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盾の少女は世界を救わない 〜攻撃できない盾魔法の少女、子どもの誘拐事件から国家の闇を暴く  作者: まるい そら


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第38話 作るだけじゃ、足りない

本日からまた投稿開始します!お待たせしました!

視察は、昼前には終わった。


建物を出ると、さっきよりも少しだけ空気が軽く感じる。


それでも――


胸の奥に、何かが残っていた。


「……腹減ったな」


ラーラが肩を回しながら言う。


ルークも短く頷く。


「昼にするか」


レオンが一歩前に出る。


「この近くに、評判の店があります」


「この都市ならではの料理を出す店です」


ラーラが口の端を上げる。


「へぇ、いいじゃねぇか」


「行こう」


私は頷いた。


案内された店は、通りの中でも人の流れが少しだけ緩やかな場所にあった。


扉を開けた瞬間、熱が押し寄せる。


鉄の焼ける匂い。


油の弾ける音。


店内は、横一列の席になっていた。


目の前には、大きな鉄板。


その向こうに、料理人が立っている。


レオンが一番左に座り、その隣に私。


さらにルーク、そして一番右にラーラが腰を下ろす。


自然と、いつもの並びになる。


「こういうお店で食べるの、私初めて」


ワクワクとした気持ちで私が呟くと、


ルークとラーラがも同意する。


すぐ目の前で、野菜が焼かれ始め、じゅ、と音が立つ。


火が跳ね、手際よくひっくり返されていく。


皿に盛られたそれを、私はそのまま口に運ぶ。


「……っ」


思わず、手が止まる。


「……え」


もう一口。


噛む。


甘い。


いつも食べてる野菜なのに、全然味が違う。


「……なにこれ」


思わず漏れる。


ラーラが小さく笑う。


「うまっ」


ルークはあまりの美味しさに絶句する。


私は野菜を見つめる。


「……野菜なんて、何で焼いても同じだと思ってた」


ぽつりとこぼすと、レオンが静かに言う。


「この都市は、素材より加工と工程を重視します」


「火加減と順序で、結果が変わります」


私はもう一度、皿を見る。


「……同じ野菜でも、こんなに変わるんだね」


「……魔道具も?」


ラーラがちらっとこちらを見る。


鉄板の音だけが続く。


レオンはすぐには答えなかった。


「……どういう意味ですか」


私は少しだけ考える。


言葉を選ぶ。


「見た目が同じでも」


「中の仕組みが違えば、別のものになるのかなって」


レオンはわずかに視線を落とす。


「……なります」


「魔道具は特に顕著です」


私は小さく息を吐く。


「……もっと詳しく知りたい」


レオンの方へ視線を向ける。


「魔道具のこと」


「この街に、誰か詳しい人がいるか知らない?」


一瞬の間。


レオンは短く頷いた。


「います」


「もともと少しだけ国関係にも関わっていた技師を知っています」


ラーラがすぐに反応する。


「……ていうかさ」


少し身を乗り出す。


「レオンは、なんでそんな色々知ってんの?」


レオンは視線を前に戻したまま答える。


「一応」


短く区切る。


「アイリー殿の手助けをする上で必要と思われることは、事前に調べております。それも私の役目です。」


ラーラが呆れたように笑う。


「……用意良すぎだろ」


ルークが小さく息を吐く。


「めっちゃ助かってるけどな」


私は少しだけ笑う。


「ありがとう、レオン」


レオンは何も言わず、わずかに頷いた。


「行くんだろ」


ルークが言う。


私は迷わず頷く。


「うん」


鉄板の上で、肉が強く焼ける音が響く。


さっきと同じはずの光景。


でも――


ほんの少しだけ、見え方が変わっていた。


♦︎


店を出ると、外の空気は少しだけ冷たかった。


さっきまでの熱が、まだ肌に残っている。


「どこにいるの?」


レオンに聞く。


「街の外れです」


「個人工房を構えています」


歩き出す。


中心から離れるにつれて、人の数が減っていく。


建物も、少しずつ古くなる。


やがて、通りの音が遠くなった。


「この辺りか」


ルークが周囲を見る。


レオンが足を止める。


「ここです」


目の前には、古びた扉。


中から、わずかに焦げたような匂いが漂ってくる。


金属の擦れる音が、かすかに聞こえた。


レオンは一歩前に出る。


軽く呼吸を整え――


扉を、二度ノックした。


コン、コン。


音が、静かに響く。


「……失礼します」


落ち着いた声で続ける。


「魔導技師のヘインさんの工房で間違いないでしょうか」


少しの間。


中の音が止まる。


やがて、低い声が返ってきた。


「……そうだ」


レオンは続ける。


「突然の訪問、失礼いたします」


「私は王都より派遣されている者で、こちらは――」


一瞬だけ、こちらを見る。


私は一歩前に出る。


「アイリーです」


短く、でもはっきりと。


「王子直属の養育視察官として、この都市に来ています」


空気が、わずかに変わる。


中の気配が動いた。


数秒の沈黙。


それから――


「……入れ」


短い許可。


レオンが扉に手をかける。


ゆっくりと開く。


きぃ、と小さな音。


中に足を踏み入れる。


散らばる道具。


積み上げられた部品。


整ってはいない。


でも――


一つ一つの精度だけは、はっきりと伝わってくる。


奥に、人影。


こちらを見ている。


鋭い目。


無精髭。


手には、工具が握られたままだった。


「俺が……ヘインだ」


低く名乗る。


そのまま、視線が私に止まる。


じっと、測るように。


一拍。


「……で」


わずかに顎を上げる。


「お前は誰だ」


さっき聞いたはずなのに、あえて聞く。


試すような声だった。


私は一歩、前に出る。


視線を逸らさず、そのまま答える。


「アイリーです。王子直属の養育視察官として、この都市に来ています」


間を置かずに続ける。


「今日は、魔道具についてお話を伺いたくて来ました」


ヘインは何も言わない。


ただ、じっとこちらを見る。


測るように。


沈黙が、数秒続く。


やがて――


「……そうか」


短く、それだけ。


興味があるのかないのか、分からない声。


視線が少しだけ外れる。


「で」


工具を軽く持ち替える。


「何を聞きたい」


私は一瞬だけ考える。


言葉を選ぶ。


「個人を識別する魔道具について、知りたいです」


その瞬間。


空気が、わずかに変わった。


ヘインの手が止まり、すぐに動く。


「……識別か」


低く、落ちる声。


「作るだけならできるな」


あっさりと言う。


私は一歩踏み込む。


「人に紐づけることは?」


ヘインは視線だけこちらに戻す。


「……やったな」


小さく吐くように言う。


「昔、な」


「でも、無理だった」


はっきりと。


それだけを言い切る。


私は何も言わず、待つ。


ヘインが続けるのを。


「形は作れる」


「動きも、それなりに」


工具を置く。


カン、と小さな音。


「でもな」


「俺には無理だった」


静かに言う。


私は眉を寄せる。


「……無理?」


ヘインは肩をすくめる。


「やり込む技術が足りなかったらしい」


「そこから先が、どうしても届かなかった」


短く区切る。


「仕組みは見える。だが、再現できねぇ」


私は言葉を失う。


この都市でも指折りの腕を持つヘインほどの技術者が、そこまで言う。


「……じゃあ、あれは」


「国の連中の、魔導管理官だな」


ルークが低く聞く。


「それはなんだ?」


ヘインは少しだけ考える。


それから、短く言う。


「簡単に言えば――」


一拍。


「“人を扱える”奴らだ」


ラーラが眉をひそめる。


「全部?」


「道具を作るのもだな」


工具を軽く持ち上げる。


「こういう魔道具は作れる」


「火を出す、光らせる、動かす――それくらいなら、俺でもできる」


一拍。


「でもな」


少しだけ視線を上げる。


「“誰が使ってるか”までは分からねぇ」


ルークが眉を寄せる。


「……どういうことだ」


「例えばだ」


ヘインは近くの金属片を指で弾く。


カン、と音が鳴る。


「この道具を誰が持ってるか」


「どこにいるか」


「何をしたか」


「そういうのを記録して、管理する仕組みは――作れねぇ」


ラーラが鼻で笑う。


「監視かよ」


「そうだな」


ヘインはあっさり言う。


「道具単体なら作れる」


「でも、“人に紐づけて管理する仕組み”は別だ」


レオンが静かに補足する。


「それを担うのが、魔導管理官です」


「識別・記録・監視を一括で扱う」


ヘインが続ける。


「俺たちは“物”しか扱えねぇ」


「向こうは、“人ごと”扱う」


ルークが低く聞く。


「……違いはそこか」


「そこだな」


ヘインは即答する。


「だから、同じ技術でも届かねぇ」


静かに落とす。


「領域が違う」


沈黙が落ちる。


私はゆっくりと息を吐く。


頭の中で、形が整っていく。


「……作れないわけじゃない」


小さく呟く。


「でも――届かない」


ヘインは何も言わない。


ただ、それを否定もしなかった。


私は視線を落とす。


そして私たちは外に出た。


空気は軽いが、胸は重い。


「……作れないわけじゃない」


「でも、違う」


一歩、進む。


「一つじゃ、動かない」


短く息を吐く。


「作るだけじゃ、足りない」


一拍。


「……回す側がいる」


ヘインの言葉が重なる。


私は、前を見た。


ルークが短く息を吐く。


「寄り道にしちゃ、収穫はデカいな」


レオンが一歩前に出る。


「急ぎましょう」


「アイリー様の任命式まで、あと数日です」


「ベルグに寄った後、王都へ戻る必要があります」


私は頷く。


「アイシャたちが元気か顔が見たいし、時間がないね。レオン、馬車の手配お願いできる?」


「はい、すぐに手配します」


私はポケットの中の紙に、そっと触れた。


「……行こう」


小さく呟く。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


少しでも楽しんでいただけたなら、

ブックマークや応援で支えていただけると嬉しいです。


これからも丁寧に物語を紡いでいきます。

引き続きよろしくお願いいたします。

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