10章 魔法の先生と夜の誘惑
次の日、ナオとリュウはギルドへ向かっていた。
昨日は小屋に入り込んだ小さな魔物を捕まえて、町の外へ逃がした。
倒すだけじゃない依頼。
それはそれで、少し新鮮だった。
ただ、ナオの中には別の引っかかりも残っていた。
魔法だ。
杖を持って、魔力を流す。
そうすると、何となく光が出る。
リュウの体が軽くなる。
魔物の動きが少し鈍る。
でも、ナオはそれが何なのか分かっていない。
名前も知らない。
仕組みも知らない。
使えているのに、分かっていない。
異世界から来たのだから当たり前だけど、それが少し気持ち悪かった。
「今日は魔法のこと聞くんだっけ?」
リュウが隣で言った。
「ああ」
「俺も強化してもらう側だから、ちゃんと覚えてもらわないとな」
「人任せだな」
「ナオが魔法で、俺が剣、役割分担だろ」
「まあ、そうだけど」
リュウは腰の剣に手を置いた。
歩きながらでも、足取りは軽い。
昨日の小屋の中でも思ったが、リュウは狭い場所でもかなり動ける。
勢いで突っ込む癖はある。
でも、それだけじゃない。
反応が速い。
体の使い方も上手い。
ナオの支援がなくても、リュウは普通に速い。
そこに支援をかければ、もっと速くなる。
問題は、リュウが調子に乗ることだった。
「支援かけても、突っ込みすぎるなよ」
「分かってるって」
「その言葉、昨日も一昨日も聞いた」
「今日は本当に分かってる」
「何割?」
「8割」
「また8か」
「ラッキー数字だからな」
ナオは少し笑った。
ギルドに着くと、朝からかなり混んでいた。
冒険者たちが掲示板の前で依頼を見ている。
受付の方では、ミーが何かを探していた。
机の上に何枚も紙を広げて、耳をぴこぴこ動かしている。
「ミー」
ナオが声をかけると、ミーは顔を上げた。
「あ、ナオさん、リュウさん、おはようございますです」
「おはよう」
「おはよう、ミー」
リュウが手を上げる。
ミーはにこっと笑ったあと、急に真面目な顔になった。
「昨日言ってた魔法に詳しい人、今日いました」
「本当か?」
「はい、忘れませんでした」
「えらい」
「えへへ、忘れなかったのでえらいです」
ミーは胸を張った。
リュウが小さく笑う。
「自分で言うんだな」
「言った方が分かりやすいです」
「まあ、たしかに」
ミーは受付の奥を指さした。
「奥の訓練場にいます、ギルドの魔法講師みたいな人です、正式には講師じゃないかもですけど、魔法を教えるのがうまい人です」
「どっちなんだよ」
「えっと、教えるのがうまいおじさんです」
「急に雑だな」
ナオは苦笑した。
「会える?」
「はい、私が案内します」
ミーはそう言って歩き出した。
途中で足元にあった木箱に軽くつまずく。
「おっと」
「大丈夫か?」
「大丈夫です、今のは床が動きました」
「動いてない」
「じゃあ私が動きました」
「それはそうだな」
リュウが笑う。
ミーは少し恥ずかしそうに耳を下げた。
ギルドの奥には、思ったより広い訓練場があった。
床は土になっていて、壁際には木の的や訓練用の武器が並んでいる。
その端に、灰色のローブを着た男が立っていた。
年齢は40代くらいに見える。
短い髪に、眠そうな目。
でも、立っているだけで少し不思議な圧があった。
「ガルドさん、連れてきました」
ミーが言うと、男はゆっくりこちらを向いた。
「おう、魔法がよく分かってないってやつか」
「はい、この人です」
ミーがナオを指さす。
「俺か」
ナオは少し前に出た。
「ナオです」
「ガルドだ、こっちは?」
「リュウです」
「剣士か」
「はい」
ガルドはリュウを見て、すぐにうなずいた。
「動けそうだな」
「ありがとうございます」
「ただ、調子に乗りそうな顔してる」
「そこまで分かるんですか」
「顔に書いてある」
リュウは少しだけ顔をしかめた。
ナオは笑いをこらえた。
ガルドはナオの杖を見る。
「で、魔法名も分からずに使ってるんだったな」
「ああ、なんとなく出してる」
「なんとなくで出るなら、素質はある」
「そうなのか?」
「ないやつは、なんとなくでも出ない」
ガルドは訓練場の中央に立った。
「まず、いつも通りやってみろ、攻撃でも支援でもいい」
ナオは杖を握った。
いつも通り。
そう言われると、少しやりづらい。
普段は戦いの中で必死に出している。
今みたいに見られている状態で出すのは、少し変な感じだった。
「的を狙ってみろ」
ガルドが木の的を指さす。
ナオは杖を向けた。
魔力を流す。
光が集まる感覚。
名前は分からない。
ただ、前に飛ばす。
「はぁぁっ!」
杖の先から光の弾が飛んだ。
光は木の的に当たり、軽い音を立てる。
的が少し揺れた。
「悪くない」
ガルドが言った。
「でも、力がばらけてる」
「ばらけてる?」
「お前は力を出そうとしてるだけだ、形を決めてない」
「形?」
「水を投げるのと、石を投げるのは違うだろ」
「それは分かる」
「今のお前は、魔力を水のまま投げてる」
ナオは杖を見た。
分かるようで、分からない。
でも、何となく言いたいことは伝わる。
「もう1回だ、今度は小さく固めるつもりで出せ」
「小さく固める」
「そうだ、でかくしなくていい、強くしようとするな、まとまれば勝手に強くなる」
ナオはもう一度杖を向けた。
息を整える。
魔力を集める。
今度は広げない。
小さく。
丸く。
固める。
「うぉっ!」
光の弾が飛んだ。
さっきより小さい。
でも速い。
的に当たる音も、さっきより鋭かった。
「おっ」
リュウが声を上げる。
「今の強くないか?」
「さっきよりいい」
ガルドがうなずいた。
「名前はあとでいい、まずは感覚を覚えろ」
「名前はあとでいいのか?」
「名前を知ったから使えるわけじゃない、使えるものに名前を付ける方が先だ」
その言葉は、少しだけナオにしっくりきた。
この世界に来てから、分からないまま進んでいる。
でも、分からないから止まるわけにもいかない。
使えるものを使いながら、少しずつ知ればいい。
「支援も見せてみろ」
ガルドが言う。
「リュウにかけるのか?」
「剣士なんだろ、ちょうどいい」
「俺、的か?」
「動け」
「的より大変だな」
リュウは訓練場の中央に立った。
軽く足を動かして、準備する。
ナオは杖を向けた。
リュウの体を軽くする感じ。
足元に風を通すような感じ。
押すのではなく、邪魔なものを減らす。
「はぁぁっ!」
淡い光がリュウの足元に広がった。
リュウが軽く跳ねる。
「お、来た」
「走ってみろ」
ガルドが言う。
リュウは地面を蹴った。
一瞬で前に出る。
速い。
ただ、次の瞬間、少し勢いがつきすぎた。
「うおっ」
リュウが止まりきれず、木の的の前で片足を滑らせる。
なんとか転ばずに持ちこたえた。
「危なっ」
ミーが思わず声を出した。
「リュウさん、今ちょっとかっこ悪かったです」
「言うな」
「でも転ばなかったので、半分かっこよかったです」
「半分かよ」
ガルドは腕を組んでいた。
「支援は強すぎる」
「強すぎる?」
「相手の動きに合ってない、リュウは元々速い、そこに雑に上乗せすると制御しづらくなる」
「あー、それはあるかも」
リュウが足を動かしながら言った。
「軽くなるのはいいんだけど、思ったより前に出る」
「じゃあ、弱めればいいのか?」
ナオが聞くと、ガルドは首を横に振った。
「弱めるんじゃない、合わせるんだ」
「合わせる」
「支援魔法は押しつけるな、相手の動きの邪魔を消せ」
ナオは少し黙った。
相手の動きの邪魔を消す。
リュウの体を速くするのではなく、リュウが本来動きたい方向に、余計な重さをなくす。
ナオはリュウを見た。
「もう1回いいか?」
「もちろん」
リュウは笑った。
「今度は転ばない」
「転ぶなよ」
ナオは杖を構える。
魔力を流す。
さっきより押さない。
リュウの足元を見る。
呼吸を見る。
地面を蹴る前の、ほんの少しの沈み込み。
そこに合わせる。
「うぉー」
淡い光がリュウを包んだ。
さっきより弱く見える。
でも、形は安定していた。
「行くぞ」
リュウが地面を蹴る。
速い。
でも、さっきより自然だった。
リュウは的の横を抜け、軽く回り込む。
止まり方もきれいだった。
「おお」
リュウが自分の足を見た。
「今のいい、すげぇ動きやすい」
「本当か?」
「本当、体が軽いっていうより、邪魔がない感じ」
ガルドがうなずいた。
「それだ」
ナオは少しだけ息を吐いた。
今の感覚。
忘れないようにしたい。
ただ強くするだけじゃない。
……合わせる。
リュウの動きに合わせる。
たぶん、それが大事だ。
「ナオさん、すごいです」
ミーが目を輝かせて言った。
「支援向きだな、お前」
「そうなのか?」
「ああ、体は前衛みたいなのに、魔力の使い方は後ろから支える方が合ってる」
「見た目と違うってよく言われる」
「悪いことじゃない、見た目で相手が勘違いするなら、それも武器だ」
ナオは自分の腕を見る。
たしかに体は大きい。
元の世界でも、細い方ではなかった。
この世界では、杖を持っていても、前に出そうに見えるのかもしれない。
でも実際は、魔法で攻撃したり、リュウを支えたりする方がしっくりきた。
「じゃあ、俺はリュウの後ろから支える感じか」
「今はそれでいい」
ガルドはリュウを見る。
「お前は速い、だが速いやつほど戻ることを覚えろ」
「戻る?」
「突っ込むだけなら魔物でもできる、斬って、戻って、また斬る、それができるやつは長く生きる」
リュウは少し真面目な顔になった。
「分かりました」
「本当に分かってるか?」
「8割くらい」
「残り2割で死ぬなよ」
「急に怖いですね」
「冒険者だからな」
ガルドはさらっと言った。
訓練はしばらく続いた。
ナオは光の弾を何度か的に当てた。
リュウに支援をかける練習もした。
最初よりも、少しずつ感覚がつかめてきた。
リュウも支援を受けた状態で動く練習をした。
速く動く。
止まる。
戻る。
切り返す。
剣を抜いて、的に軽く当てる。
勢いだけではなく、ちゃんと制御する。
それが意外と難しいらしく、リュウは何度か首をひねっていた。
「速くなるだけなら簡単なんだけどな」
「止まる方が難しいだろ」
ナオが言うと、リュウはうなずいた。
「ブレイブマンもそうだな」
「なんでそこでスロットが出る」
「回すのは簡単、やめるのが難しい」
「急にいいこと言うな」
「だろ?」
ミーが横で首を傾げた。
「えっと、つまり、リュウさんは止まる練習が必要なんですね」
「戦闘もスロットもな」
ナオが言うと、ミーは納得したように手を打った。
「なるほどです、リュウさんは止まる練習の人です」
「変なまとめ方するな」
昼前になる頃には、ナオも少し疲れていた。
魔力を使うと、体とは別のところが重くなる。
筋肉痛ではない。
頭の奥がじんわりする感じだった。
ガルドはそれを見て、手を叩いた。
「今日はここまでだ」
「もう終わりですか?」
リュウが聞く。
「ああ、魔力は使いすぎると感覚が鈍る、疲れた状態で変な癖をつけるな」
「分かりました」
ナオは杖を下ろした。
「ありがとうございました」
「また来い、金は取らんが、たまにギルドの雑用は手伝え」
「それは取ってるのと同じじゃないですか?」
リュウが言うと、ガルドは笑った。
「気づいたか」
「気づきますよ」
「まあ、今日はいい、ミー、報酬代わりにこいつらに何か軽い依頼を回してやれ」
「はい、軽い依頼ですね」
ミーはうなずいた。
そして少し考えた。
「軽い依頼……軽い依頼……あ、荷物が軽い依頼ですか?」
「違う」
ガルドが即答した。
「危険度が低い依頼だ」
「あ、そっちですね」
「そっち以外あるのか」
ミーは笑ってごまかした。
訓練場を出て受付に戻ると、ミーが掲示板から1枚の依頼書を取ってきた。
「これが良さそうです、町の西側にある倉庫の見回りです」
「見回り?」
ナオは依頼書を読む。
最近、倉庫の周りで小さな物音がする。
魔物か野良動物か分からない。
夕方前に確認してほしい。
危険度は低い。
報酬も低い。
ただし、短時間で終わる。
「本当に軽いな」
「はい、軽いです、たぶん」
「そのたぶんが怖い」
リュウが言う。
ミーは真面目な顔でうなずいた。
「でも、倉庫なので、たぶん重い荷物はあります」
「軽い依頼じゃなかったのかよ」
「依頼は軽いです、荷物は重いかもです」
「ややこしいな」
ナオは少し笑った。
訓練の後に大きな討伐はきつい。
見回りくらいならちょうどいい。
「これにしよう」
「だな、訓練の後だし」
リュウも賛成した。
2人は依頼を受け、ギルドを出た。
外に出ると、昼の町はかなりにぎわっていた。
屋台から匂いが流れてくる。
食堂の前には冒険者が何人か並んでいる。
ナオの腹が小さく鳴った。
「先に飯だな」
リュウがすぐに言った。
「聞こえたか?」
「聞こえた」
「じゃあ仕方ない」
「肉でいいか?」
「結局肉か」
2人は屋台で肉入りのパンを買った。
通りの端で食べながら、リュウは訓練の話を続けていた。
「さっきの支援、かなり良かったな」
「俺も少し分かった気がする」
「今までのは何だったんだ?」
「力任せだったんだろうな」
「ナオが力任せって、見た目通りじゃん」
「魔法くらい繊細にいきたい」
「ゴツい繊細」
「うるさい」
リュウは笑った。
ナオも笑う。
こうして笑いながら歩いていると、異世界に来たことを少し忘れそうになる。
でも、腰の剣と手の杖を見ると、やっぱりここは元の世界ではない。
倉庫は町の西側にあった。
大きな建物がいくつか並び、荷車が置かれている。
依頼主の男から話を聞くと、夜ではなく昼でもたまに物音がするらしい。
「中に何かいるかもしれん、でも大きな魔物なら扉が壊れてるはずだ、小さいやつだと思う」
「分かりました」
ナオはうなずいた。
リュウは剣に手を置く。
「小さいやつ、多いな」
「最近そういう依頼ばっかりだな」
「次は大きいの来るかもな」
「変なこと言うな」
倉庫の中は薄暗かった。
木箱と袋が積まれている。
少し埃っぽい。
足音が響く。
ナオは杖を構えた。
リュウは前に出すぎないように、少しだけ距離を取って歩いている。
さっきの訓練が効いているのかもしれない。
「ちゃんと戻る練習してるな」
ナオが小声で言うと、リュウも小声で返した。
「俺は成長する男だからな」
「今だけじゃないことを祈る」
その時、奥の木箱の陰から、かさっと音がした。
2人は同時に止まる。
「いるな」
リュウが言う。
「焦るなよ」
「分かってる」
ナオは杖を向ける。
奥の暗がりで、何か小さな影が動いた。
昨日の魔物とは違う。
もっと丸い。
もこもこしている。
「なんだあれ」
リュウが目を細める。
影が木箱の上に乗った。
小さな丸い体。
長い耳。
そして、口には干し肉のようなものをくわえていた。
「また盗んでるな」
「魔物って盗むの好きなのか?」
「分からない」
その小さな魔物は、こちらを見るとぴたりと止まった。
しばらく見つめ合う。
次の瞬間、魔物は干し肉をくわえたまま走り出した。
「逃げた!」
リュウが動く。
でも、今度は突っ込みすぎなかった。
木箱を回り込み、逃げ道をふさぐ。
ナオは杖を向ける。
今日練習した感覚を思い出す。
押しつけない。
狭める。
逃げる方向を少しだけ変える。
「はぁぁっ」
淡い光が床を走る。
魔物は驚いて方向を変えた。
そこにリュウが布袋を広げる。
「こっちだ!」
魔物が袋の手前で跳ねる。
だが、リュウは前に出すぎず、半歩だけ引いた。
魔物の動きに合わせる。
そして、すっと袋をかぶせた。
「よし!」
袋の中で、もこもこしたものが暴れている。
「今の良かったな」
ナオが言うと、リュウは得意げに笑った。
「戻る練習が効いた」
「本当に成長してるな」
「だろ?」
袋の中を確認すると、魔物は丸い体で干し肉を抱えていた。
こちらを見て、むぐむぐしている。
「食ってるぞ」
「捕まってるのに?」
「根性あるな」
ナオは少し笑った。
依頼主に確認すると、その魔物は倉庫に入り込む小型の害獣らしい。
大きな危険はないが、食べ物を盗むので困っていたようだ。
町の外に逃がしてほしいと言われ、2人はまた袋を持って外へ向かった。
「最近、逃がす依頼多いな」
リュウが言う。
「倒さないで済むなら、その方がいいだろ」
「まあな」
「魔物もいろいろいるんだな」
「食い意地あるやつとかな」
袋の中から、もぞもぞと音がする。
どうやらまだ干し肉を食べているらしい。
「こいつ、今も食ってるぞ」
「大物だな」
町の外れで袋を開けると、小さな魔物は干し肉をくわえたまま顔を出した。
ナオとリュウを見る。
そして、何事もなかったように草むらへ走っていった。
「干し肉持っていったぞ」
「まあ、1個くらいはいいだろ」
「依頼主には?」
「戻ったら言う」
「怒られるかな」
「たぶん笑うだろ」
ギルドへ戻る頃には、夕方になっていた。
ミーは受付で待っていた。
「あ、おかえりなさいです、どうでした?」
「捕まえて逃がした」
ナオが言う。
「干し肉を1個持っていかれたけどな」
リュウが付け足すと、ミーは真剣な顔になった。
「それは大変です、干し肉はおいしいですから」
「そこ?」
「はい、干し肉は大事です」
「ミーは食べ物に反応するな」
「お腹空いてると反応します」
「今空いてるのか?」
「少し」
ミーは恥ずかしそうに笑った。
報告を終えて、報酬を受け取る。
今日は訓練もして、軽い依頼もこなした。
大きく稼いだわけではない。
でも、身になった1日だった。
「ナオさん、今日の魔法、いい感じでしたね」
ミーが言った。
「少しだけ分かってきた」
「ナオは支える感じが似合います」
「見た目は支えられる側っぽいけどな」
リュウが言う。
「リュウさんは、支えられたらすごく速くなる感じです」
「それは合ってる」
「でも、止まる練習の人です」
「その呼び方やめろ」
ミーはにこにこしていた。
ギルドを出ると、夕方の町にはカジノの看板が光り始めていた。
リュウはちらっと見る。
ナオも見る。
昨日よりも、少しだけその光が強く見えた。
「今日は?」
リュウが聞いた。
「訓練もしたし、依頼もした」
「つまり?」
「少しだけなら」
リュウの顔が明るくなる。
「マジで?」
「少しだけだぞ」
「分かってる」
「今日は8割じゃなくて、10割で分かってくれ」
「10割分かってる」
「信用していいんだな?」
「8割くらい」
「減ったな」
リュウは笑った。
ナオも笑った。
2人はカジノの方へ歩き出す。
今日は大勝負をするつもりはない。
少しだけ遊ぶ。
少しだけ勝つか、少しだけ負ける。
働いたあとに、少しだけ賭ける。
それくらいなら、今の2人には悪くない。
カジノの入口から、光と音が漏れていた。
リュウはブレイブマンの島を見て、もう少しだけ足が速くなる。
「走るなよ」
ナオが言う。
「走ってない」
「ほぼ走ってる」
「気持ちは走ってる」
「気持ちだけにしとけ」
リュウは笑いながら中へ入った。
ナオもその後に続く。
杖を持つ手に、少しだけ力が入る。
魔法の感覚も、カジノの感覚も、まだ分からないことだらけだ。
でも、少しずつ覚えていけばいい。
勝ち方も。
負け方も。
この世界で生きる方法も。




