルかかるな」
「でも必要だろ」
「分かってる」
「カジノで増やそうとか思うなよ」
「まだ言ってない」
「顔が言いかけてた」
「ナオ、最近顔読むのうまくなってないか?」
「テキサスホールデムのおかげかもな」
「カジノも役に立つな」
「そういう方向に持っていくな」
道具を買ったあと、2人は武器屋にも寄った。
リュウは剣の手入れ用の油を買い、ナオは杖の先につける布を買った。
魔法のために必要かは分からない。
ただ、杖を傷めないためにはあった方がいいと店主に言われた。
昼過ぎ、2人は宿へ戻った。
サチは入口で帳簿のようなものを見ていた。
ナオたちが大きめの荷物を持っているのを見て、目を丸くする。
「なに、その荷物」
「明日、隣村まで護衛依頼に行く」
ナオが言うと、サチの表情が少し変わった。
「隣村?」
「西の方にある村だって」
「泊まり?」
「たぶん1泊」
「そっか」
サチは少しだけ黙った。
リュウが横から軽く言う。
「そんな大げさなやつじゃないよ、荷車の護衛」
「でも町の外でしょ?」
「まあ、そうだな」
「魔物とか出るんじゃないの?」
「小さいのは出るかも」
「それ、普通に危ないじゃん」
サチの声はいつもより少し低かった。
リュウは一瞬、言葉を止めた。
ナオはサチの方を見る。
「無理はしない」
「それはいつも言ってる」
「今回は荷物を守る依頼だから、前に出すぎるようなことはしない」
「リュウは?」
「リュウも、たぶん」
「そこはたぶんなんだ」
サチがリュウを見る。
リュウは少し背筋を伸ばした。
「今回はちゃんと止まる、ギルドでも言われたし」
「本当に?」
「8割……いや、10割」
「今言い直したよね」
「でも10割」
サチは少しだけ笑った。
でも、完全に安心した顔ではなかった。
ナオは荷物を置いて、サチの近くに立つ。
「明日の朝出て、次の日には戻る予定だ」
「予定でしょ?」
「そうだな」
「こういう時、待つ側って嫌だね」
サチはぽつりと言った。
ナオは少し黙った。
その言葉は軽く聞こえなかった。
サチは宿にいる。
ナオたちは外へ出る。
依頼を受けて、町の外に行く。
それは冒険者として普通のことかもしれない。
でも、待つ側には待つ側の時間がある。
ナオはそれを、ちゃんと考えていなかった。
「心配させてるな」
ナオが言うと、サチは少し驚いたように目を上げた。
「まあ、そりゃするよ」
「ちゃんと帰ってくる」
「そういうの、軽く言うと逆に不安になる」
「じゃあ、軽く言わない」
ナオは少しだけ姿勢を正した。
「ちゃんと準備して、無理はしないで、危ないと思ったら引く、荷物より命を優先する、それで帰ってくる」
サチはしばらくナオを見ていた。
それから、少しだけ息を吐く。
「うん、それならいい」
「いいのか?」
「少しだけね」
「少しだけか」
「全部は安心できないよ」
「それはそうだな」
サチは荷物の中をちらっと見た。
「食べ物、足りる?」
「一応買った」
「見せて」
ナオが袋を開けると、サチは中を確認した。
硬いパン。
干し肉。
水袋。
簡単な布。
サチは眉を寄せる。
「これ、少なくない?」
「そうか?」
「リュウがいるんだよ?」
「どういう意味だよ」
リュウがすぐに反応した。
「食べるじゃん」
「まあ食べるけど」
「じゃあ足りない」
サチは宿の奥に一度戻り、小さな布袋を持ってきた。
中には干した果物と、固めの焼き菓子のようなものが入っている。
「これは?」
ナオが聞く。
「もらい物、宿の食事用じゃないから大丈夫、非常食に持っていきなよ」
「いいのか?」
「いいよ、どうせ私ひとりじゃ食べきれないし」
「ありがとう」
ナオが受け取ると、サチは少しだけ目をそらした。
「別に、帰りが遅くなって腹減ったとか言われても困るし」
「助かる」
「リュウ、全部食べちゃダメだからね」
「分かってる」
「何割?」
「……10割」
「今の間が怪しい」
サチは笑った。
その笑いで、少しだけ空気が軽くなった。
リュウは荷物を持って部屋に上がっていった。
ナオも行こうとしたが、サチに呼び止められる。
「ナオ」
「ん?」
「明日、出る前に声かけて」
「朝早いぞ」
「起きてると思う」
「分かった」
サチは少しだけ真面目な顔でうなずいた。
「ちゃんと見送る」
「ありがとう」
「それで、ちゃんと帰ってきて」
「ああ」
ナオは短く答えた。
それ以上言うと、軽くなってしまいそうだった。
夕方、2人は近くの食堂で飯を食べた。
リュウは肉を食べながら、明日の話で少し楽しそうだった。
「町を出るってだけで、なんか冒険っぽいな」
「今までも冒険者だったけどな」
「そうだけど、町の近くばっかりだったじゃん」
「最初はそれくらいでいいだろ」
「でもさ、こういうのを繰り返して、いつか別の町に行くんだろうな」
リュウは少し遠くを見るような顔をした。
「別の町に行ったら、カジノも違うのかな」
「結局それか」
「いや、ギルドも違うだろうし、宿も違うだろうし、飯も違うだろうし」
「カジノが最初に来たけどな」
「それはまあ、重要だから」
ナオは少し笑った。
「でも、そうだな、いつかはこの町を出るんだろうな」
「サチはどうするんだろうな」
リュウが何気なく言った。
ナオの手が少し止まる。
「どうって?」
「いや、別に深い意味じゃないけど、ナオ、最近よく話してるじゃん」
「宿にいるからだろ」
「それだけ?」
「それだけだ」
「ふーん」
「その顔やめろ」
リュウはにやっと笑った。
「ミーとはよく話してるよな」
ナオが返すと、リュウの顔が少しだけ変わった。
「ミーはギルドにいるからだろ」
「同じ理由だな」
「そうだな」
「ふーん」
「やり返すな」
2人は少し黙ったあと、同時に笑った。
まだ、何かが始まっているわけではない。
でも、少しずつ距離は変わっている。
ナオはそれを、なんとなく感じていた。
夜、宿に戻ると、サチはまだ入口近くにいた。
客の対応を終えたばかりらしく、少し疲れた顔をしている。
「おかえり」
「ただいま」
「明日の準備は?」
「だいたい終わった」
「忘れ物しないでよ」
「リュウに言ってくれ」
「リュウには3回言う」
「俺には?」
「2回かな」
「そこまで信用ないか」
「心配だから」
サチは少し笑った。
ナオはその顔を見て、明日ちゃんと帰ってこようと思った。
当たり前のことだ。
でも、当たり前をちゃんと守るのは、たぶん簡単ではない。
「明日、出る前に声かける」
「うん」
「早いから、無理に起きなくてもいいぞ」
「起きるって言ったじゃん」
「そうだった」
「ナオ、たまにそういうとこあるよね」
「どういうとこ?」
「気を使ってるようで、逆に人の気持ち無視するところ」
ナオは少し固まった。
サチは慌てて手を振る。
「あ、悪い意味じゃなくてね」
「いや、たぶん当たってる」
「そう?」
「待つ側が嫌だっていうのも、今日言われるまでちゃんと考えてなかった」
サチは少し黙った。
「まあ、私も冒険者のこと全部分かってるわけじゃないし」
「俺も待つ側のこと、分かってない」
「じゃあ、お互い分かってないね」
「そうだな」
「なら、ちょうどいいじゃん」
サチは笑った。
「少しずつ分かれば」
その言葉に、ナオはうなずいた。
「そうする」
「うん」
部屋に戻る前、ナオはもう一度荷物を確認した。
水。
食べ物。
布。
薬。
杖。
サチにもらった袋。
全部ある。
隣の部屋からは、リュウが荷物をがさがさ動かす音が聞こえた。
「リュウ、忘れ物するなよ」
ナオが壁越しに言うと、すぐ返事が来た。
「分かってる」
「食べ物全部今食うなよ」
「食わねぇよ」
「何割?」
「10割!」
少し間があった。
「いや、9割!」
「減ったぞ」
「正直に言い直した」
ナオは笑った。
明日は初めての護衛依頼。
町の外。
隣村。
小さな旅。
大きな冒険ではない。
でも、今の2人には十分な一歩だった。
ナオはベッドに横になり、天井を見上げた。
サチの言葉が残っている。
ちゃんと帰ってきて。
その言葉が、ただの約束より重く感じた。
明日はきっと、いつもとは違う1日になる。
そう思いながら、ナオは静かに目を閉じた。




